上級魔術師レヴィン君のホットな講義録

1、あんたらだけにゃ会いたくなかった・・・

事の起こりはある晴れた日の午後だった。秋の風はさわやかに丘を駆け抜け、子供たちの歓声を運ぶ。11月の光は優しく落ち葉を照らし、風が吹くと木漏れ日は妖精のようにゆれる。ライカの街は優しい光に包まれていた。
 そんな街の中を二人の男が歩いていた。黒髪、黒眼、黒い服、おまけに腰から下げている剣までが真っ黒である。この、街を歩いていたら石を投げられそうな格好をした男の名前はレヴィンといった。もう一人は金髪碧眼、長身の珍しいくらい整った容貌である。こちらの方はカスフィードという名前だった。そのカスフィードがレヴィンに話し掛ける。
「風が気持ちいいなあ、なあレヴィン」
「・・・・・・」
「うんうん、やっぱこんな日は風に吹かれて歌でも作るのがいい男ってもんだな、そうだろう、レヴィン」
「・・・・・・」
「そうだなあ、そうだ!こんなのどうだ!!かねがーない、ぜええんぜえんなーい、明日ーからーどうやってーいきていーこーおー」
「うるせえぞ、こらああ!!」
 いきなりレヴィンが叫んだ。それと同時に鋭い右アッパーがカスフィードを後方2メートルまで吹き飛ばしていた。
「ばかか、てめえは!真実そのまんま歌って悲しみをさそうんじゃねえっ!」
 まともにアッパーを食らいながらもカスフィードは平然として立ち上がった。
「ふっ、何を言うんだ、レヴィン!心の底からほとばしる言葉こそ真実の歌じゃないか!」
レヴィンはカスフィードの首をつかんで前後に揺さぶる。
「くだらねー事言うんじゃねえ!大体っ!全部てめーの責任だろうがっ!」
「何がだよ!この天才結婚詐欺師たるこの俺が一体何をやらかしたというんだ!」
「何が天才結婚詐欺師だ、この馬鹿がっ!結婚詐欺が相手にまじで惚れてどーする!?あげく俺が貸した金まで全部持っていかれやがって!結婚詐欺がとーしろー相手に結婚詐欺やられてんじゃねえっ!」
ふと、カスフィードの顔が何かに気づいたかのようににやけた。
「・・・そうか、レヴィン、分かったぞお・・・」
レヴィンはカスフィードの表情の変化に気づかない。
「おかげですでに飯食う金もねえじゃねえか!これからどーすんだよっ!?いっとくが俺の持っている資金はもうねえからな!全部てめーに貸しちまったんだよっ!」
「お前っ!俺のこの美しい顔に嫉妬しているんだなっ!!」
「あほかあああ!!!」
 レヴィンの右ストレートがカスフィードの顔に炸裂した。

 ライカは秋、ライカの一番いい季節である。そんな中、レヴィンはカスフィードとともにいつものように貧乏に苦しんでいた。

 「さて、これからどうするかだな・・・」
 丘の頂上にどっかりと腰を下ろすと、レヴィンは右手をあごに当て考え込んだ。となりでカスフィードは何のダメージも無く平気でにこにこしている。
「・・・なんつっても資金がひとっかけらも残ってねえからな、多少でもありゃ壷でも買ってきて売りつけられるんだが・・・」
「いかんなあ、レヴィン。人間やっぱまともに働かないといかんぞ」
 じろっとレヴィンはカスフィードをにらんだ。
「まともに働いても全部追い出されるんだよな。誰かのせいで」
「・・ん、誰のせいだ。それらしい奴いたかなあ・・・・」
 首をひねるカスフィードにレヴィンのこめかみがぴくっとけいれんする。
「・・・酒場で働いたときはどっかの馬鹿が客の女に手を出して乱闘になって追い出されたんだよなあ」
「誰だ、そんな事した馬鹿は」
「パン屋で働いたときは売り子三人に同時に手を出して3日で追い出されたんだよな」
「へー、世の中そんな馬鹿がいるのか」
 ぴくぴくぴくぴくっとレヴィンのこめかみが激しくけいれんする。それでもレヴィンは気合いで耐えた。
「ここなら女はいねえから大丈夫だろうと思って港で荷降ろしやったときはこんな生活耐えられない、とかいって2日で逃げ出した馬鹿もいたよなあ」
「はっはっは!そんな馬鹿な奴と知り合いなのか、レヴィン!まだまだ甘いな!」
 びしっ、何かが切れる音が確かに聞こえた。
「全部てめーだろうがよおおおおっ!憶えてねえのかっ!」
「・・ぐえ・・げ・・・ばか・・・くび・・・やめ・・・」
「八百屋も魚屋もクリーニング屋も!!武器屋もかじ屋もくすり屋も!!はては土方もゆーびん配達までも全部やって!!ぜえええんぶ手前のせいで失敗してるんだよおお!!」
「・・・が・・・げぐ・・・ぐび・・はなぜ・・・」
「少しは俺の苦労が分かってんのかこら!わかってんならたまにゃあてめーで金でも稼いでこい!」
 レヴィンはようやくカスフィードの首から手を離した。げほげほとせき込みながらもカスフィードはすぐ復活する。
「・・・でもさ、よく考えたらレヴィンだって一応上級魔術師の資格持ってんだろ」
「・・・一応な・・・・」
「なら、黒龍の塔でもいって教師になりゃいいじゃないか」
「あそこにだけは絶対いかん」
 レヴィンは南の方に目を向けた。この丘の上からは海まで、そして海沿いに立つライカ魔術大学、別名「黒龍の塔」が見えた。
 レヴィンはふと顔をしかめると、カスフィードに目を向けた。
「いいか、あそこにだけは絶対いかんぞ。あそこにはもう二度と会いたくねえやつらがうじゃうじゃいるんだ」
「またまたそんな事言って、実は隠し子かなんかがいるんじゃないの」

 カスフィードに当てようとしたレヴィンの左ストレートが途中で凍り付いたように止まる。魔力が練り上げられる気配・・・
レヴィンはちっと舌打ちするとすばやく風の精霊との契約呪文を唱え、魔力を練り上げる。

   そして、その次の瞬間、レヴィンたちの背後の森から巨大な炎が襲い掛かった。
「我を守れよシルファールっ!!」
 レヴィンが叫ぶと同時にレヴィンたちの周りを風が取り巻く。炎は風の結界にぶつかり周囲で渦を巻く。
「な、な、なんだあっ!!」
 うろたえまくるカスフィードをよそに、レヴィンは静かに呪文を唱える。結界で守られているとはいえ、風は熱を遮るわけではない。すぐ耐え難く熱くなるが、レヴィンは右手を天に突き出し、唱えていた呪文を発動させる。
「風よ汝を槍となせ!」
 渦巻いていた風が竜巻のように炎を吸い上げ、そして、風は細く炎の槍のようになり、炎が現れたポイントを襲った。
 炎の槍は着弾すると同時にごおっと咆哮をあげて火炎を広げたが、その次の瞬間ろうそくが吹き消されるようにふっと消えた。

 レヴィンは左手を剣にかけ静かに炎の消えた林をみすえた。
(・・・・今のは殺そうとした攻撃じゃない・・・・)
レヴィンの全身が研ぎ澄まされ周囲の気配を探る。取り合えず正面に最低一人入ることは確実だが、それだけとは限らない。
「一体どこのどいつだ。いきなり炎を投げつけるたあ、あんまし穏やかじゃねえな」
 林の草むらを分けて二つの人影が現れた。一人はかなり大柄な男であり、もう一人は小柄な老人・・・
「!?げえええっ!!」
 レヴィンは思わず奇声を上げて後ずさる。そんなレヴィンを無視して老人はにこにこしながら気軽に声を掛けてきた。
「ひょっひょっひょ、レヴィン、久しぶりじゃのー」
「じっ、じっ、じじい!、っなっなっな、何でてめーがここにいるっ!?」
「冷たいのお、レヴィン。久しぶりに師と会えたというのに、その言い草はないじゃろう」
「!?・・うっ、ということは・・・まさか・・・!?」
 レヴィンはもう一人の男に目を向け、そしてほとんど絶望に近いうめき声をあげた。
「・・・エルネイ教師・・・・」
 男もレヴィンと似たようなうめくように声を出した。
「・・・レヴィン・・・貴様にだけは会いたくなかったんだがな・・・・」
 老人だけが一人元気だった。
「ひょっひょっひょっ!懐かしいじゃろ!お前さんが帰ってきたと聞いて、わざわざ迎えに来たんじゃよー」
 思わず天を仰いだレヴィン、成り行きが分からずぼおっとしているカスフィード、しかめっ面をしているエルネイ教師、そしてひよひよと笑い続ける老人。そんな4人の間を秋の風はひょるるるっと通り抜けていった・・・・・


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