ライカは秋、ライカの一番いい季節である。そんな中、レヴィンはカスフィードとともにいつものように貧乏に苦しんでいた。
「さて、これからどうするかだな・・・」
丘の頂上にどっかりと腰を下ろすと、レヴィンは右手をあごに当て考え込んだ。となりでカスフィードは何のダメージも無く平気でにこにこしている。
「・・・なんつっても資金がひとっかけらも残ってねえからな、多少でもありゃ壷でも買ってきて売りつけられるんだが・・・」
「いかんなあ、レヴィン。人間やっぱまともに働かないといかんぞ」
じろっとレヴィンはカスフィードをにらんだ。
「まともに働いても全部追い出されるんだよな。誰かのせいで」
「・・ん、誰のせいだ。それらしい奴いたかなあ・・・・」
首をひねるカスフィードにレヴィンのこめかみがぴくっとけいれんする。
「・・・酒場で働いたときはどっかの馬鹿が客の女に手を出して乱闘になって追い出されたんだよなあ」
「誰だ、そんな事した馬鹿は」
「パン屋で働いたときは売り子三人に同時に手を出して3日で追い出されたんだよな」
「へー、世の中そんな馬鹿がいるのか」
ぴくぴくぴくぴくっとレヴィンのこめかみが激しくけいれんする。それでもレヴィンは気合いで耐えた。
「ここなら女はいねえから大丈夫だろうと思って港で荷降ろしやったときはこんな生活耐えられない、とかいって2日で逃げ出した馬鹿もいたよなあ」
「はっはっは!そんな馬鹿な奴と知り合いなのか、レヴィン!まだまだ甘いな!」
びしっ、何かが切れる音が確かに聞こえた。
「全部てめーだろうがよおおおおっ!憶えてねえのかっ!」
「・・ぐえ・・げ・・・ばか・・・くび・・・やめ・・・」
「八百屋も魚屋もクリーニング屋も!!武器屋もかじ屋もくすり屋も!!はては土方もゆーびん配達までも全部やって!!ぜえええんぶ手前のせいで失敗してるんだよおお!!」
「・・・が・・・げぐ・・・ぐび・・はなぜ・・・」
「少しは俺の苦労が分かってんのかこら!わかってんならたまにゃあてめーで金でも稼いでこい!」
レヴィンはようやくカスフィードの首から手を離した。げほげほとせき込みながらもカスフィードはすぐ復活する。
「・・・でもさ、よく考えたらレヴィンだって一応上級魔術師の資格持ってんだろ」
「・・・一応な・・・・」
「なら、黒龍の塔でもいって教師になりゃいいじゃないか」
「あそこにだけは絶対いかん」
レヴィンは南の方に目を向けた。この丘の上からは海まで、そして海沿いに立つライカ魔術大学、別名「黒龍の塔」が見えた。
レヴィンはふと顔をしかめると、カスフィードに目を向けた。
「いいか、あそこにだけは絶対いかんぞ。あそこにはもう二度と会いたくねえやつらがうじゃうじゃいるんだ」
「またまたそんな事言って、実は隠し子かなんかがいるんじゃないの」
カスフィードに当てようとしたレヴィンの左ストレートが途中で凍り付いたように止まる。魔力が練り上げられる気配・・・
レヴィンはちっと舌打ちするとすばやく風の精霊との契約呪文を唱え、魔力を練り上げる。
そして、その次の瞬間、レヴィンたちの背後の森から巨大な炎が襲い掛かった。
「我を守れよシルファールっ!!」
レヴィンが叫ぶと同時にレヴィンたちの周りを風が取り巻く。炎は風の結界にぶつかり周囲で渦を巻く。
「な、な、なんだあっ!!」
うろたえまくるカスフィードをよそに、レヴィンは静かに呪文を唱える。結界で守られているとはいえ、風は熱を遮るわけではない。すぐ耐え難く熱くなるが、レヴィンは右手を天に突き出し、唱えていた呪文を発動させる。
「風よ汝を槍となせ!」
渦巻いていた風が竜巻のように炎を吸い上げ、そして、風は細く炎の槍のようになり、炎が現れたポイントを襲った。
炎の槍は着弾すると同時にごおっと咆哮をあげて火炎を広げたが、その次の瞬間ろうそくが吹き消されるようにふっと消えた。
レヴィンは左手を剣にかけ静かに炎の消えた林をみすえた。
(・・・・今のは殺そうとした攻撃じゃない・・・・)
レヴィンの全身が研ぎ澄まされ周囲の気配を探る。取り合えず正面に最低一人入ることは確実だが、それだけとは限らない。
「一体どこのどいつだ。いきなり炎を投げつけるたあ、あんまし穏やかじゃねえな」
林の草むらを分けて二つの人影が現れた。一人はかなり大柄な男であり、もう一人は小柄な老人・・・
「!?げえええっ!!」
レヴィンは思わず奇声を上げて後ずさる。そんなレヴィンを無視して老人はにこにこしながら気軽に声を掛けてきた。
「ひょっひょっひょ、レヴィン、久しぶりじゃのー」
「じっ、じっ、じじい!、っなっなっな、何でてめーがここにいるっ!?」
「冷たいのお、レヴィン。久しぶりに師と会えたというのに、その言い草はないじゃろう」
「!?・・うっ、ということは・・・まさか・・・!?」
レヴィンはもう一人の男に目を向け、そしてほとんど絶望に近いうめき声をあげた。
「・・・エルネイ教師・・・・」
男もレヴィンと似たようなうめくように声を出した。
「・・・レヴィン・・・貴様にだけは会いたくなかったんだがな・・・・」
老人だけが一人元気だった。
「ひょっひょっひょっ!懐かしいじゃろ!お前さんが帰ってきたと聞いて、わざわざ迎えに来たんじゃよー」
思わず天を仰いだレヴィン、成り行きが分からずぼおっとしているカスフィード、しかめっ面をしているエルネイ教師、そしてひよひよと笑い続ける老人。そんな4人の間を秋の風はひょるるるっと通り抜けていった・・・・・