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オスカーはアンジェリークを見つめて妙にドキドキしている自分に驚いていた。
なぜ自分にとってこのアンジェリークだけがこのように自分をときめかせているのかはわからなかったが、でも、もうそんなことはどうでも言いと思えるほど彼女を自分のものにしたかった。
彼女のエメラルドの瞳が潤んだように自分を見つめている、もうそれだけでオスカーの気持ちは限りなく高まっていた。
でも彼女が自分のことを思っているかは別だ。
ましてや彼女はアメジス家の息女だ。
そう思うとオスカーはまだはっきりと彼女に自分の気持ちを伝えるのに躊躇していた。

「今日は婚約者殿はいないのかい?」

アンジェリークはリュミエールの事をオスカーに聞かれて激しく動揺した。
やはりオスカーは自分の婚約のことを認めて自分には関心がないのだろうか。
そう思うとアンジェリークは哀しかった。

「私今日は王女様と講義を受けてたんです。だからリュミエール様なんて関係ありません。」

目線をはずしてオスカーに答えたアンジェリークを見てオスカーは落ち着かなかった。
彼女は婚約者を愛しているんだろうか?でも今の口調はそんな感じに聞こえなかった。
なぜだろう。
自分の都合の良い様に解釈してしまいそうだとオスカーは思考をとめた。

「講義はもう終わったのか?」

話題を変えて彼女の様子をうかがう。

「いえ王女様が講義を飛び出してしまわれたので、探しに来たのですがお城は広くて見つかりませんの。」
「ロザリアはきっと見つからないよ。彼女はいつも隠れるのがうまかったからな。彼女を見つけられるのは陛下だけだろうよ。」

途方に暮れているアンジェリークを暖かな目線で見つめるオスカーはこの好機を逃すまいと思いはじめていた。
なんて彼女は美しいのか、その輝く金の髪、桜色の唇、そして秀逸なのはやはり彼女のエメラルドの瞳だ。
その瞳に見つめられると胸の中がカーッと熱くなってたまらなく彼女を抱きしめたくなってくる。
彼女のやわらかな体を抱きしめることが出来たならどんなにすばらしいことことだろう。
オスカーは自分の欲望を押さえるので精一杯だった。
そしてその思いはもう限界まで高まってきてしまった。

「君はそうしているとまるで光りの天使のようだな。」

恍惚としたオスカーの言葉を受けてアンジェリークは顔があっという間に真っ赤になっていく自分がわかった。

「いったいなにを・・・。」

真っ赤になりながらもアンジェリークはオスカーの真意がわからずに問いただした。

「お嬢ちゃん。君は魅力的だと言ってるんだよ。俺にとって君は天使に見える俺の前に天から舞い降りた天使だな。」
「そんなこと言って・・・知ってるんですよオスカー様は名うてのプレイボーイとか。皆さんにそう言ってその気にさせてるんでしょ?」

ますます真っ赤になっているアンジェリークはまともにオスカーを見ることが出来ないくらいドキドキしていた。
すねたような口調のアンジェリークの言葉を聴いてオスカーは少なくとも自分が嫌われていないことに満足した。
そして今度はアンジェリークの手をおもむろに取りその手のひらにくちづけた。

「俺は感謝してるんだ。運命と言う奴にね。君に出会えて俺はこの上も無く幸せな気分なのさ。」
「オスカー様・・・」
「君にはわからないだろうな。俺は君に出会ってから君のことが頭から離れないんだ。こんな気持ちになったのは初めてだ。君のそのエメラルドの瞳が俺を狂わせてしまったのさ。」

じっと見つめるオスカーのアイスブルーの瞳に魅せられて頭の中が真っ白になったアンジェリークには、ただ自分の激しく音を立てる心臓の鼓動だけがはっきりとしていた。

「ただ君は婚約者がいる。俺の気持ちにはこたえてくれないだろうな。それが俺には苦痛だ。」

オスカーがそう言ってアンジェリークの手を名残惜しそうに離した。
アンジェリークの顔が一気に曇る。

「私・・・。兄の言いつけでリュミエール様と・・・。」

それだけ言うのが精一杯だった。
泣きそうな声のアンジェリークの言葉にオスカーは押しとどめていた気持ちを開放させた。

「まだ出会って間も無いが君をどうしょうもなく愛してしまったんだ。君が快く思わない婚約をしているのなら俺の気持にこたえてくれるかい?君も俺と同じ気持ちだろうか?答えてくれ。」
「私もオスカー様に抱きとめられてからあなたのことが忘れられなくなってしまいました。」

瞳を潤ませるアンジェリークをオスカーは思わず抱きしめた。
思ったとうり彼女はとても柔らかかった。
そしてとても良い匂いがした。
オスカーの鼓動は早くなり、アンジェリークにもそれがわかるくらいだった。
オスカーが自分にときめいていると言う事実はアンジェリークを驚かせたが、それだけに自分と同じ気持ちでいてくれたオスカーのことがとても愛しかった。
アンジェリークはそっとオスカーの背中に手を回し、オスカーに自分の体を預けた。
アンジェリークの気持ちがはっきりとわかったことでオスカーの気持ちはさらに燃え上がり、自分の胸に顔をうずめるアンジェリークをそっと上向かせ、その桜色の唇に優しくくちづけた。
とろけるような恍惚とした気分が二人の間に流れた。
まさに自分達は運命の相手だと二人は直感していた。

 

執務をだいたい終えたジュリアスは気分転換をかねて宮中を散策していた。
ジュリアスは散策しながら昨日クラヴィスにつれられてやってきた初々しいアンジェリークの事を考えていた。
確か今日彼女はロザリアとともにルヴァの講義を受けているはずだ。
ちょっと覗いて見ようか。
そんないたずらめいた気持ちがしてジュリアスは一人ほくそえんだ。
二階の廊下をロザリア達の勉強部屋へと向かっていると、中庭を見下ろせる窓が並ぶ廊下に出た。
そして何気なく中庭の噴水に目をやるとそこには信じられない光景が広がっていた。
そこにはいつも信頼を傾け、出来ればロザリアの夫にしたいと思っていたオスカーと、今いまその美しい姿を見に行こうと心弾ませていたアンジェリークが激しく抱き合いくちづけをかわしているところだった。
ジュリアスの中で何かが壊れたような感覚に襲われた。
なぜこの二人が・・・。
そんな疑問が頭の中でこだまして、次に激しい怒りが込み上げてきた。
オスカーにアンジェリークを渡したくない。
そんな気持ちがジュリアスの心の中にふつふつと湧き上がってきた。
このままで済ますまい。
ジュリアスは硬くそう心に刻んだ。

 

その頃ロザリアは涙に暮れながら王宮のはずれ、秘密の花園にその身を隠していた。
ルヴァにとって自分など取るに足ら無い存在なのだと思い知らされてロザリアの気持ちは哀しみでいっぱいになっていた。

「ルヴァ様・・・。」

名前を呼ぶとさらに哀しみが増幅されて後から後から涙があふれてくる。
そのまま泣き崩れていると不意に誰も知らないはずの花園に踏み入った者がいた。

「また王女様なの?あなたったらいつも泣いてるのね。どうして泣いてるの?」

オリヴィエにまた声をかけられ、ロザリアは驚きを隠せなかった。

「あなた、どうしてここに?」

あまりのことにロザリアは泣くのも忘れてしまったようだった。

「あたしはちょっと迷子になちゃったのよ。」

照れくさそうに呟いたオリヴィエの答えに思わずロザリアは笑ってしまった。
笑いがと止まらないロザリアを優しげにオリヴィエは見つめ呟いた。

「笑ってる方がやっぱり綺麗だよ。王女様。」

ロザリアは今度は顔を真っ赤に染めた。

「何をおっしゃってるの?」
「あなたの笑顔が素敵だって言ってるんですよ。あなたに涙は似合わない。笑っていてください王女様?」

いつものチャラチャラした印象と違ってそのときのオリヴィエは違っていた。
そのオリヴィエの表情にロザリアは思わずときめきを感じてしまった。
いけない!この人は私を狂わせてしまう。
ロザリアの中でまた警鐘が鳴り響いた。
これ以上オリヴィエのもとにいてはいけない。
ロザリアは慌ててその場を離れようと立ちあがって去ろうとした。
その手をオリヴィエが捕らえ、ロザリアを抱きとめた。

「王女様。なぜいつも逃げるんです。私がそんなにも嫌い?」
「は・離して・・・。」

ロザリアは激しく動揺した。
オリヴィエの胸は思った以上に彼女をときめかせていたからだ。
ロザリアの拒絶に会い、オリヴィエは傷ついたようにその手を離した。
ロザリアは自分がときめいていることを知られたくなくて慌ててその場を離れて逃げ出した。
オリヴィエはその彼女が立ち去った方向をいつまでも悲しげに見つめていた。

 

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