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王立学習館。
貴族の子弟が、成人するまで学問を教えるために設立された施設だ。

「おい君がマルセル・ド・アメジスかい?」

急に背後から声を掛けられてマルセルはびっくりしたように振り向いた。
そこには癖のある栗色の髪に青空のような澄み渡った青い瞳が気力にあふれたように輝くマルセルよりも3、4歳年上の少年が立っていた。

「え、そうだけどあなたは誰?」

訝しげに問いただすマルセルに、その少年は晴れやかな笑顔を向けた。

「俺?俺はランディ・ド・フレイアス。名前ぐらい知ってるだろ?」

フレイアスと聞いて目を丸くするマルセルに屈託無く笑いかけるランディにマルセルは呆気に取られた。

「こんなとこで話しかけても大丈夫なのランディ?」

誰か自分達に注目していないかマルセルが辺りを見まわした。

「そんなこと気にすること無いさ。だって俺と君の間に敵対感情なんてあるかい?今日初めて会ったのにさ。」

どこまでもあっけらかんとしたランディの態度にマルセルも好感を持ち始めて笑顔を見せた。

「そうだね。別に僕は君のこと嫌いじゃないよ。」
「そうだろ?いがみ合うのは大人だけで十分さ。」

ランディはそう言うとまた笑った。
釣られてマルセルも笑う。

「ところで、俺が君に声をかけたわけがわかるかい?」
「・・・?」

首を傾げるマルセルにランディはマルセルの耳に口を近づけて呟いた。

「君の姉上と、俺の兄上のことだよ。」

マルセルはパッとランディから身を離した。
そしてランディが言わんとしていることを見極めようとランディの顔をじっと凝視した。

「ハハハ。そんなに構えるなよ。俺は君の姉上と俺の兄上のことを認めてるんだよ。君は反対だったのかい?」

明るい口調で語るランディの言葉にマルセルはホッと肩の力を抜いた。

「いいや。姉上の幸せは僕の幸せさ。」
「じゃあ話は早いな。君は知ってると思うけど、君の姉上は事もあろうに陛下の思われ人だ。陛下の一の臣である兄上は本来なら君の姉上のことをあきらめなきゃならないんだけど、今度の兄上は本気らしい。君の姉上を手に入れるために兄上は陛下に逆らうつもりなんだ。ここまで兄上を本気にさせた君の姉上には敬意を払うけど、フレイアスのためにも、アメジスのためにも兄上の無謀な行動はありがたくないだろ?だから僕達が二人の掛け橋になろうと思うんだ。どうだいいいアイディアだろ?」

目を輝かせて熱く語るランディにマルセルは圧倒されてうんうんうなずく事しか出来なかった。
ランディは自分の意見に賛同してくれたのだと思って満面の笑みを見せた。

「じゃあ最初の伝言だよ。兄上はこれを君の姉上に渡して欲しいってさ。そしてこっちの手紙は俺のもう一人の兄からの手紙だよ。これも君の姉上に頼むよ。」

ランディが差し出した手紙をマルセルが受け取るとランディは最後まで明るく去っていった。

 

アンジェリークはクラヴィスが決定を下すまで自室にこもっていた。
そして今手元にはマルセルから届けられたオスカーからの手紙。

(アンジェリーク。愛しい君に会えないのは心が壊れてしまうかと思うほど切ない。君も同じ気持ちでいてくれるだろうか?アンジェリーク。君がどんなに陛下に思われていようとも、俺は君を渡すことなど出来はしない。必ず迎えに行くよ。また君をこの腕に掻き抱くまで俺は戦うつもりだ。どうかそれまで待っていてくれ。君を心から愛しているよ。俺の心はいつまでも君だけのものだ。

愛しいアンジェリークへ君のオスカーより愛を込めて。)

アンジェリークはキュッと愛しい人からの手紙を抱きしめた。
ひとしきり余韻に浸ったアンジェリークはテーブルに置かれたもうひとつの手紙に目をやった。
差出人はオスカーの義兄、オリヴィエだ。
オリヴィエの存在はオスカーから聞いていた。
ちょっと変わった人らしいが、オスカーの最も信頼している兄だという。
そのオリヴィエからの手紙を恐る恐る手にとってみた。
少しだけ手が震えているのがわかった。
二人のことを反対しているのではないかと思えてアンジェリークの表情はくもっていた。

(初めて御手紙いたします。アンジェリーク嬢。オスカーを愛してくださって兄として御礼を申し上げます。オスカーは私の最も愛する弟。その弟の幸せが私の最も望むことであります。ですからあなた達のことを祝福したいのですが、あなたが陛下の思い人である限り、オスカーを公にあなたの恋人として公表できないことはお解かりいただけることと思います。ですがあなた達の仲を裂くつもりは有りません。私はあなたの親友であるロザリア王女の協力を得ることが出来ました。ですから私達に任せて頂けないでしょうか。私はオスカーにこのフレイアスを無事渡したいのです。そのためならどんなことでもするでしょう。ですから2人で無謀な行動には絶対出ないでください。オスカーはきっとあなたを手に入れるためなら命も投げ出してしまうでしょう。それだけは防ぎたいのです。私の弟を失わせないでください。それだけを今あなたに伝えたかったのです。くれぐれも無謀な行動は避けてください。お願いいたします。

             オリヴィエ・ド・フレイアス。)

アンジェリークは手紙を読み終えて胸が熱くなった。
こんなにも自分達は思われている。
それがこの手紙ではっきりとわかった。
この人達を裏切ることは出来ない。
アンジェリークは硬く決意した。

 

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