続・広島旅行記―呉

 一年半ぶりのネタとして「続・広島旅行記」をお届けする。今回の目的地は呉市の「大和ミュージアム」の隣に開設された海上自衛隊呉資料館、通称「てつのくじら館」である。この施設は普段かなり目立たない海上自衛隊の掃海部隊と潜水艦隊を専門に扱っている博物館(ちなみに入場料は無料)で、<ゆうしお>級潜水艦(同型艦は二隻が練習艦となったほかは全て退役)の<あきしお>が保存されていることで話題となった施設である。

 「てつのくじら館」は「大和ミュージアム」同様呉駅から徒歩五分程度の距離にあり、交通アクセスは非常に良好。呉駅構内から案内板に従って高架歩道を進み、何故かショッピングセンターの店内を通過するとすぐに目的地となる。  唐突に視界に赤黒いものが現れた。何だこの違和感は。
[何この大きさ]

 <ゆうしお>級潜水艦は基準排水量2,200t、全長76メートルと海自の戦闘艦としても、世界の潜水艦としても決して「大きい」グループに入る訳ではない(例えばアメリカの原潜には全長170mなんてバケモノも存在する)。まして潜水艦埠頭に転がっている現役の<はるしお>級や<おやしお>級にしたところにしてもそこまで大きいという印象は受けなかった。とはいえそれはあくまで海上に居るときの話であり、比較物のある地上では全く様子は異なるということだ。

 近づいてみてもその大きさは際立っており、カメラの枠に収めるのに苦労するほどである。カメラを精一杯広角にしてみたところで、ごらんのように50m以上はなれないと全体を写す事ができない。
[斜め前方より]

 資料館の前はすぐに呉港となっており、<あきしお>は洋上輸送の後にクレーン船によってここに据え付けられたそうだが・・・よくもまあこんな代物を地上に引き上げたものである。
[前方より]

 資料館入り口前の交差点の、更に向こう側からの一枚。常識的に考えて絶対にお目にかかれないアングルである。ちなみに側面にうっすらと魚雷発射管が見えるが、ご覧の通り艦の推進軸上を向いてはいないようだ。模式図で見てもかなり「外側」を向いている。

 潜望鏡は二本とも「使用のために展開した」状態であり、実際に艦内見学時に覗く事も出来る。解説のおじさん曰く「潜望鏡はニコンが作ってくれてます。特殊な技術が要るので大きいほう一本だけで六億円するんですよ。いくら競争相手が居ないからってちょっとボッてますよね。あと最近の潜水艦のはカメラとかもついているから十億円もします」ちなみに<あきしお>一隻で五〇〇億円なので総工費の1%強が潜望鏡にかかっているという事になる。
[スクリューを横から]
[スクリューを下から]

 続いて艦尾。最高機密の塊であるというありがたーい艦尾のスクリュー。スクリューの形状は潜水艦の静寂性を左右する最重要の部品であり、形状を分析すればどんな航走音を発するかも判ってしまうらしい。そのため<あきしお>は改装時にスクリューを交換しており、これはレプリカということになる。ちなみに資料館内の潜水艦の模型にもスクリューは付いていない。さすが自衛隊の資料館。

 ここで施設内に入るわけだが、入口は建物の中央部にあり、通用門から<あきしお>の「腹の下」をくぐり抜けて入る事になる。資料館は一階が「海上自衛隊の歴史」(かなりダイジェスト風味)、二階が「機雷と掃海艇の歴史」(機雷の実物大模型が天井から吊り下げられていたり、掃海器具がおいてあったりするが題材が題材だけに地味アイテムのオンパレードな感は拭えない)、三階が「海自の潜水艦の歩み」(赤色灯のついた小部屋のテーブルに食事の写真を置いて「あなたは(この色彩を)どう思います?」に乗組員の魂の叫びを見た)となっており、最後に総仕上げとして<あきしお>の艦内見学が待っている。ちなみに各部署では海自OBのボランティアらしきおじさんたちが解説員として配置についておられ、質問すれば色々と詳しい話も聞かせてくれる。次はいよいよ潜水艦内部の見学だ。
[見学時はハイヒールやサンダル履き、スカート着用は避けましょう(嘘]

 通常の出入りに用いているハッチ。解説員によると「艦上に出るにはこれを含めてハッチを二つ開けないといけない。開けるのには艦長の許可が要る」そうだ。ちなみに<あきしお>内部へは資料館3階から渡り廊下で繋がっており、写真のような梯子を上下して出入りするわけではないのでご安心を。

 もちろん艦内も見学を前提にした改装を受けているので隔壁を大量にぶち抜いた車椅子が通行できる程度の「見学路」が造られている。とはいってもその通路も人がすれ違うのに難儀するほど狭く、天井も屈めないと頭をぶつける位に低い。艦内の通行用のハッチも直径1mを楽に割っている位に小さく「潜水艦は体の柔らかい人間じゃないと乗れない」という解説は真に迫っていた。ちなみに広くしたくても水圧の関係で潜水艦の直径を大きくする事は難しいため、艦内容積を増やしたい場合は「前後に長くする」のが一般的なのだそうだ。そんな感じなので通路や部屋の広さはいつまでたっても大きくならない。

 なお、<あきしお>内部の見学ルートは前半が士官クラスの居住区画(それでも狭い)、後半が発令所となっている。居住区画はいずれも狭いため部屋全体を写すほどカメラを引く事ができず撮影不能、発令所はそもそも写真撮影禁止なのでこれ以上の写真は無かったりする。

 発令所には操縦区画(大型旅客機のように計器に埋まった操縦席が二つ並ぶ。もちろん窓は無いが)、海図版、レーダー装置などが並んでいた。床の一部は切り抜いてガラスが埋め込まれており、下層の魚雷室を覗く事ができる。「発射した魚雷には何万メートルもあるケーブルが付いていて、それで操縦するから撃ったらまず外しません」「へー、魚雷は何メートルくらいの距離で撃つんですか?」「うーん、言っちゃっていいのかなぁ・・・まぁ数千メートル位です」

 他に面白い設備としては各部署の潜水準備具合(艦内各所の弁の開閉など)を確認する表示板(といっても一々電話確認した後に印を指でON/OFFするだけのアナログアイテム)というのが壁にかけられており、それが全て完了になっていなければ潜航することが許されないそうだ。「安全確認が必要なんだったら『急速潜行!』なんて実際には行わないの?」と聞いたところ、「基本的には出撃直後に潜水準備を確認させ、その後は帰還までずっとそのままで通す」との事だ。常在戦場といった感じ。

 艦内の見学は以上で終了。艦内が元々非常に狭いこともあり中身は濃いものの長さとしては非常に短い見学だった。もちろん同時入場できる人数も限られているので、混雑時は相当な待ち時間が発生することもあるようだ。来場時は注意するべきだろう。

オマケ

[DDH 142 ひえい]
 オマケとして呉港の艦艇たち。海自の埠頭からタグボートに押されて出てきた<はるな>級DDH。艦籍番号が隠れてしまっているが<はるな>は舞鶴配備なのでおそらく呉を母港としている<ひえい>だろう。がっちりと固めた艦上構造物が萌えな空気を発散している。この姉妹が<ひゅうが>級戦力化でお払い箱になってしまうのは残念な限り。この後筆者の目の前で回頭して港外に出て行った。ちなみに格納庫の中は空っぽ。

[TV 3515 やまぎり]
 入れ替わるようにやってきたのは<あさぎり>級の<やまぎり>。現在は練習艦となっているそうだ。タグボートと一緒に<ひえい>が出てきた埠頭に入っていく。