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ロザリアは突然のオリヴィエとの再会に戸惑いを隠せなかった。
オリヴィエの方も同じような気持ちだったが、彼は自分の中に甘い思いがいっぱいに広がっていくのがよくわかった。

「王女様・・・。」
「オリヴィエ様・・・。」

互いの名前がつい零れてしまった。
互いの目を離すことが出来なくてオリヴィエは吸い寄せられるようにロザリアへと近づいていった。
そっと伸ばした指先がロザリアの髪に触れた。
ロザリアはビクッと身をちじめ、オリヴィエからまたもや逃れようとした。
だが今度はオリヴィエはそれを許さなかった。
とっさに掴んだ腕を引き寄せ強引にくちづけた。
あまりの展開に目を丸くするロザリアを思いっきり抱きしめた。

「王女様。逃げないで・・・。」

切なく哀しそうなオリヴィエの呟きにロザリアの胸が高鳴った。
そっとオリヴィエを見上げるとそこにはいまにも崩れそうな切ない瞳があった。
どうしてこの人はこんなにも自分の心を揺さぶるのか。
ロザリアは自分がルヴァのことを思っていたことも忘れてしまいそうになるくらい、オリヴィエの存在が心の大半を占めてしまったこと感じずに入られなかった。
オリヴィエはロザリアを抱きしめながら思った。
いつも泣いているロザリアの微笑みになりたいと強く思ったことを。
最初の謁見の時に見せた華やかな笑顔を見たい。
でもいつも彼女と出会うと泣いている。
そして彼女を癒したいと思っていてもロザリアはいつも自分の元からまるで小鳥のように飛び去ってしまう。
振り向いてくれない寂しさは母に省みられなかったことを彷彿とさせて、オリヴィエの心を傷つける。
いくら自分が思っていても母は自分に振り向いてはくれない。
その思いがオリヴィエの中でロザリアに対する激しい恋心に発展させていた。

 


そしてロザリアはオリヴィエが実は寂しい人なのかもしてないと今思い始めていた。
オリヴィエの一見華やかに見えるその格好も、男らしからぬ言葉ずかいも彼のカモフラージュなのではと感じ始めていた。
その寂しさと外見のアンバランスなところにロザリアは強く惹きつけられたのかもしれないと思った。
優しくて寂しいオリヴィエの心をロザリアは受け止めてやりたいと思った。
彼の寂しさがそれで消えるのならうれしいと素直に感じることが出来た。
自分がさっきまで思い悩んでいたことがまるで嘘のように感じられた。
結局自分がルヴァに対して抱いていた感情は憧れだったのだろう。
現にルヴァが自分に興味がないと感じてからロザリアの情熱も萎えてしまっていたのだから。
こんな短い間でこんなにも惹かれてしまう相手こそ運命の人だと言えるのかもしれないとロザリアは思った。

「オリヴィエ様。苦しいですわ。」

ロザリアは離したくなくてしっかり抱きしめているオリヴィエに優しく言った。
オリヴィエは自分がしてしまった行動に気がついて慌ててロザリアを解放した。

「ごめん。王女様。あたしどうかしてたね。ただあんたを見たらつい抱きしめちゃったんだ。ほんとにごめん。」

怯えるような切なそうな瞳で話すオリヴィエを今度はロザリアが抱きしめた。
ロザリアの突然の抱擁にオリヴィエは驚いた。

「オリヴィエ様。私、あなたにどうしょうも無く惹かれてるんです。私をいつも慰めてくれたけど、今度は私があなたを慰めたいの。」

ロザリアの少し恥ずかしそうな言葉にオリヴィエは思わずロザリアを抱きしめ返していた。
なんとも言えない暖かさをオリヴィエは感じていた。
人から愛されることはオリヴィエにとって最も渇望していた望みだった。
そしてそれを今、手に入れた。

 

「これ待ちなさい!ゼフェル。」

しっかり抱きしめ会ったロザリアとオリヴィエのいる中庭に面した渡り廊下を誰かが通った。
聞き覚えの有る声にロザリアが振り向く。

「ルヴァ様?」
「ああロザリア王女ご機嫌いかがですか?」

ロザリアは不思議とルヴァを見ても、そしてオリヴィエと抱き合っていてるところを見られても苦痛を感じなかった。
今は落ち着いた気持ちでルヴァを見ることが出来た。
そしてそのことはやはり自分にとってのルヴァの存在は憧れだったのだと確信できた。
微笑を返してロザリアはルヴァに話しかけることが出来た。

「今日はなんのご用でしたの?」
「いやお恥ずかしいのですが、義弟を陛下におめどうりさせていただこうと思って連れて来たのですが何しろ天邪鬼な弟なのでてこずっているところです。はァ。」

そう言うとルヴァはまたどこかに消え失せた弟を探していってしまった。

 

その間にオリヴィエの興奮は収まり本来の目的を思い出した。
オスカーの恋人を後宮に上げるといっている王に直談判をするつもりだった。
オスカーを救う代わりに自分を処罰してもらおうと言うものだった。

「そういえが私も陛下に用があったんだわ。」

おもむろに呟いたオリヴィエの声にロザリアは振り返った。

「お兄様に?」
「ええ。オスカーの恋路を邪魔しないように直談判しなくちゃ。」

オリヴィエの答えにロザリアも本来の目的を思い出した。
そしてオスカーがこの恋を遊びだと思っていないことが窺い知れた。

「オリヴィエ様。今のお兄様に言っても無駄ですわ。もう直談判ならもう私がいたしましたわよ。私もアンジェを救いたかったんですもの。」

オリヴィエはロザリアの返事に驚いた。
ロザリアもオスカーとその恋人のために働いていたとは思わなかったからだ。
そしてロザリアの言うとおりなら今王に直談判しても無駄だろう。
考え込むオリヴィエをロザリアはうれしそうに眺めた。

「オリヴィエ様。オスカーがアンジェのことを大切だと思っていてくれてうれしいわ。・・・解かりました。お兄様のことは私に任せてください。あなたはオスカーとアンジェが幸せになれるように力を貸してあげて。」

オリヴィエは聡明で友達思いの王女の性格の一端を垣間見てうれしく思った。

「わかったわ。こちらはあたしに任せて。」

そして二人は再び熱い抱擁を交わしてその場は別れた。

 

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