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突然現れた少年達はアンジェリークを守るように彼女を囲むとオスカーの方をにらみつけた。
その様子にオスカーはフゥーと溜息をついたかと思うと口元に好戦的な笑みを浮かべた。「姫君を守るナイト登場ってところか?坊や達。」
その何もかも燃やし尽くしてしまいそうなオスカーのその好戦的な瞳に一瞬少年達はたじろいだが、ここで引いてはアンジェリークを守れないと気力を振り絞った。
「あんただろ純潔の女神に手ぇだしたって言う馬鹿な精霊は。」
鋼の精霊のゼフェルがその真っ赤な瞳で威圧的にオスカーをにらみつけた。
そんなゼフェルの眼付けなどまったく気にせずオスカーは口の端を上げて笑った。
そして余裕の表情を浮かべて言い放った。「おいおい坊や達、この炎の精霊のオスカーにけんかを吹っかけるとはなかなか度胸があるじゃないか。でも賢くないな。俺にはおまえらじゃ勝てんよ。」
「なんだとー!おっさん言ってくれるじゃないか!勝てるか勝てないか今ここで証明してもいいんだぜ!」怒りに震えるゼフェルを見てアンジェリークは、自分のせいでゼフェルを危ない目に会わせるかもしれないと思いハラハラしていた。
そんなアンジェリークの心配を感じて風の精霊ランディはゼフェルを押さえた。「熱くなるな。アンジェが怯えてる。」
その一言でゼフェルはひとつ舌打ちをして引き下がった。
その様子にオスカーは目を細め、何か思いついたようにほくそえんだ。「炎の精霊といったなあんた。どうしてアンジェを追いまわすんだ。噂どうりあんたは女なら誰でも手に入れたくなってアンジェにちょっかいをかけてるのか?」
ランディのその問いにオスカーは考えた。
確かに珍しい反応をするアンジェリークを手に入れてみたいという征服欲は確かにある、だがアンジェリークに感じる思いはただ単に征服欲を満たしたいだけじゃない何かわからない感情がオスカーの中に芽生え始めているようにも感じられた。
とりあえず壷に戻らないためにもここはアンジェリークと本当の愛を手に入れなくてはならなかった。「坊や達。俺の事をどこまで知っているかわからないが、俺はそこの彼女と本当の愛って言うものを見つけないといけないのさ。だから邪魔をしないでほしいな。」
「本当の愛?なんだそりゃ?」ゼフェルのからかったような言葉には耳も傾けず、オスカーはアンジェリークを見つめて微笑んだ。
その極上の笑みにアンジェリークよりも三人の少年達の方がたじろいだ。(これは手ごわいぞ)
三人の少年はこの女ったらしがアンジェリークを落とすのは時間の問題だと感じた。
当のアンジェリークは本当の愛を手に入れたいといっているオスカーが気の毒に思えてきていた。「本当の愛を知らずに女の人と愛を語っていたんですか?かわいそうな人。」
アンジェリークが、やっと言葉を発したかと思ったら自分への同情の言葉だったことにオスカーは驚いた。
今まで女に不充しないオスカーをうらやましがるものはいても同情するものはいなかった。
アンジェリークの哀しげな同情の瞳にオスカーは戸惑っていた。「俺がかわいそうだって?お嬢ちゃん愛を知らないことがそんなにかわいそうなことなのか?」
「かわいそうだわ。あんなに素敵な思いを知らないなんて。」その言葉に今度は三人の少年が驚いた。
アンジェリークが恋をしたことがあるなんて三人とも知らなかった。
いつもそばについていたつもりだった三人にとってアンジェリークの恋の話は寝耳に水だったのだ。
一体いつ誰に彼女は恋をしたというのだろう。
そんな三人の気持ちなどまったく気がつくことも無く、アンジェリークはオスカーを同情的な瞳で見つめつづけた。
オスカーはそんな彼女の目線に絶えられず目をそらした。「今日のところは退散しよう。彼女に免じてね。でも次はアンジェリーク君をさらいに来るよ。」
オスカーはそう言い残して春の花園を去っていった。
オスカーは負けを意識したのは初めてだった。(不思議な乙女だな彼女は。ますます興味深い。)
オスカ−の中でアンジェリークへの思いが獲物から何かわからないものに変わってきていた。