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オスカーは自分ほどの色男などこの世界にそれほどいるもんじゃないと自負していた。
それなのに今、目の前にいるアンジェリークは自分のことには目もくれず、意中の男の自慢話をさもうれしそうにしているのがオスカーにはなんとなく腹ただしかった。
そして彼女の意中の男がもし自分より良い男ではなかったら許せない気持ちでいっぱいだった。
そんなオスカーの気も知らずにアンジェリークは頬を染めながら好きな男のことを話すのに夢中だった。「本当に素敵なんです。優しくて、気遣いが出来て、思いやりがあるんですよぉ。ちょっとポーってしてるところもあるんだけどそれがまたいいんですぅ。」
「はい、はい。そうですか。」
「あら?聞きたくないみたいですねぇ。」
「当たり前だろ!俺が一体なんでここにいると思ってるんだいお嬢ちゃん!俺は君と本当の愛を築くために君に会いにきてるんだ。それなのに他の男の話なんて聞きたくないね!」ふくれっつらのオスカーを見てアンジェリークは思わず微笑んでしまった。
その笑顔を見たオスカーはなんだか胸の高鳴りを覚えた。
アンジェリークの笑顔はまるで天使のようだった。
自分に向けられたその笑顔はなんて美しいのだろうか。
その笑顔をオスカーはずっと見ていたい衝動に駆られたが、それはすぐに消えてしまった。
なぜなら、アンジェリークがそれ以上の笑顔をきっと意中の男に向けて見せているだろう事が想像できたからだった。「なあ。お嬢ちゃん。俺のこと嫌いか?」
不意の質問にアンジェリークは戸惑った。
「そんな・・・わからないわ。だってあなたと会ってから二日しか経ってないのよ。」
「そうだよな。でも覚えておいてくれ。俺は本気だ。君を振り向かせたい。」
「・・・・。」アンジェリークの顔はこわばったままだった。
不安な表情を浮かべた彼女の顔が突然何かを見つけて複雑なものになった。
オスカーは慌てて後ろを振り返った。
そこには一組の男女が楽しそうに話をしながら歩いているのが目に入った。
もう一度オスカーはアンジェリークを見た。
彼女の表情は今にも泣き出してしまいそうだった。「あいつなのか?」
オスカーの問いにアンジェリークは涙で答えていた。
オスカーはその涙を見たとたん何か熱いものが胸に湧き上がってきて驚くアンジェリークを残して男の方に駆け出していた。
楽しそうに話をしていた男女は突然燃えるような瞳で自分達の前に現れたオスカーを不思議そうに眺めた。
「あんたそのお嬢ちゃんとどうゆう関係だ?」
突然の質問に男は頭をひねった。
この赤い髪の男になぜそんなことを聞かれるのかかいもくわから無かった。「えーあなたは誰ですぅ?」
「俺のことはいい!そのお嬢ちゃんはあんたの彼女なのか?」
「いえ彼女は友人ですよ。それより答えてくださいよ。あなたは誰ですぅ?」その答えを聞いて何故かオスカーはほっとしていた。
本当ならこの男と一緒の彼女が彼の恋人の方が自分には都合がいいとゆうのに。
そして自分がどうしてこんなことをしているのかよくわからなかった。「俺は炎の精霊オスカー。おまえは?」
「えー私ですかぁ?私は地の精霊ルヴァといいますよろしく。」彼が自己紹介したとき慌ててた様子のアンジェリークが現れた。
「オスカー!あなた一体ルヴァ様に何を言ったの!」
その口調は怒りに満ちていた。
アンジェリークのその言葉にオスカーは苦笑した。「アンジェリーク彼女は彼とは関係無いただの友人だってさ。よかったな。」
「え!や・やだ。何言ってるのよ!」意中の人を前にしてアンジェリークは顔を赤らめた。
そしてそっとルヴァの顔を盗み見た。
ルヴァは一体なんの話をしているのかさっぱりわからないといった表情でオスカーとアンジェリークを交互に眺めた。
オスカーはアンジェリークの恥ずかしがっている様子がとても哀しかった。
やはり彼女は自分にはまったく関心が無い、そのことがまたもや確認できてしまったのだ。
オスカーはもう一度ルヴァをよく見た。
どう見積もっても自分より色男には見えない。
それなのに彼は彼女の心をこんなにも掴んでいる。
言いようの無い敗北感が彼を襲っていた。「あのぉオスカー様?」
不意に自分に声をかけられてオスカーははじかれたように振り返った。
そこには頬を染めながら自分を見つめるルヴァの友人の彼女がいた。「なんだい?美しいお嬢ちゃん。」
いつもの軽口をついて極上の笑みを彼女に向けると彼女は今にも卒倒しそうな様子で押し黙った。
オスカーはいつもならその様子を見れば勝ち誇ったような気持ちになるのに今はただむなしいだけだった。
そしてもうこれ以上アンジェリークとルヴァを見つづけるのが絶えられなかった。「アンジェリーク。俺はここで失礼するよ。」
オスカーのその申し出にアンジェリークは何故か不安を感じた。
簡単に引いてしまうオスカーがなぜか気になった。
彼の行動にも何か合点が行かなかった。
なぜオスカーはルヴァに彼女の関係を聞いたのかアンジェリークにはわからなかったのだ。
でもここはオスカーを押しとどめる理由が見つからずアンジェリークはただ了承するしかなかった。