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突発サイエンス・ファンタジー・エッセイ 対消滅兵器

 反物質を炸薬として用いるというアイデアは古くから存在していたが、その実用化には多大な困難があった。たとえば反物質は通常物質ときわめて反応しやすいため、貯蔵・輸送はおろか精製すら困難を極めるのだ。

 実験室レベルでの人為的な精製ならば20世紀に達成されていたものの、それが実用品として戦場で用いられるようになるまで長い期間が必要だった理由はそれであった。当時の技術では反水素原子を精製することはできても、それらを具体的に利用できる形に加工することが不可能だったのだ。反物資というと大層な名前がつけられてはいるが、外見(化学反応的な意味でも)を見ただけでは通常の水素ガスと変わりないのだから当たり前だ。そもそも対消滅反応の威力は質量に比例するから低密度かつ質量を計量しにくい気体では不都合が大きすぎる。

 これらの水素の物性に起因する問題は今日よく知られているように、反水素ではなく反炭素を利用する事で解決される。だがその達成には物理学以外の分野での技術の発展が必要だった。反炭素は反水素(反陽子)と反中性子を結合させて作り出すことで初めて得られるものであるから、反物質を製造した上で加工することが必要になるのだ。

 一昔前まで恒星間空間が反物質加工の中心であったことから判るように高精度な超真空維持機や反重力浮遊試験管が一般化したのは今世紀に入った後のことであり、それまでは室内にある実験器具でまともな反物質加工を行うことすら不可能だった。今の常識からすると乱暴極まりないが、今世紀に入るまでの反物質加工は恒星間の中途半端な真空をそのまま利用する形で行われていたのである。

 余談が長くなったが、このようにして実用化された反炭素炸薬は当初反グラファイト粉末の形態をしていることが多かった(最近は反アセトンのような液体分子タイプのものも販売されるようになってきている)。対消滅反応における放出エネルギーは1グラム当たり約225キロTNTトン(反応には等量の正物質が消費されるため、この場合必要な反物質は0.5グラム)と大きいため、専門教育を受けた人間が調整しながら行う民間の発破作業では低密度の粉末または液体状にしておいた方が炸裂量を調整しやすいからだ。

 対消滅炸薬を軍事利用する場合でも当初はこの形式を炸薬を利用していた。反グラファイト炸薬を入れた反重力場浮遊試験管を弾頭に仕込み、タイマーが作動すると保持電場を消失させて周囲の正物質と反応・炸裂させる仕組みだ。現代においてミサイル弾頭の多くはこの形式となっている。

 ただしこの方法は小型化が難しい保持機構で炸裂までの間炸薬を保護しておかないといけないため、コスト面でやや高価になってしまうという欠点を抱えていた。また迎撃システムが発達して大型ミサイルのコストパフォーマンスが悪化してきた(敵に一発命中させるのに高価なミサイルが何百発と必要)という事情もあり、迎撃の難しい小型サイズの攻撃手段に対消滅炸薬を用いる事が望まれるようになってきていた。

 しかし前述の通り対消滅弾頭の小型化には限界があったため、新たな攻撃手段が開発されることになった。それは反炭素単結晶を反重力によって加速射出し、対象に直接ぶつけるという方法だ。この方法であれば発射機構は比較的安価に済み、敵に向けて投射される部位が非常に小型であるため迎撃もされにくい。

 現在宇宙軍で使用されている反炭素結晶弾は主に5.56×45mm弾であり、炸裂時の放出エネルギーは約2メガトンとなっている。勿論この種の弾頭は大気中では発射直後に対消滅が発生してしまうため、外宇宙空間でのみしか使用できない。だが危険を冒して惑星間空間から惑星大気中に向けて発射された事例はこれまでに数回報告されており、ほとんどの場合地表に達する前に弾頭は完全に対消滅反応したとのことである。

 これらのケースを整理すると発射された弾頭は希薄な外縁大気と衝突した結果発生する緩やかな対消滅反応による光の尾を引きながら落下し、一定以上の大気密度になった瞬間に弾頭が放出エネルギーに耐え切れなくなり爆散、この段階で表面積が増大するため反応速度が急増し一気に反応が完結したと考えられる。

※この文章は「SFによく出てくる反物質はどんな形で軍事利用されているのだろうか」という妄想から突発的に精製されたショートストーリーであり、長編作品化の予定はありません。

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Last UpDate : 2006-03-23, WebMaster : Haruna Nowaki