12

アンジェリークとのくちづけに酔っていたオスカーだったが、今ならアンジェリークを捕まえることが出来るかもしれないと沸き立つ思いを押さえきれずにアンジェリークの後を追ってこの森にやってきた。
そこで見たものはルヴァがアンジェリークに告白しているところだった。
オスカーの体に衝撃が走った。
アンジェリークはどう答えるのだろう。

「アンジェリーク・・・」

オスカーは思わず彼女の名を呼んだ。
アンジェリークははじかれるように振り向き、そしてオスカーが今のルヴァの言葉を聞いたことを知った。
アンジェリークは混乱していた。
私はどっちが好きなの?
どっち?なぜどっちなんて言葉が出てくるの。
私が好きなのはルヴァ様のはずよ。
そうよオスカーの事なんて好きじゃないわ!
そう戸惑いながらもアンジェリークは心を決めるとルヴァのほうに向き直った。
横目でオスカーを気にしながらアンジェリークはルヴァにはっきりと返事を返した。

「はい。私もルヴァ様が好きです。」

とたんにオスカーとアンジェリークの間に炎のような光りが湧き上がった。

「炎の精霊よ。真実の愛を手に入れることは出来なかったようだな。さあ大神との約束を守るときが来たようだ。」

炎のように赤い光を発しながらサラマンダーの壷はそうオスカーに告げた。

「解かっているよ。サラマンダーの壷よ。」
「幸せになれよアンジェリーク・・・君を愛してたよ。」

オスカーはそうアンジェリークに告げると哀しそうな笑みを見せたまま体がゆっくりと薄らいでサラマンダーの壷の光りに飲み込まれていった。
オスカーが消えたとたんサラマンダーの壷もまた光の中に姿を消した。
その様子をアンジェリークは声も無く見つめていた。
解かっていたはずだ。
自分がルヴァを選ぶということの意味を。
でもこうして本当にオスカーがサラマンダーの壷に封じられてしまうのを見てしまうと言い知れない悲しみと後悔が押し寄せてきた。
オスカーは最後まで自分を思って笑っていてくれた。
彼の思いやりの数々が今アンジェリークの心を駆け巡っていた。
でも自分はルヴァを選んだのだ。
オスカーを壷に閉じ込めたのはほかならぬ自分なのだ。
そう考えれば考えるほどアンジェリークの気持ちは後悔の念でさいなまれるのだった。

「どうしたのですアンジェリーク?」

ルヴァの声を聞いてもアンジェリークの心は今、目の前で起こった出来事にとらわれていた。
その様子にルヴァは深い溜息をついた。
アンジェリークが自分にした返事は真実の気持ちではなかったのだ。
そうルヴァは悟ったのだった。

[アンジェリーク自分に素直になりなさい。」

ルヴァはそう言ってアンジェリークの肩に優しく手を乗せてポンポンと叩いた。
はっとしたようにアンジェリークはルヴァを見つめたが、ルヴァは優しく微笑んだだけで彼女の元を離れていった。
後に残されたアンジェリークは自分の愚かさを呪ってその場に泣き崩れるしかなかった。

 

サラマンダーの壷は預かり主のリュミエールの元に帰っていた。
戻ってきたサラマンダーの壷を見てリュミエールは悲しげに呟いた。

「残念です。オスカーがはじめて恋をしたというのに。」
「別に残念じゃないさ。彼女が幸せならいいさ。」

壷の中からオスカーは言葉を返した。

「あなたは本当に変わられたのですね。」

リュミエールはオスカーのアンジェリークに対する思いの深さに喜びを感じて微笑を浮かべた。

「リュミエール。おまえに頼みたいことがある。」
「出来ればサラマンダーの壷をもう誰も手にすることがない場所へ隠してほしいんだ。」
「?!」

オスカーの申し入れにリュミエールは驚いた。

「なぜです。そんなことをしたらあなたはもうそこから出ることが出来なくなるのですよ。」
「そう。もう出たくないんだ。俺はアンジェリーク以外の女を愛したくはない。彼女だけでいいからもう誰にもこの壷の栓を開けてほしくないんだ。」

オスカーのアンジェリークへの思いの深さはリュミエールの想像をはるかに超えたものだった。
始めオスカーをこの壷から出したくなかったときから思うと今のリュミエールの気持ちは180度変わってしまっていた。
彼は幸せになるべきだと今は素直に思えた。
躊躇しているリュミエールの気持ちが伝わったのかオスカーはまたリュミエールに念を押した。

「変な同情はやめてくれよ。俺は彼女を知って幸せだったんだから。お願いだ俺を開放させないでくれ。」

オスカーの決意の固さを感じ取ったリュミエールは仕方なく同意するしかなかった。
こうしてサラマンダーの壷は誰の目にも触れることが決してない泉の底に隠されたのだった。

 

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