シンデレラ
昔々、あるところに一人の、それはそれは美しい少女がおりました。
しかしその少女は、意地悪な継母と二人の姉にこき使われ、その美しさにもかげりが
落ちておりました。
今日も継母は少女に嫌味を言います。
「おーい、パジャ、茶をいれてくれ。あと、腹減ったから、なんか食うもんくれよ」
継母のフェイロンに言われ、少女――――パジャは泣く泣く茶をいれに台所へ向かいました。
――――って、あれ?
パジャ? フェイロンの目の前じゃなくて、台所ですよ? おーい。
「茶ぐらい自分で入れろ!食いもんだと!? お前にやるようなものなんて一つもない!」
ああ!! なに台本に逆らっているんですか!!
フェイロンもけらけら笑ってないで、怒ってくださいよ!
と、とにかく、パジャは茶を入れに台所へと来ました。
すると、今度は意地悪な姉のロスメスタがやってきました。
「なんか用か」
パジャが怯えつついうと、ロスメスタは真顔で言いました。
「空腹とかけて、握り拳ととく。 そのこころは、ぐー。腹が減った。さっさと飯を作れ」
そして、何事もなかったように去っていきました。
「……………」
パジャは、あまりに冷たい言葉に脱力し、床に手と膝をついてしまいました。
すると今度はもう一人の姉、ユメがやってきました。
「ちょっと、この船酔い男! おなかが減ったって言ってるでしょ! さっさと作んなさいよ!」
ちょ、ちょっとユメ……。 ここではパジャは少女なんですから、船酔い男って言うの
は……。
「……どうしてたった四歳のユメが俺の姉なんだ?」
ちょっと、パジャもぐだぐた言うでない! 台本に従いなさいってば!!
「そもそも、何で俺が女なんだ!? ロスメスタにやらせればいいだろう!!」
そんなんじゃつまらないからに決まっているでしょう!
とにかく、静かにしなさいってば!!
――――ということで、哀れな少女のパジャは、寝床で声を殺してすすり泣く日々を送って
おりました。
今日はお城の舞踏会です。
王子に気に入られれば、そのまま結婚という事さえもある盛大なもので、継母も姉たちも
盛り上がっておりました。
でも、パジャには着ていくドレスも、履いていく靴もありません。
パジャは一人家に残され、泣いておりました。
「ったく、やっと行ったか。今日は久しぶりに静かに過ごせそうだな。
と言ってもやる事ないし、体でも鍛えるか」
ちょっとパジャ! 何が「体を鍛えるか」ですか!!
「ああ、どうして私にはドレスも靴もないのかしら。 私も舞踏会に行きたい ……」でしょう
!?
ああ、もう…………。
とにかく、そんなパジャを見かねて魔法使いが現れました。
「泣かないで下さい、パジャさん。 僕が舞踏会へ連れて行ってあげます。 ドレスも靴も用意
します」
パジャはそんな魔法使いをまじまじと見詰め、
「ユンファ……? ずいぶんと可愛い格好をしているな。ちなみに、俺は舞踏会など行きたく
ないぞ」
ああ、また! もう諦めて台本にしたがって下さいってば!
「パジャさん……。 えっと、とりあえず作者さん困っているし、台本通り動いてあげましょう
よ」
ああ、ユンファ! あなたはなんて素晴らしい子なんだ!!
作者さん感動!!
「まあ、ユンファがそこまで言うなら行ってもいいが、しかし王子役が――――」
って、またパジャ、あなたって人は!! 王子はまだ出てきていないんだから、黙ってて下さい
ってば!!
――――ということで、パジャは十二時までと言う制限付きで、舞踏会へと向かったのでした。
さて、所変わってここはお城のベランダ。
王子が物憂げな様子で風に吹かれておりました。
理由はただ一つ。舞踏会に来た女性の中に、心惹かれるような美しい女性がいないからです。
王子に誰にともなく、一人呟きました。
……て、あれ? なんで台本を片手に持ちつつぶつぶつ言ってるんですか?
記憶力の良いあなたがまだセリフを覚えていないなんて、そんな筈はないのですが……。
「なんだこのセリフは。 「おお、なんと美しい女性だ。あの方こそ私の妻にふさわしい」だと?
なんでこの私があの魔族にこんな事を言わなければいけないのだ。 しかも、なぜ司祭の私が
王子役など……」
…………………。
オ、オルジェイさんまでこんな事言っているんですか〜。
別に短い劇なんですから、軽い気持ちでやってくれれば良いじゃないですか〜。
たそがれている王子のもとに、一人の従者がやってきました。
「王子?こんな所でどうなされたのですか?」
「ああ、テンシャか……。 いや、なに。私の妻にふさわしいような女性がいないと、少し嫌に
なっていたのだ」
おお!? テンシャが真面目にやっているので、オルジェイさんものって来ましたね!!
テンシャ、ナイスです!!
「大丈夫ですわ、王子。 きっと素晴らしい女性が王子の前に現れますわ」
うんうん。いい調子。
……あれ?どうしました、オルジェイさん。あなたのセリフの番ですよ?
「王子?」
ほら、テンシャも不思議そうにしているではありませんか。
「――――で、あの魔族が現れて、さっさと帰ってったのを私は未練がましく追いかけ、そして
最終的に結婚か!? やはり、こんな話は認めん! こんな役やってやれるか!!」
「オ、オルジェイ様……。 気持ちはわかりますが、所詮たかが劇ですし……」
ああ、オルジェイさん切れちゃった……。 やっぱパジャとオルジェイはやばかったか……。
お願い、テンシャ! どうにかオルジェイさんをなだめて!!
「劇であろうとも、あんな男と結婚など、絶対に認めん! そもそも、女装した男など、見た
だけで吐き気がする!」
「まあ、女装は作者に強制されてやっているだけですし……その……」
……ああ、やっぱこのキャストは無理だったのでしょうか?
って、オルジェイさん!? なに縄梯子なんておろしているんですか!!
「オルジェイ様、何をなさる気ですか?」
「逃げる」
「はっ?」
「だから、逃げる」
ちょっと、そこまで嫌がんなくても良いでしよう!!
「そんな、危険です!!もし刺客にでも襲われたら、どうするのですか!?」
そうですよ!
それがわからないほど馬鹿ではないでしょう!?
……って、オルジェイさん?なに余裕の笑みを浮かべているんですか?
って、なっ、なにテンシャの手なんて握っているんです!?
「なら、君もくればいい」
「……えっ…………」
「君が一緒なら、危険ではない。 だから、君もくればいい」
「……オ、オルジェイ様…………?」
…………って、こらあぁぁぁっ!! なに二人でいいムード作ってるんですか!?
ああ! 無視してますます盛り上がんないで下さい!!
「鈍いな、テンシャ。 私と、テンシャ、二人で一緒に逃げよう。 ……嫌なのか?」
「そんな、オルジェイ様……。 そ、その、わたくしでよろしければ喜んで……」
ああ!なんか勝手に話がまとまっちゃってる!! だから、それは困りますってば!!
……って、ああ! もう馬に乗って逃げちゃってる!!
うだあぁぁぁっ!! もう、どいつもこいつも〜!
しょうがない! 適当に新しい王子役を決めなくては〜!!
ったく・……。
え〜っと、視点はまたパジャへ……。
美しいドレスに、美しいガラスの靴。 それらに身を包んだパジャは、この世のものとは思えぬ
美しさでありました。
そして、パジャがお城の扉をくぐった瞬間、全ての人の目がパジャへと集まりました。
継母も、二人の姉も、そして王子もです。
王子は、パジャを見た瞬間、「私が求めていたのは、このような女性だったのだ!」 と大いに
感動し、心を奪われました。 それほどまでにパジャは美しかったのです。
「一曲踊りませんか?」
王
子が声をかけると、パジャは振り返り、にこやかに答えました。
「……ええ。よろこん――――って、フェイロン!なぜ貴様がいる!!」
「ああ、なんか兄ちゃんが逃げちゃったみてぇでさぁ。 代わりに俺が王子なんだってさ」
「って、貴様は継母役だっただろう!!」
「ああ、それならホラ。 ツェーリに代わってもらっちった。 こっちの方が楽しそうだし
なぁ」
……フェイロンさん、乗り気なのは嬉しいですが、王子なんですから、もうちょっと上品に……。
ともあれ、二人は楽しい時間を過ごしました。
――――が、運命の時間はやってきます。
十二時の鐘の音が鳴った瞬間、パジャははっとして、お城を出て行ってしまいました。
涙を浮かべ階段を駆け下りたパジャは、
「やっとこの格好をやめられる!!」
……………………。
えっと、「ああ、王子様。あなた様と過ごせた時間は忘れません」と呟き、そして夜の闇の
彼方へ消えていきました。
愛しいパジャの後を追って城を出たフェイロンは、階段に残されたガラスの靴を手に取り、
彼女を探す事を心に決めたのでした。
「ここに薄紫の長い髪を持った、背の高い女がいると聞いた!! 命が惜しくば、さっさと
出せ!!」
数日後、フェイロンの命を受けた使者が、パジャのいる家にやって来ました。
「どういう探し方をしているんだ! あいつは!!」
パジャは、自分を探している王子の優しさに心を打たれつつ、呟きました。
「『薄紫の長い髪を持った背の高い女を、生きたまま片っ端から連れてこい。 探していた女だ
ったら、金貨百枚を与える』だと!?それじゃあまるで指名手配の犯人じゃないか! 何のため
にガラスの靴があると思ってやがる!!」
――――まあまあ、そう怒らずに。
こ
れは別にフェイロンが暴走しているわけでなく、作者の台本通りなんですから。
「ソラスからの使者だな。 確かにその条件にぴったりな奴はいる。 ちょっと待っていろ」
継母のツェーリは、てっきりパジャが何か悪い事をして、指名手配になっているのだと思い、
追い出す良いチャンスとばかりに、パジャをフェイロンの使者に差し出しました。
「放せ! 俺は城になんて行かん!!」
「しかし、フェイロン様からの命令だ。 悪く思うな、パジャ」
「そうそう、ちょっとの我慢ですから」
そして、使者であるグイランとシズマは、パジャをフェイロンのいる城へと連れて行ったのでし
た。
「おー、結構集まったなあ」
城の大広間。集まった女たちを見て、フェイロンは満足げに呟きました。
そして、パジャが残していったガラスの靴を、グイランとシズマに渡し、
「じゃ、これ履かせてくれ。相当でかいから、履けたらじゃなくて、ぴったりな奴探してくれ
よ」
のほほんと呟きました。
さて、グイランとシズマは命令通り履かせてみましたが、ぴったりな女性は、なかなか見つかり
ません。
「……なあ、シズマ」
パジャがふと口を開きました。
「さっさと俺に履かせた方が手っ取り早いんじゃないのか?」
しかし、シズマはちっちっと指を振り、
「わかってませんね、パジャさん。 なかなか見つからず、絶望しかけた時、最後の一人が
まさしく探していた女性だった、ってのが物語の王道なんですよ」
「……勝手にしろ」
そして、ついにパジャの番となりました。
王子も、使者も、もうだめなのかと絶望しかけた、その時です!!
なんと、パジャの足がガラスの靴にぴったりと入ったではありませんか!!
王子もパジャも感動です。
「良かったなぁ、パジャ。 じゃ、そういうことだし、結婚式の準備でもするか〜? あはは、いい
な、それ」
王子の言葉に、パジャの目に涙が浮かびます。
「ふざけるな! 物語はここで終わりなんだ! 俺は帰るぞ!!」
ああ、もう、せめてラストくらいまともにやってくれてもいいのに……。
……あーあ、結局この劇は巧くいったんだか、いっていないんだか。
まっ、いいか。と、いうことで、王子とパジャは幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
……って、なんでしょう?このドドドドドッという地響きは……??
ああ!なんか劇の出演者たちが怒りの形相でやってくる!!
「わたしのセリフが一度しかないのは、どういうことだ。 言いたい洒落は、もっとあったの
だぞ」
「なんであたしのセリフもたった一回なのよ!? へらへら男と船酔い男ばっかじゃない!!」
そ、そんなこと言われましても……。
「ぼくは魔法使いで面白かったけどなぁ……。 お父さんは?」
「俺もなかなか楽しかったぜ」
そ、そうですよねぇ! 良かったですよねぇ!?
「我もソラスの代理として、ソラスの役に立てただけで十分だ」
「わたしにも、特に異議はありません。 王女のセリフが少ないのは、少々どうかと思います
が」
「わたしだって、出れただけでいいですよ。 まぁ、どっちかって言うとオルジェイ様の逃避行
とかの手伝いの方が面白そうでしたけど」
そうですよ!! ホラ、みんなセリフが少ないって言うの以外は満足しているみたいじゃない
ですか!!
……って、パジャさんはずいぶんと御立腹のようですね…………。
「何が満足だ!! 俺はどうなる!? 女装させられるわ、犯罪者のように城へ連行されるわ、
最悪な事だらけだ!! 他の連中が許そうとも、俺は絶対に許さん!!」
ちょ、ちょっと、パジャさん! 落ち着いて!!
あ、青龍等だけは勘弁して!! って、聞いてないでしょ!?
ぎゃっ! ……や、やっぱこんな劇、やめときゃよかった…………ごふっ……。
舞台には、血まみれになった、無謀にして命知らずな作者のみが残った。
どこからともなくカラスが寄ってきて、作者の頭をつつく。 作者の指が微妙に動いた。
生きてはいるようだ…………。
< END >
いやもうなんというか……パジャ、やっぱりあなたには不幸が似合う……。しかしこの国、
フェイロンが王様でパジャが女王様になるんだとしたら、恐ろしいやら楽しいやら……。
オルジェイ様ったら、どさマギでおいしい思いしちゃってますねぇ♪ まぁ、本編で不幸街道
全力驀進仲なぶん、報われててよいですなぁ♪(パジャはどーなる)。