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ランディ達アンジェリークのナイト達は、花園の端でしゃがんでアンジェリークに気づかれないようにアンジェリークとルヴァを盗み見ていた。
二人の仲睦まじそうな様子にゼフェルは歯噛みした。「あー!それ以上アンジェに近寄るんじゃねぇよ!」
気づかれないように呟きながらも今にも飛び掛らんばかりの形相だった。
そんなゼフェルの様子を溜息交じりにマルセルは見ていた。
そしてふと顔を上げると、花園の向こう側にある大木の枝で腰掛けながらアンジェリークを切なげに見つめるオスカーが目に入った。「ねえ!あそこ見てよ!炎の精霊だよ。」
マルセルはあとの二人にオスカーの存在を告げた。
「本当だ。彼はああやっていつもアンジェの幸せを確認してるのかなぁ?」
なんだか気の毒そうにランディが言うとゼフェルはイライラしたように毒づいた。
「バカだよ!おっさんはさぁ悔しくないのかぁルヴァにアンジェを取られても!」
「それがあの人の愛し方なんだよ。きっと。」ランディはもうオスカーがアンジェリークにとって害を成すものとは思ってはいなかった。
それよりもむしろ自分の幸せよりアンジェリークの幸せを優先しているオスカーに信頼を持ち始めていた。
もし今の彼をアンジェリークが好きなら彼にアンジェリークを譲ってもいいと思い始めていたのだ。
そんなランディの変化をマルセルは敏感に感じて、彼は思わず微笑んでいた。(ランディらしいなぁ。ほんと人がいいんだから。)
とにかく今はオスカーの存在はアンジェリークにとって悪いものではなさそうだとマルセルも考えを改めた。
そんな一件があってからもオスカーは毎日アンジェリークの元を訪れ、アンジェリークの喜ぶと思うことをしつづけた。
それは時には見た事も無いようなすばらしい花束だったり、素敵な衣装だったり、きれいなアクセサリーだったり、そしてルヴァとさりげなく会わせてくれたりした。
アンジェリークはオスカーの誠意がだんだん苦しくなっていった。
特にオスカーがルヴァと自分との間を取り持ってくれたときは胸が痛んだ。
オスカーのおかげでルヴァとの仲は格段に進歩していたが、それが何故かアンジェリークには苦痛になり始めていたのだった。
オスカーが自分を愛しているのが解かるほど、このままルヴァとの関係が進めば必然的にオスカーは自分の前から消えてしまうのだろう。
それを思うとなんだか哀しかった。
ルヴァを好きなことは間違いない思いだったが、オスカーに対するこの感情はどう説明していいのかわからなかった。
「やあ!お嬢ちゃん。何か考え事か?」
オスカーの事を考えていたアンジェリークは突然そのオスカーから声をかけられてはじかれるように驚いた。
「びっくりした!急に声をかけないでよぅ。」
「うん?それは悪かったな。驚かせちまったかな?」屈託無く笑うオスカーの顔を見てアンジェリークは何故か胸が熱くなった。
思わずときめいてしまった自分自信にアンジェリークは驚きを隠せないでいた。
なんだか様子のおかしいアンジェリークを見てオスカーはまさかまた彼女に何かよからぬことでもあったのだろうかと不安になった。
オスカーはアンジェリークを思いやるように頬に手をやった。
その手のぬくもりに思わずアンジェリークはオスカーを熱い思いのこもった潤んだ瞳で見つめてしまった。
その瞳に今度はオスカーが驚く番だった。
アンジェリークのその瞳にオスカーの胸は急激に燃え上がった。
そしてアンジェリークの顎に手をかけて上を向かせるとその桜色のつややかな唇に唇を重ねた。
そのやわらかな感触にオスカーは震えた。
アンジェリークは恍惚の中に身をゆだねていたが突然我に返り自分がしていることの意味を理解したとき驚きのあまりオスカーを突き飛ばしてしまった。「ご・ごめんなさい・・。」
アンジェリークは動揺しながらオスカーに謝ると一目散にその場から逃げていった。
オスカーは今起こった夢のような出来事にまだ心を奪われていた。
そっと唇に触れるとまだ彼女のやわらかな感触が残っている。
オスカーはまるで電気に打たれでもしたかのように体が痺れて言うことを聞かなかった。
アンジェリークとのくちづけはオスカーの思考を停止させ、ただただその胸を熱くたぎらせた。
もうオスカーは彼女以外のことは考えられなくなってしまったかのようだった。
逃げ出したアンジェリークは自分が犯した出来事を信じられない思いで一杯だった。
なぜオスカーのキスを拒まなかったのか。
そればかりか彼に思いっきり抱きしめてほしいとまで思ってしまった。
自分はルヴァが好きなはずだ。
それはやはり依然として自分の中で変わらない位置でありつづけている。
それなのになぜ。
アンジェリークは混乱の中で森に入り込み、突然人とぶつかった。「ああ!アンジェリークじゃあ、ありませんか?」
「ル・ルヴァ様?」
「よかった。私は今からあなたに会いに行こうとしていたのです。どうしても伝えなければならないことがあるんです。」ルヴァの言葉にアンジェリークは戸惑っていた。
ルヴァはいつもよりなんだか照れたような表情で、彼女を熱く見つめた。
そして決心を固めたように咳をひとつすると「私はあなたのことがどうやら好きになってしまったようです。私の恋人に・・・なってはもらえないでしょうか?」
と顔を真っ赤にして告白した。
アンジェリークにとってそれは待ち望んでいたことだったはずだった。