13
オスカーがサラマンダーの壷に封印されてからアンジェリークは後悔の念に苛まれ続けていた。
オスカーの事を好きになっていたことを認めたくないばっかりに意地を張ってルヴァの告白を受け入れた。
そんな愚かな自分への罰はオスカーを永遠に失うことだったのだ。
そしてきっとルヴァにも飽きられてしまったのだ。
アンジェリークは悔やんでも悔やみきれなかった。
なぜ気づかなかったのだろう。
自分がこんなにオスカーに惹かれていたことを。
いや、気がついていたのに気づかないふりをしていただけだ。
とにかくオスカーを失ったことだけは確かなことだった。
春の花園に閉じこもってしまったアンジェリークを心配して毎日かわるがわるアンジェリークナイツがやってきていた。
でもアンジェリークが彼ら達にどんなに慰められても立ち直ることは無かった。
とうとう万策尽きた彼らは彼女の親友でもある純潔の女神に頼み込むことにした。「お願いです。アンジェを助けてやってください。もうあなたしか頼る人が俺達にはいないんです。」
「アンジェの様子はそんなにひどいの?」ランディの話を聞いて眉間にしわを寄せながら女神がたずねた。
「ええ。自分を責めつづけているんです。炎の精霊を閉じ込めたことで。」
「それだけオスカーを愛してしまったってことなのね。」
「そうなのかもしれません。」
「わかりました。私に任せて。」引きうけてくれた女神に感謝しつつランディは女神の元を辞した。
「まずは大神様にご相談しましょう。」
女神はそう呟くとなんだかいそいそと出かけていった。
「で、どうしろというのだロザリア。」
なんだか不機嫌そうに片肘をついて大神は純潔の女神を見つめた。
「あら、ジュリアス様。オスカーに真実の恋人が現れたのですよ。喜ばしいことでしょ。」
大神の隣に腰掛けいたずらっぽく見つめる女神の顔を今度は嬉しそうに大神は見つめた。
「確かに喜ばしい。だが呪いは私がかけたのだが解除は出来ない。アンジェリークには自分でサラマンダーの壷を見つけて開けなければいけないのだ。」
「まあ。融通がきか無いのね。まあいいわじゃあその壷は何処ですの?」
「リュミエールの元だろう。」その答えを聞くと女神は立ちあがり早速泉の精霊の元へ急ごうとした。
その女神の手首を大神は捉えた。
驚いて振り向く女神に「つれないね。久しぶりに私の元を訪ねてくれたというのに。」
といって熱い視線を女神に送った。
女神はくすりと笑うと大神の鼻先を指でつついた。「誰です?私を不可侵の純潔の女神に任じたのは。そのお方が私を口説かれるのは反則ですよ。」
「君を誰にも渡したくなかったんだよ。」
「存じてました。」笑顔で答える女神をまぶしく見つめながら大神は女神にくちづけた。
「こんな素敵なことをアンジェとオスカーにも分けてあげなくちゃ。そうでしょ。」
女神はそう言うと今度はちゃんと泉へとむかっていった。
泉に降臨した純潔の女神を見てリュミエールは驚いた。
「あなた様のような方が私の泉になんの用があったのでしょうか?」
リュミエールは女神に不思議そうに尋ねた。
女神は輝くばかりの笑顔を見せてリュミエールに尋ねた。「私はサラマンダーの壷をいただきに上がりましたのよ。」
にっこりと微笑む女神にリュミエールは言いにくそうにうつむいて答えた。
「申し訳ございません。実はサラマンダーの壷を私の泉の底に隠したのですが、サラマンダーの壷は炎の精霊であるオスカーをいれているせいか水の中が合わなかったので、闇の大神様にお預かりして頂いているのです。」
すまなそうにうつむくリュミエールに一瞬眉をひそめた女神だったがすぐに笑顔に戻り、
「解かりましたわ。クラヴィス様の元ですわね。」
というや否や光りに包まれて女神は消えた。
闇の大神。
彼は人里はなれた山の洞窟の中に住んでいた。
彼は鍾乳石にいるどられた美しくもあり、冷ややかな宮殿の一室で長いすのようなものに寝そべっていた。「何ようだ光りに包まれし純潔の女神よ。」
「お久しぶりですわ。クラヴィス様。」
「挨拶はよい。用件を言え。」そう言われた女神はオスカーとアンジェリークのことを話した。
「サラマンダーの壷を渡すことはできんな。」
「なぜです?」
「それが炎の精霊と春の精霊のためだ。」
「?」
「本当に春の精霊がこの男を愛しているなら春の精霊がわが元に来るがよい。それまではわたせんよ。」闇の大神の言わんとするところに気がついた女神は挨拶もそこそこ宮殿を後にした。
アンジェリークは涙で赤くはれた目を女神に向けて微笑んだ。
「ロザリア。きてくれたの?」
「あんたはバカねぇ。そんなに泣きはらして、せっかくのきれいな瞳が台無しでしょ。」力なく微笑むアンジェリークに女神は溜息を漏らす。
「ほんとに好きになちゃったのね。」
コクンとうなずくアンジェリークに女神は苦笑をもらしながら耳元に近づいた。
「良いこと教えてあげるわ。闇の大神様の宮殿にサラマンダーの壷があるのよ。あなたが本当にオスカーのことが好きならクラヴィス様の元に行きなさい。そこでもう一度壷の栓を抜くのよ。」
それを聞いたアンジェリークは目を輝かせた。
「ありがとう。ロザリア。」
女神はうれしそうに走り去るアンジェリークを微笑みながら見送った。