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次の日のルヴァの教えを受けるためにアンジェリークとロザリアは王室の一室でルヴァがやってくるの待っていた。
ロザリアは昨日の舞踏会にルヴァが来てくれなかったことが気分を重くしていた。
そしてアンジェリークはオスカーに婚約を知られたことが気がかりでやはり気分が重くなっていた。
二人は申し合わせたように深い溜息をついた。
そしてお互いに顔見合わせ不思議そうにお互いを眺めた。
先に口を開いたのはロザリアだった。「アンジェ。あんたはいったい何を悩んでるの?」
「王女様はいったい何を悩んでるの?」
「あんた私が誰のこと好きなのかわかる?」ロザリアの質問にアンジェリークは一瞬考えるような表情を見せたがすぐに何か思いあたったようだ。
「王女様の好きな人ってもしかしてルヴァ様?」
「嘘!どうしてわかっちゃったの?」
「だって私たち親友でしょう?見ていればわかりますよ」ロザリアはアンジェリークの答えにびっくりしたように目を見開いていたがすぐにくすくすと笑いだした。
「あんたにはかなわないわ。そうよあたしルヴァ様が好きなの。でもお兄様は私を従兄のオスカーとくっつけようとしているのよ。」
アンジェリークはオスカーの名がでて心臓が飛び出すかと思うほど驚いた。
「オスカー様と?でも王女様はオスカー様のことが好きじゃないの?」
「オスカーは嫌いじゃないけど私はルヴァ様が好きなんだものオスカーと結婚するなんて絶対いや。」
「よかった…。」安堵の声を出してしまったアンジェリークをロザリアは見逃さなかった。
「何よ。あんたったらオスカーのことが好きなの?」
「えっ!やだまだあったばかりなのにそんなこと。」顔を真っ赤にしててれているその様子がロザリアに対する答えになっていた。
ロザリアはオスカーを好きになってしまった親友のこれからの苦労を思って心配顔になった。「アンジェ、あんたわかってると思うけどオスカーってものすごいプレイボーイよ。それにライバルも大勢いるわよ。」
「それも気掛かりなんだけど、それよりももっとすごい障害が私にはあるの。」思い出したようにまた大きな溜息をついたアンジェリークを見てロザリアは訝しげにアンジェリークの顔をのぞきこんだ。
「私のお兄様が勝手にあたしをアクアノール伯爵と婚約させちゃったの。ひどいでしょう!私の気持ちなんて全く無視しちゃって、私はオスカー様のことが…。婚約してるってことオスカー様に知られちゃったし…。」
アンジェリークの瞳がみるみるうちに涙で潤んできた。
婚約したと聞いてロザリアは驚いた。
それに兄と言う言葉を聞いてロザリアは自分の兄の言葉を思い出した。
そうだ、兄はアンジェリークを女王に適任か聞いていたではないか。
兄王もアンジェリークを狙っているのだ。
アクアノール伯爵と兄王。
勝負の方は権力の違いからわかりきっているが、アンジェリークの気持ちはオスカーにある。
これは大変なことになりそうだと自分のことはさておき心配になってきたロザリアだった。「で、オスカーはあんたのこと好きなの?」
「そんなの解からないわよ。だって昨日初めてあったんだもの。」
「は?初めて会ったのぉオスカーに?それであなたったらもうそんなにオスカーのこと好きになっちゃうなんて・・・。意外と惚れっぽいのね。」
「もうほっといて。運命感じちゃったんだもの。仕方ないでしょ。」アンジェは涙目のままプッと膨れた。
ロザリアはまたくすくすと笑うとアンジェリークの背中をぽんと叩いた。「わかったわ。協力するわ。あんたは私よりなんだか大変な立場にいるみたいだから。」
ロザリアがそう言ったとたん部屋のドアが開いてお待ちかねのルヴァが入ってきた。
ルヴァは悩んでいた。
ルヴァには弟がいる。
だがその弟との血のつながりはない。
弟は父の再婚相手の連れ子だったからだ。
父は最近再婚をして、それを機にルヴァに家督を譲って義母と一緒に田舎に引っ込んでしまった。
屋敷には当主となった自分と義弟のゼフェルが残った。
ゼフェルは少々天邪鬼な少年で、ルヴァの手を煩わせていた。
昨日も新しい弟として王に目通りさせようと思って舞踏会に行く準備をしていたが、直前になってゼフェルが行くのを激しく嫌がったため急遽取りやめたのであった。
ルヴァには彼をどう扱っていいのやらさっぱり解からなかった。
ルヴァには今まで兄弟がいなかった。
母は早くに亡くなり、父と二人っきりの生活だった。
それはそれで仕方の無いことだったが、この年になって、弟が出来たことはルヴァにとって大変うれしいことだった。
それなのにゼフェルはなかなか心を開かなかった。
何が気に入らないのかもルヴァにはさっぱり見当がつかない。
だからルヴァは今、他のことに目配りが行く状況ではなかった。
ロザリアはルヴァが当然昨日来なかったことを謝って訳を話してくれるだろうと思っていた。
それなのにルヴァの口から謝罪どころかその理由さえも語られることは無かった。
いつものように講義を始めたルヴァにロザリアはひどく失望し、そしてそれは深い哀しみとなって彼女を包んだ。「私の誕生日でしたのに・・・」
ロザリアの呟きにアンジェリークが気づき王女を見ると、彼女の目からは涙があふれてきていた。
驚いたアンジェリークはそっとロザリアにたずねた。「ねぇどうしたの王女様。」
その言葉を皮切りにロザリアはスクリと立ちあがり、涙をこぼして訴えた。
「ルヴァ様!ひどいですわ!昨日は私の誕生日でしたのにおいでにならなかった。それなのに私の前に現れて何もおしゃらないなんて!あんまりですわ!」
激しい抗議を訴えるとロザリアは今始まったばかりの講義を放り出して部屋から飛び出してしまった。
面食らったのはルヴァだった。
なぜ王女はあんなにも怒っているのかよくわからなかった。「どうしたんでしょうねぇ王女様は・・・。」
困惑気味のルヴァに向かって今度はアンジェリークが抗議の声をあげた。
「ルヴァ様!昨日舞踏会にいらっしゃらなかったんですか?!」
「はい・・・。でもそれがどうして・・・。」
「ルヴァ様ったらにぶちん!王女様可哀想だわ!」
そう言ってアンジェリークはロザリアの後を追って部屋から飛び出していった。
アンジェリークまでもが怒り出してしまってルヴァはますます困惑してしまった。
一体何が起こっているのかルヴァにはさっぱり解からない。
ゼフェルといい王女といいルヴァはわからないことばかりでもう何をどうすればこの迷宮から開放されるのかそのことで頭の中がいっぱいになってしまった。
アンジェリークはロザリアを追って宮殿の中を探し回っていた。
だが何処に言ってしまったのか王女の姿は何処にも見当らなかった。
途方にくれて中庭の噴水の腰掛けた。
綺麗な水音がアンジェリークの心を落ち着けた。「ほんとにルヴァ様ったら鈍いんだから。」
独り言を呟くとアンジェリークは今かなり傷ついているであろう王女のことを思って溜息をついた。
「お嬢ちゃん。何を溜息なんかついてるんだい。」
不意に背後から声を掛けられてアンジェリークは驚いて立ちあがった。
そしてそっと振り向いて見るとそこには忘れるはずもない運命の人、オスカーがたたずんでいた。