Another Phoenix - Chapter 1-1
『全力全開、スターライト!』
『雷光一閃、プラズマザンバー!』
『響け終焉の笛、ラグナロク!』
『『『ブレイカー!!!』』』
三人の少女の周囲に息苦しくなるほど大量の魔力がほとばしり、奔流となって防衛プログラムに突進していく様がメインディスプレイの片隅に表示された。基本的に物理的ダメージよりも魔力ダメージを優先するよう設定されている筈なのだが、それでも発生するノイズが三つの大量破壊魔法が集中した地点――グラウンド・ゼロで熱に変わり、周囲の海水が沸騰している様子が観測できる。
「中心温度、一六〇〇度。うわぁ、鉄の融解温度超えてますよ」
「うーん。なのはちゃん達、ホントに人間なのかなぁ・・・」
「いいじゃないですか、頼もしい民間協力者で」
地上の状況を見守るブリッジクルーが半ば呆れた様子で口を開く。ここまで来ると小型の艦載ビーム砲に匹敵する威力だ。いくらカートリッジシステムによる補助があるとはいえ、確かに人間技とは思えない。
「防衛プログラム外殻崩壊。本体コア露出確認」
そしてなのは・フェイト・はやてによる魔砲三重奏【トリプレット・ブレイカー】によって防衛プログラムが破壊されたのを合図に、ブリッジスタッフの動きが活気づいた。大量の観測データが各自のコンソールに流れ込んだのを確認し、メンバーの視線がメインディスプレイから自分の端末に戻る。
「さて、僕達も遊んでないで仕事【ビジネス】を始めますか」
「転送魔法発動確認。ターゲット打上軌道に乗りました。軌道要素算出中――パラメータはほぼ予測値の範囲内。暫定軌道をメインディスプレイに出します」
ユーノ、アルフ、シャマルによる転送魔法を受けた本体コアが地上を離れ、天頂方向に向けて上昇を始める様子が表示される。
コアの現在高度は一五〇〇〇メートル。画面上では転送開始ポイントである海鳴市沖合八キロの海上からコアの現在位置を示す輝点までは実線、そこから先の予測軌道は破線で表示されている。破線の行く先は低軌道上だが、連続観測によって軌道要素は常に微修正され続けるので最終到達点は毎秒ごとに更新されていく。
ちなみに重量物を長距離転送する地上の三人には単純に『真上へ』コアを打ち上げる指示が出ているが、コアの到達地点は必ずしも彼等の真上になる訳ではない。高次元空間を経由しない長距離転送は重力やコリオリ力による干渉を受けるため、単純な垂直運動には成り得ないからだ。
術者自体が移動する場合にはこのあたりも強引に自力補正できるのだが、術者無しで『荷物』を動かす場合にはそれも難しい。
その上転送対象である本体コアの回復(質量増加・重心移動)状況が未知数のため、正確な上昇軌道の事前予測は理論上不可能に近い。そのため上昇中の本体コアを観測しながら会合地点を割り出し、最終到達位置を決定する作業は高度な艦載コンピュータを持つアースラ側が責任を持って行わねばならなかった。
「コアの転送、来ます。転送されながら生体部品を急速修復中」
各種機器によるコア観測を担当するランディが忙しく指を動かし、弾き出したデータを次々にディスプレイに反映させていく。
「なんて勢いだ。コアの観測質量、現在毎秒約〇・五トンの割合で安定増大中。転送終了時の予想質量は約一二〇トン」
「ホント、もう少し魔力―質量換算則を守って欲しいわよねぇ」
本体コアは残存魔力を物質に変換し、急速に再生しつつあった。これに伴い本体コアの残存魔力反応が少しずつ小さくなっていく。保有魔力が莫大なため減少割合は小さなものだが、常識的に考えて凄まじいエネルギーが消費されている事は明らかだ。
通常ならば周囲環境の魔力素を取り込むことでこの損失すら補填されてしまうのだが、流石に魔力素のほとんど無い超高層大気圏ではそのような無限再生機構は働かないらしい。
「補正値組み込み完了。最終予測軌道出ました」
「ありがと。よし、アルカンシェル発射最適座標決定!アレックス、この座標への転移をお願い」
「了解」
アルカンシェル――時空管理局の艦載兵装の中でも最大級の威力を持つ特殊弾頭だ。起動すると弾頭を中心に空間を歪曲させ、発生する潮汐力によって周囲の剛体を破断させる。こう表現すると難解だが、感覚的には擬似ブラックホール発生装置を撃ち出すものと認識して差し支えない。
これによって発生する応力は非常に大きく、重力場の歪みが極限まで大きくなる爆心地から半径数百メートル圏内に至ってはあらゆる物質が素粒子レベルまで分解されてしまう程だ。もちろんその外部空間でもそれ相応の潮汐力が発生するから、剛体目標に対する理論的な危害半径は半径百数十キロ程にもなる。
桁外れな再生能力を持つ本体コアを完全破壊するには、このアルカンシェルを直撃させるのが一番手っ取り早い。事実、過去にも時空管理局はアルカンシェルを何度も使用して暴走した闇の書を管理者ごと葬ってきている。
だがアースラ搭載のアルカンシェルには一つの弱点があった。時空管理局の巡視船【パトロール・クルーザー】としては大型の部類に入るアースラですら、アルカンシェルは手に余る巨大なシステムだったのだ。本来ならばもっと大型の戦闘艦艇に搭載されるべき兵器を無理矢理切り詰めて搭載しているため、様々な面で無理が生じてしまっている。
例えば重たく、加速度耐性の低いデリケートな弾頭を切り詰めたバレルから発射するために弾速が極端に遅い。他にもコンデンサ容量やジェネレータ出力がシステムの要求値ギリギリでしかなく、次弾発射のためのチャージに数十分もの時間を要するという問題もある。
このような事情からアルカンシェルの発射は常に一撃必中が求められる事となり、それが精密照準の強要――有効射程距離の低下という形で顕著に現れていた。移動目標に対する実用射程となると、更に短くなってしまう。
かつての次元間戦争で猛威を振るったアルカンシェル弾頭型次元世界間跳躍ミサイル【レインボー・ファイブ】であればこの種の制限は全て解決されるのだが、パトロール艦に過ぎないアースラにこのような高価で物騒な代物が搭載されているはずもない。
結局アースラは軌道上の物差しで言えば至近距離といってよい二五キロまで接近した上でアルカンシェルを発射し、すぐさま安全距離まで退避するというアクロバティックな戦法を採用せざるを得なかった。本体コアの反撃も十分想定される状況下において、言うまでも無く非常に危険な作戦と言わざるをえない。
「座標入力完了。次元震兆候零。魔法推進器【ワープコア】出力安定。転移準備よろし。艦長?」
「全艦、短距離転移【ショートジャンプ】警報。準備ができ次第発進」
「短距離転移警報」
スピーカーから電子ブザーの音が鳴り響く。管理局艦船では、次元空間へ転移するときの警報は時報の様に短く三回、長く一回鳴る事になっている。最後の長音が鳴り終わった瞬間、それがワープ突入の合図だ。
各乗組員の緊張が一気に高まる。リンディ艦長は表情こそ普段と同じ――微笑じみたものを浮かべているが、それでも左手は無意識のうちに強く握りしめられている。目標は亡き夫の仇。その心中に一体どのような心境が渦巻いているのか、ブリッジにいる三人のクルーには全く推測できなかった。案外本人も判っていないかもしれないが。
「さあ、征【ゆ】きましょう」
リンディの一言と同時にブザーが鳴り終わり、アースラが次元の壁を突き抜けた。