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ロザリアはこの舞踏会にぜひともきてほしい人がいた。
兄がどう思っているが知らないけれどもロザリアが今1番気になっている人物だった。
彼の名はルヴァ・ド・ライブラ伯爵だった。
彼はロザリアとアンジェリークの教官でもあった。
ロザリアはアンジェリークとともに彼の教えを受けているうちに彼の博識、そして優しさに惹かれるようになった。
彼が伯爵であるということを除けばきっと兄も彼のことを認めるだろう。
兄が自分をオスカーとくっつけようとしていることは薄薄感じていたのでこのままいけばルヴァに思いを打ち明けることも出来ない。
だから今日のこの舞踏会でルヴァに思いを打ち明けたかった。
だからロザリアは今日どうしてもこの舞踏会にルヴァに来てほしかった。

オリヴィエは舞踏会の会場の隅にたたずみそこから人々の様子をうかがっていた。
貴婦人、紳士達はダンスを踊ったり、体を寄せ合いなにやら甘い会話を交し合ったり、または噂話に興じたりしていた。
そして皆楽しそうである。
たとえそれが偽りの微笑であっても。
オリヴィエは深い溜息をつく、自分にはこの場所を好きになれないらしい。
華やかな格好はしていても、彼の心は孤独だった。
いつもうわべだけ楽しそうに、うれしそうに見せているだけで、本当の自分は誰かに愛されたくて泣いている。
母はいつたずねてくるとも知れない父を待っていつも泣いていた。
その母を哀しませたくなくて彼はいつのまにか偽りの自分を演じなければならなかった。
でも不思議と父を恨む気にはなれなかった。
父は本当に自分を愛してくれた。
そしてそれは今も変わらない。
父が母のことを愛しているのか?と聞かれるとそれはわからなかった。
父は正妻をこよなく愛していたからだ。
それなのに母との関係を続けたのはどうやら償いのためらしかった。
父は母に昔償いきれないほどの何かがあったようだ。
母はずっと父のことが好きで婚約者のあった父に強引に愛人関係を迫ったらしい。
父は断りきれず母との間に自分を作ったのだった。
そのために母は自分を愛すると言うよりも父だけを愛していて自分はいつも孤独だったのだ。


オスカーにあったのは10歳のときだった。
父に公爵家に連れていってもらったときだった。
オスカーはまるで燃えるような髪と凍るような瞳を持つかなり強烈な印象の少年だった。
弟だと紹介されたとき、オスカーはそのアイスブルーの瞳でまっすぐ自分を見つめ、次にこぼれんばかりの笑顔で右手を差し出してきた。

「俺に兄貴がいたとはな。よろしく!兄上!」

その友好的な挨拶に面食らってどぎまぎしていた自分を今度は手を取って家の中を案内してくれた。

「で、いつこの家に来てくれるんだ?兄上。」
「え?私がこの家に?」
「だって俺の兄上なんだから当然じゃないか。この家は兄上の家なんだぜ。」

オスカーには自分が妾の子だと言うことが気にならないらしかった。
それからだオスカーを大切な弟だと思うようになったのは。
無条件に愛してくれる自分の家族。
孤独を救ってくれた大切な弟だ。
この弟のためになることならなんでもしよう。
それがオリヴィエのこれまでの、そしてこれからの決意だった。

 

ロザリアはルヴァが現れるのをずっと待っていたが彼は一向に現れなかった。
もともと社交家ではない人なのでそんなこともあろうかと思ってはいたが、やはりショックは隠し切れなかった。

「教え子の誕生日に顔を出さないなんてあんまりだわ。」

ロザリアはもう泣き出しそうな気分だった。
でも兄の横で泣いたりしたら要らぬ誤解を受けてしまいそうだったので、彼女は踊りに行く振りをして席を離れた。
そして人ごみにまみれながらようやく誰もいないテラスへ抜けることが出来た。
外の空気はちょぴり冷たかったが彼女の気持ちを慰めるにはちょうどよかった。
ここなら泣いても誰にも見られない。
そう思うとこらえていた涙がそのアメジスト色の瞳にあふれてきた。

「ルヴァ様のばか・・・。」

ロザリアはとめどなくあふれる涙を隠すことなく思いっきり泣いた。

「誰?そこで泣いてるのは。」

しばらくして不意に声をかけらたロザリアは驚いて振り向いた。
そこには先ほどオスカーに連れられて現れた従兄弟だと言うオリヴィエが立っていた。

「あら。王女様じゃないのどうしたのこんなところで泣いたりして。」

先ほどなんだかわからないけれどもロザリアの心を捕らえた瞳が心配そうに見つめた。
ロザリアはばつの悪いところを見られてしまい顔から火が出るくらい恥ずかしかった。
涙で濡れた顔を真っ赤にして恥ずかしがっている王女にオリヴィエは言い知れない魅力を感じた。

「王女様って可愛らしいところがあるのね。こんな人気の無いところでおセンチに泣いてるなんて。」
「だ・誰がおセンチなの!無礼だわ!」
「あらごめんなさいね。でもこんなとこで泣いてちゃだめよ。何があったか知らないけど王女様はそんなに美人なんだから綺麗な顔が台無しになちゃうでしょ?さあもう泣かないで。」

ロザリアは不思議な気分だった。
オリヴィエの瞳を見ているとなんともいえない優しい気持ちが伝わってくる。
見た目の派手さとは違う何か内面で光る柔らかな光りが彼の瞳にはあふれている。
なんだかその光に包まれてしまいたくなる自分に驚いてロザリアは慌ててホールに向かって走り出した。
彼は何か自分を惹きつける存在だと感じてロザリアは狼狽していた。
ルヴァだけを好きでいたはずなのに今日あったばかりのオリヴィエに心惹かれるなんて自分はおかしくなってしまったのだろうか?
彼に近づいちゃ行けない。
ロザリアの中で警鐘が鳴り響いていた。

 

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