Another Phoenix - Chapter 2-1

『クロノ執務官、そちらの状況は?』

「こちらの戦闘は終了しました。各メンバーの被害もありません」

 地上における戦闘は収束していた。先ほどまであれ程暴れていた怪物の残骸も、中枢部である本体コアが遥か軌道上に転送されてしまったためもう動く気配は無い。

 後の事は上空のアースラに任せるほか無いのだが、その後の応答が無かったためメンバーに不安が募っていた。それを察したクロノがアースラへの通信回線を開いたのだった。

『わかりました。クロノ執務官は直ちにアースラに帰還を』

「何かアクシデントでもあったんですか?」

『アルカンシェルの狙いが外れ、防衛プログラム完全消滅に失敗しました。依然戦闘は継続中です』

「っ!」

 通信はオープン(ただしベルカ式の通信しかできないヴォルケンリッター達ははやてが『翻訳』したものの間接受信)になっているため、周囲にも当然届いている。なのは達にも緊張が走る。

『防衛プログラムの砲撃でアースラは大破。損傷で気密が破れ、四名が外に投げ出されています』

「なんて事だ・・・」

『大気圏外で魔力行使ライセンスを持っているのはクロノ執務官だけです。直ちに帰還を』

「判りました」

 魔力素も空気も無い大気圏外での魔力行使は非常に難しい。飛行魔法の場合以上に高度な魔力資質が要求されるのはもちろんの事だが、本人とデバイスが宇宙空間用の特殊なスキルを保持している事が絶対条件になる。

 そのような資格を備えているのは、アースラ現有兵力の中でも資格マニアのクロノしか居なかった。大量破壊兵器としては申し分の無い才能があっても、専門技術面では素人に過ぎないなのは達では逆立ちしてもこの種の芸当は行えない。

「僕はアースラに帰還する。皆はここで待機しながら不測の事態に備えてくれ」

「クロノ君、私も行く!」

「わ、私も!」

 案の定なのはとフェイトが首を突っ込んできた。こいつらまだ撃ち足りないのかとクロノは一瞬呆れたが、流石に今回の同行は承諾しかねた。今度ばかりは完全に役立たずであるばかりか、無鉄砲に宇宙空間に飛び出させたら最後、即フリーズドライ状態の人工衛星になりかねない。

「生憎だが、大気圏外では通常の飛行魔法では身動きが取れない。危険すぎる」

「でも・・・!」

 クロノの心中には不安が立ち込めていた。年齢相応といってしまえばそれまでだが、なのはは(これまでの経験からして)理論ではなく感性で物事を判断する事が多い。それに加えて自分の危険を全く顧みない上に恐ろしく意固地なところがある。

 要するに彼女は典型的な『熱血主人公』気質なのだ。自分の説得を跳ね除けて、何か突拍子も無い行動に出るのではないか。

 それに最近になって、クロノも自分に根本的な威圧感が欠けている事を自覚しつつあった。枯れた老提督には効果のあった主人公調の青臭い台詞も、筋道だった教科書的な説得も、端から他人の話を聴かないなのはのようなタイプの人間には通用しない。

『なのはちゃんとフェイトちゃん、あとユーノ君とアルフは結界の維持をお願い。アースラからのエネルギー転送が不安定になっているから、結界が崩壊する危険性があるの』

 クロノの心中を察してか、付き合いが長いエイミィが助け舟を出した。

『まだ町の消火と凍った海の解凍が済んでないから、いま結界が消えて通常空間と繋がると大惨事になっちゃうわ』

「ひゃー、大変。そうしたらお家が燃えちゃうよね」

『そう』

「え、ちょっと、この規模の結界を人力で維持するんですか?」

 結界魔法が専門のユーノが(エイミィの目論んだとおりの)不安げな反応を見せる。確かに町ひとつをすっぽり覆う規模の大型結界だ。これがどれほどのエネルギーを必要とするか位ユーノにはすぐ試算できる。個人の魔力では荷が重過ぎるに決まっている。

『多分大丈夫だと思うけど、安全対策ね。大丈夫、あの二人の魔力ならきっと大丈夫よ』

「うん、がんばろ、ユーノ君」

「はあ・・・」

 ユーノはそれでも不安そうだったが。半分以上はエイミィのかましたブラフと判っているクロノには気にならなかった。それよりも宇宙空間に吸い出された乗員の救助だ。

「よし、じゃあアースラに帰還を・・・」

「あの」

 次にクロノを引き止めたのははやてだった。

「何か?」

 流石のクロノも口調が荒くなりかけている。こめかみにうっすらと血管が浮かんでいた。おいおい、僕はコント要員じゃ無いんだぞ。

「私らも連れて行ってもらえません?私は、その、管理局の人から蒐集した宇宙用のスキル使えるし」

「我らヴォルケンリッター、守護騎士プログラムに酸素は不要だ。浮き砲台程度にはなれる」

「そーゆー事だ」

「だが・・・」

『いいわ、五人ともいらっしゃい』

 これは猫の手も借りたいリンディにとっては渡りに船だった。内心ではこれが事件解決後の裁判や、その後の懐柔で有利に働くかもしれないと打算しているが、そちらはについては表に出さない。

「あ、はやてちゃんずるい!」

 後ろでなのはが騒いでいるが、そちらについてはもうクロノは無視することにした。

「じゃあ五人は一緒にアースラに来てもらう事にする。準備はいいね」

「はいっ」

 代表してはやてが頷いた。

「ブリッジ、六名転送」

『了解。みんな動かないでね』

 クロノとはやて、ヴォルケンリッター達の周囲に転送魔方陣が広がった。