ネットワークRPG“クレギオン”シナリオ#5
『バビロンの紋章』
第4回プライベートリアクションKA2
★光と闇の間
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『あれから、アンジェラからの連絡は無い。
遥か遠く、かの地にある愛しき妹。わたくしの魂の半身。
願わくば、天空の神たる、敬愛すべき天のお父様……彼女達にこの地と同じだけの慈悲をお与え下さい。
かの地にある皆が、この地に帰ることの出来るように。
そして、再び共に歩める時を下さい。――愛しい人々のために』
(1月。リサ・アンジェラ・オルラヌスの双子の姉、リナ・セレスティア・オルラヌスの日記)
Act.1 Retuners
ロカルニアの自然は、そこが高山地帯という事もあって、決して人々に優しいものではない。その地に住む人々の生活は、何もかもが、自然との闘いの中で少しずつ獲得していったものである。その様式も考え方も、気質も誇りも――遠く古の時より代々受け継がれて来たものであり、彼らの歴史そのものでもある。24年前にアダンの支配下に入ったとはいえ、この地で暮らし、生きて来た彼らが、生きる苦しさの知らぬ支配者に搾取され続ける事など、容認出来るはずもなかった。
――そして、ロカルニアの民はゲリラとなった。
○
農家のすぐ脇にある馬小屋で、村の少女が馬の世話をするのを興味深げに観察していたリサ・オルラヌスは、遠くの、奇妙な気配に、ふと視線を空に向けた。
「どうかなさいましたか?」
リサが突然表情を厳しくしたのを見た少女は、不安げに女騎士に尋ねた。
「いや――」
なんでもない、と言おうとしたリサは、己の胸騒ぎに思考を巡らせる。……良くない『感じ』だ。近いうちに歓迎されざる者が訪れるだろう。恐らく、複数。風の音がおかしい――いや、風じゃない。風の運ぶ、遠くの鳥の声が止んでいる。
「馬の手入れは終わりだ。すぐに『警告』がくるぞ」
果たして、リサの言う通りだった。
鋭く、短い角笛の音が何度か響く。ロカルニアの民と共に過ごすうちに、角笛の伝えるものが何なのか、アダンの騎士達にも自然と身につき始めていた。
「敵襲か!?」
村のある岩山には、幾つかの亀裂が洞窟となって存在している。騎士達のキャヴァリアーはその中に隠されていた。“エース”ことアイク・アークライトは、角笛の音に即座に反応し、この洞窟へと駆け込んで来たのだった。
「ああ、どうやらキャヴァリアーらしいが」
ゲーツ・クロリアスの言葉にエースは言を荒くする。
「ヴァントゥーの奴等か!!」
「十鬼衆だ。複数機存在する。詳細は不明。――気配からすると4機程の様だがな。すぐ出るぞ」
取りつく島のないリサの口調に、エースは思わず肩を竦めた。リサはそんなエースの様子に動じるでもなく〈アズラエル〉に搭乗する。ゲーツの〈ナグロアート〉が洞窟を後にした。
山の向こうでは既に戦いが始まっているらしく、銃火を交える音が風に乗って聞こえてくる。
(十鬼衆の好きになどさせるものか)
意気込みと共にエースは〈アイリーン〉を見上げる。白金の戦乙女はアークライト家の伝統流派であるダブル・シックルを主武器とする。高い機動力はその格闘性を更に信頼できるものとしていた。搭乗しようとしたエースを呼び止める声がする。アレクサンドラだ。
その頃には、洞窟を出ていた〈アズラエル〉のリサは、空中に留まったまま、何げなしに足元に注意を向けた。岩棚でエースとアレクサンドラが何か喋っている。2人の表情を見て取ったリサは、ふと微笑んだ。
(人々の幸福なる時間は今や流血なくしては護ることもかなわぬとはな)
こんな時だからこそあの2人の様子を歓迎すべきものとして見ながらも、そんな考えが脳裏をよぎる。
「遅いぞエース。敵は間近だぞ」
{すまん。もう行く}
白金の金属翼を広げて戦場へ向かう〈アイリーン〉をいつまでもアレクサンドラは見つめていた。