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オスカーはなぜ自分がこんな惨めなことをしているのかまったくわからなかった。
わかっているのはアンジェリークの涙は見たくないということだけだった。
彼女がルヴァと連れの彼女を見たときに流した涙が今もオスカーの胸を締め付けていた。
アンジェリークの笑顔だけ見ていたい。
そんな気持ちが胸いっぱいに広がってバカみたいにルヴァとアンジェリークの橋渡しをしてしまったのだった。
オスカーは帰りついた自分の棲家で一人爪を噛んだ。
「オスカーいますか?」
不意に誰何の声を聞きオスカーは顔を入り口に向けた。
しばらくして入ってきたのはオスカーの最も苦手なリュミエールだった。「ああ、いたのですね。」
「なんのようだ。」
「あなたが開放されたと聞いて心配で見に来たのですよ。」
「何を心配する?俺はおまえに心配される覚えは無い。」憮然とした表情でオスカーが答えるとリュミエールは表情を曇らせた。
「あなたを開放した乙女は誰です?あなたがまたその方を悲しませるようなことをなさるのではと私は心配でしょうがないのです。あなたはあまりにも奔放過ぎますから。」
リュミエールの言葉にオスカーは苦笑した。
哀しませるどころか彼女は自分のことなど歯牙にも架けないというのに。
オスカーが何かいつもと違う様子にリュミエールは驚いた。
いつも自信満万で、どんな女も思いのままだと豪語してやまないオスカーなのに今日の彼は何処か自信なげだ。「何かありましたか?いつものあなたとは何処か違うようです。何か悩んでいるのではありませんか?」
リュミエールの言葉にオスカーはまたもや苦笑した。
自分のふがいなさが彼にまでわかるほどとは。
本当に自分はどうしてしまったのだろう。「おまえにそんなことを言われるとはな。俺も落ちぶれたかな。手に入れたいはずのお嬢ちゃんの泣き顔を見たくないばっかりに彼女の片思いを取り持っちまうんだからな。」
リュミエールはオスカーの言葉を驚きとともにうれしく思った。
彼の心に真実の愛が芽生え始めていることに気がついたからだった。「オスカーその気持ちを大事にしてください。あなたの初恋が実ることを祈ってますよ。」
そう言うとリュミエールは驚いたように目を丸くしているオスカーの元を去っていった。
その頃アンジェリークは憧れのルヴァと知識の森にきていた。
鬱蒼と木々が茂るこの森はルヴァの最も気に入っている場所だった。
この森の木々はみな樹齢が高く1000年のものもそう珍しくない。
その木々からいろんな知識を聞くことが出来た。「アンジェリーク。耳を澄ませて御覧なさい。木々があなたに語りかけてくるでしょ?この木達はものすごい物知りなんですよぉ。すごいでしょ。」
目をキラキラと輝かせているルヴァの横で彼といることで緊張しっぱなしのアンジェリークには、木々の声に耳を傾けている余裕はまったく無かった。
「え!木が語りかけるんですか?」
そんな言葉がつい出てしまった後ちょっとがっかりしているルヴァの様子にアンジェリークはひどく慌てた。
「あ!ル・ルヴァ様ごめんなさい。私緊張しちゃって。」
つい弁明をしたアンジェリークにルヴァは反対に自分の選択の誤りをわびた。
「つまらないですよねこんな所は。すみません気が利かないので許してくださいね。」
「い・いえ・そ・そんなこと無いです。」
「あなたはいつも何故か私の前では緊張していますね。あなたをリラックスさせられないのは私のせいですね。」ルヴァの言葉にアンジェリークはもっと焦ってあたふたしてしっまった。
その様子を見てルヴァはますます自分をふがいなく思ってしまうのだった。「今日のところはもうやめましょう。さあ花園に送りますよ。」
ルヴァからそう言われてアンジェリークはがっかりしたと同時につらかった。
ルヴァと一緒にいるだけで緊張してしまうのはとめられなかった。
彼女にとってルヴァは遠いところで光る星のようなものだ。
どんなに手を伸ばしても取る事が出来ない憧れの星。
それが目の前にいたら当然ドキドキしたっておかしくないのに、ルヴァにはアンジェリークが自分に気があるとは露とも思ってい無いことが窺い知れた。
だからアンジェリークはただコクンとうなずくしか出来なかった。