ネットワークRPG“クレギオン”シナリオ#5
『バビロンの紋章』
第6回プライベートリアクションKA2
★子午線の祀り
4/5
Act.4 Evening Ster
彫刻の施された、華麗な一室にマルコ・バルディアは居た。洗練されたデザインの長椅子にその身を預けながら思索に耽っていた。これからの事を考えると、自然と笑い声が漏れた。地を這うアダンの騎士共。彼らを襲うバルミの海兵隊と――それを連れて来たデモンバスターズ。手の中には兄があり、そして旧人類にはない力がある。奴等をどうやって陥れてやろうか――絶望の淵へと叩き落としてやろうか?
人の気配に、マルコは視線を扉に移した。いつの間にかリサがそこに立っていた。じっとマルコを見つめ、視線が交わると、爬虫類の様な冷たい瞳で彼を見据えたまま微笑みを見せる。
「裏切り者になった気分はどうだ?」
ふと興味が湧いて、マルコはリサにそう尋ねた。リサはクスクスと楽しげな笑い声をあげると、彼の側へ歩み寄る。魔性の輝きを帯びた獣の瞳でマルコの瞳を覗き込む。
「……でも、わたしはアダンの騎士よ。わたし自身は何も変わらないのだから。少し、皆と進むべき途が違うだけだもの。途を違えればそこに衝突の生まれるのは致し方のない事よね。ただ、わたしの『正義』は。求める『未来』は譲れないから」
悦に入ったかの様に満足げな笑みを浮かべてリサは言葉を続ける。
「だから、あなたのそばに居るのよ」
リサの言葉にマルコは少し困惑した。この言い方はまるで、自分を裏切り者だと考えていない様にも聞こえるではないか?
「いずれ彼らはこの城に牙を剥くわね。遅かれ早かれ――すぐ間際の事かも知れないわ。だから、今のうちに言っておくけれど」
穏やかな表情でリサは傍らに座すマルコを見下ろす。
「あなた、自分を理解出来るかって言ったわね。こんな自分を理解出来るかって。解るわよ――痛い程ね」
マルコは嘲笑を浮かべた。
「安っぽいヒューマニズムか? そんなものは糞食らえだ」
リサは獣の瞳で見据えたまま応えた。
「人々の悲鳴は至上の音楽。何よりも、泣き叫ぶ声は耳に心地よい。人の――愚かなる人間共の、絶望に打ち拉がれる表情を見るのは好きよ。世に存在する価値なきものはこの世から迅く滅び逝け。それが我が歓びなれば――と、考えていたの。今でもそうだけれど。ただ、時々思うのよ。人の、全ての者は愚かしいか?価値ある者は皆無なのか? 純粋な者は存在しないのか? わたしを踏み留まらせる者はいないのかってね」
無言のままリサを見つめるマルコに、リサは微笑みを向けた。
「この様な考え方は、人の世には受け入れられない。わたしを理解する者は少ないわ。尤も、万人に受け入れられる必要性も感じないけれどね。だから『狂気』の度合いは、もしかするとわたしの方が上かもしれなくってよ。ヒューマニズムなんて関係ないの。ただ、あなたが……救けを求めて心の底で泣いているのではないかと思って」
「馬鹿な事を」
再び嘲笑を浮かべるマルコに。リサは静かに告げる。
「自分の存在が他の者に受け入れられないからと言って、それは自分がここに存在してはならないという理由にはならない。だから、他の者を――自分を受け入れない者を呪って、傷つけ、排除する事は自分自身の帰るべき処を自分で失くしているようなものだわ」
そうして、リサは華のような笑みを見せた。
「まだ、間に合うと思うの。だから、一緒に帰ろう。あるべき世界へ。こんな――過去の冥い夢の中の世界ではなく。生きるべきその世界へ、一緒に」
マルコは高らかに笑った。
「ここを、夢の世界だと言うのか?」
リサは笑みを崩さず断言した。
「幻影よ。……あなたは闇の世界しか知らないから。闇にしか目を向けれないと言うのであれば、生きて、光を見つけてご覧なさい。それで、世界は変わるわ。1人で見つけられないって言うのなら、一生見張っていてあげるから……冥き途から出ていらっしゃい。歩きましょう。一緒に、光の途を」
リサはそのまま身を落とし、ふっと、ごく自然に、マルコを抱き締めた。――幼少の頃より、姉が自身にそうしてきたように。
「わたしでは、あなたの大地になれない?」
無意識のうちに、マルコの柔らかく波打つ髪を指に弄びながらリサは言葉を続ける。
「わたしはわたしであってわたしでしかないから、あなたの兄上にはなれないけれども――アンドレアはこの世に唯1人しかいないもの。あなたも、わたしも、その代わりはどこにもいないのよ。でも、あなたがそれで満足するのなら、わたしには何をしてもいいから」 言葉を重ねながら優しく頭を撫でる。
「わたしはあなたの全てを認めているのだという事だけ覚えていておいてね。他の誰でもない、あなたの事を。わたしはあなたが好きよ――マルコ・バルディア。あなたの事を」
と、その時。不意に現れた十鬼衆の1人が敵襲の報を告げた。騎士達のキャヴァリアーだという。影の王へ言葉を連ねる十鬼衆を背に、リサは扉へと向かった。巨大な扉に手をかけ、リサは毅然とした表情でマルコを振り返る。魔性の瞳で彼を見据えた。
「歓迎してやらねばな。〈アズラエル〉を出すぞ」
わたしの威力の全てを。わたしの護るべき存在の為に。――わたしの望む未来の為に。