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地の精霊ルヴァと彼に知識を伝授してもらおうと彼の元に訪れていた風、鋼、緑のアンジェリークの幼馴染の精霊たちは、この炎の精霊の真意がよくわからなかった。
「ルヴァ。アンジェリークはあんたの機嫌を損ねたと思ってひどく落ち込んでいるんだ。すまないが彼女を行って慰めてやってくれないか?」
「アンジェリークがですかぁ?一体いつ私は機嫌を損ねたのでしょうかねぇ。まあいいでしょう。このままでは彼女が気の毒ですねぇ。行って誤解を解いてきますよ。」ルヴァはなぜそんなことをこの炎の精霊はわざわざ言いに来たのかさっぱりわからなかったが、とにかくアンジェリークのために春の花園に向かうことにした。
残された幼馴染組みは不信な眼差しでオスカーをにらみつけていた。「あんたどうゆうつもりだ?アンジェと本当の愛とかなんかを手に入れるんじゃなかったのかよ!」
最初に口火を切ったのはゼフェルだった。
彼はその赤い瞳に挑戦的な色をちらつかせながらオスカーをにらみつけている。「アンジェの好きな人ってルヴァだったのか?それじゃあなんでアンジェとルヴァの取り持ちをあんたがやってるんだ?」
次に質問を投げかけたのはランディだった。
彼はしきりに首を傾げていた。「アンジェのことやっぱり本気じゃなかったんだ。」
非難の声をあげたのはマルセルだった。
三人のようようの言葉にオスカーは思わず苦笑した。
本当にこの少年達はアンジェリークのナイトなのだなと思うとなんとなくほほえましくもあった。「坊や達にはわからないと思うが、俺は基本的には彼女を誰にも渡したくない。別にあきらめたわけじゃない。でも彼女が哀しむのは見ていられないんだ。だから彼女が喜ぶことをしてるだけだよ。」
オスカーはそれだけ言うと片手を挙げて挨拶して、用の無くなったこの場を足早に去っていった。
「ねえ。どう思う?」
残された少年達の中からマルセルが上目づかいで不信そうに眉をひそめながら二人の友人に問い掛けた。
「おっさん頭おかしくなっちまったんじゃねぇか?俺だったら絶対取り持ちなんてしないぜ!」
ゼフェルはいらただしそうに吐き捨てた。
ランディはうなずきながらも考え込むようにうつむくと「でもアンジェが哀しむのを見たくないってのは解かる気がするよ。俺だってアンジェが失恋して泣くのは見たくない。」
というと、マルセルは空を見上げるように、
「じゃあ、あの人ほんとにアンジェのこと好きになっちゃったのかな?」
と呟いた。
「冗談じゃねぇ!あんな野郎にアンジェを渡せるかって!アンジェはこれからもずっと俺達のもんだ!」
ゼフェルの言葉にマルセルが小さく笑った。
「俺達じゃなくて俺のだろ。」
「な!なにいってんだ!ばか!」真っ赤になってるゼフェルにマルセルはまた笑った。
「隠さなくったていいよ。ゼフェルがアンジェのこと好きなのは知ってるもん。僕達だって同じだよ。」
ぶつぶつ文句を言っているゼフェルの横でランディは笑いをこらえながら心の中でオスカーの事を認めてもいいと思い出していた。
「とにかく彼をちょっとだけ信じてみようか。」
そう二人の幼馴染達に言ってランディはルヴァとアンジェの様子を見るために二人を伴って春の花園に急いだ。
オスカーはアンジェリークが突然現れたルヴァからの優しい言葉に頬を染め幸せそうに微笑む姿を遠くから切なく眺めていた。
アンジェリークが微笑む姿はオスカーを至上の喜びに導いてくれるが、それと同時に自分には向けられることの無いその笑顔を思うとたまらなく苦しく切ない思いに胸を焦がさなければならなかった。「お嬢ちゃんの言ったことは本当だったな。くるしいもんだな愛ってのは。」
一人自分の愚かさを笑ってオスカーはまだ彼女の至上の笑みを見つづけていた。
アンジェリークはルヴァが自分が思っていたこととは違って、知識の森での出来事をまるで気にしていなかったことに安堵していた。
ルヴァは優しくアンジェリークに微笑み、また何処か今度はアンジェリークの気に入っているところへ行こうと誘ってくれもした。
アンジェリークはまさに今幸せの絶頂だった。「アンジェリーク。あなたがまた元気になってよかったですよぉ。これはあの精霊に感謝しなくてはいけませんねぇ。」
「あの精霊?」アンジェリークは不思議そうに小首をかしげる。
「ええ。そうですよ。たしかオスカーとか言いましたかねぇ。彼が私に教えてくれたのです。あなたが誤解していることを。」
アンジェリークはオスカーが言っていた何とかしてやるの意味がわかって驚いていた。
なぜ彼は自分のためにそうまでしてくれるのか皆目わからなかった。「ルヴァ様。オスカーはなぜルヴァ様にそんなことを言ったのかしら?」
「そうですねぇ。まあ考えられることは彼はあなたのことをとても大事にしているって事ですねぇ。」アンジェリークはその答えにハッとした。
オスカーの思いに初めて合点が言ったというような感じだった。
でもそれはアンジェリークにとってはうれしいことなのか悲しいことなのか彼女にはわからなかった。
ルヴァとこうして会えることは本当にうれしい、でもその影で自分のためだけに尽くしてくれようとするオスカーが哀しい思いをするのはなんだか切なかった。
今、そのことが解かってこうして愛しいルヴァに会っているというのにアンジェリークの心はなんだか悪いことをしているような気持ちにさせられてしまうのだった。