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春の花園にひとまず帰り着いたアンジェリークとマルセルは安堵のため息をついた。
マルセルはアンジェを花園の真中に座らせると中腰で彼女の顔を覗きこむと急に真顔でアンジェに迫った。「アンジェよく聞いて!いいかい僕がランディとゼフェルをつれてくるまでここを離れちゃだめだよ。もしさっきの赤毛の男が来たら花園に身を隠すんだよ。」
アンジェリークはごくりと唾を飲んで神妙にうなずいた。
そして、いつも自分を守ってくれている幼馴染の風の精霊のランディや鋼の精霊のゼフェルが居てくれればきっと悪魔にも負けないかもしれないと思った。
アンジェリークが自分の言い付けを守るのを確信したマルセルは早速仲間を呼びに花園を駆け出していた。
その頃、どんな台詞でアンジェリークを安心させて自分の方を振り向かせようかとうきうきしながら考えて花園に向かっているオスカーが居た。
黒を基調にした衣装に身を包み、先ほどよりも一段と男前を上げたオスカーは、アンジェリークの柔らかそうな金の髪や、さくらんぼのようにつややかな唇にキスすることを考えると自然と顔がほころんだ。「あの美しきお嬢ちゃんなら俺の最後の恋人にしても悔いは無いかな?」
オスカーは、そんな独り言を呟いては一人ご満悦だった。
そうこうしているうちに春の花園と呼ばれる場所にやってきたオスカーは辺りを見渡した。
アンジェリークはマルセルを待っている間にまたしても自分の前に現れた悪魔に驚いて比較的背の高い花が茂っている辺りでしゃがみこんでいた。
恐怖に打ち震えていたアンジェリークを花々が慰めるように揺らめくので見つかるのではないかとひやひやしてアンジェリークは小声で花々に呟いた。「だ・だめよ私は大丈夫だからユラユラゆれたりしないで!」
一生懸命花々を説得していた春の精霊は自分の近くにオスカーが来ていたことにまったく気がつかなかった。
「やあ!お嬢ちゃんまた会ったな。」
突然声をかけられてアンジェリークはびっくりして飛び上がった。
そしてそっとオスカーの方を見てオスカーを確認するとまた叫び声をあげて逃げ出そうとした。「おっと!今度は逃がさないいぜお嬢ちゃん。」
「イヤー!離して殺さないで!」
「!?」アンジェリークのこの反応にいたく傷ついたオスカーはアンジェリークを自分の方を向かせると大きくため息をついた。
「お嬢ちゃんは俺が自分を開放してくれた恩人を殺すような男に見えるって言うのか?」
落胆の色を隠すことも無くオスカーが言うとアンジェリークは落ち着きを取り戻し始めた。
そしてもう一度オスカーのことをじっくりと眺めた。
オスカーはアンジェリークが見た男の中では一番美しい男ではないかとアンジェリークには思われた。
そして、その燃えるような赤い髪と対照的な凍るようなアイスブルーの瞳に何故か圧倒されてしまった。
でもそれだからといって警戒を解いたりはしなかった。
怪訝な表情で自分を見つめつづけるアンジェリークにオスカーは驚きを隠せなかった。
オスカーにとって女は自分が見つめるだけで簡単に手に入るものだと思っていたのに彼女はいまだ自分に対して好意を持っていないようだった。
そればかりか今までどんな女も屈服させてきた極上の笑みを浮かべて見ても彼女の反応は冷たかった。
そのことはオスカーの興味を引きつけるには十分であった。
そして是が非でも落としてみたいという欲望に駆られた。
そしてアンジェリークの頬に手を伸ばして触れたかと思った瞬間激しい突風とともにアンジェリークが舞い上がった。
一体何が起こったのかわからないままオスカーはアンジェリークを探して辺りを見渡した。
アンジェリークは何故か栗毛の少年の腕に抱きかかえられていた。
突然の少年の登場にオスカーは戸惑った。
それを知ってか知らずか少年はアンジェリークをだかえたままオスカーをにらみつけ、「アンジェには手を出すな!もし言う事を聞けないのなら俺達が許さない!」
と言い放った。
よく見ると彼のほかに二人の少年がこちらをにらんでいた。