ネットワークRPG“クレギオン”シナリオ#5
『バビロンの紋章』/灼熱の夜明け編
第11回リアクションXA1
★The Lost Planets
3/6
Act.3 彼らのこれからは
戦艦アトラスの中枢は、三位並立思考システムを持つ巨大コンピュータ『ハレルヤ』によって統括される。『ハレルヤ』へのダイレクトコンタクトは少なくとも軍籍のIDが必要であり、また、脳髄部分へのインターフェイスの埋設、そして何よりもある程度の専門知識が必要である。ネットダイバーと類似したそのコンタクト方法は、専門知識とそのセンスなくしては思考高速処理について行くことが出来ず、結果『彼女』と会話する事もままならない。トマシアン・エレザールは『ハレルヤ』とダイレクトコンタクトを行える数少ないものの1人であった。
ルゥエス艦長からの依頼で、トマシアンは『ハレルヤ』とこれから進むべき航路の計算を行っていた。 電脳世界で具象化した『ハレルヤ』はその莫大な情報により巨大な研究都市になり、その情報を取り出し活用する思考システムは疑似的に与えられている女性人格の案内人となる。トマシアンの目前に穏やかな笑みを見せ座っているのは、3人の中でも最も論理思考を優先するようプログラムされている人格『ヴェルダンディ』の具現化した姿だった。シックな色調のスーツを着こなしたその姿は大人の落ち着いた女性の姿。少しだけ、ヘリシア博士に似ていた。
船団ではなく、いずれ、合衆国を本当に再建するつもりなら、幾つかの恒星系の確保は必要不可欠である。天覇帝国によって引き起こされたこの戦争の責任を諸外国は合衆国の生き残りに求めてくる事だろう。そして結局原因は合衆国のスターゲート計画にあるのだという事実は、合衆国そのものに良い印象を与えてくれないだろう。国家間の様々な利権を考えると、いま星間地図にある所は手に入れる事など出来まい。我々にはアトラスがある。そして、科学力も。未踏破星系・未踏破宙域へと歩を進めた方が良いだろう。きっと、その彼方に我々の根付ける星がある筈だ。『ハレルヤ』の情報量に、『ヴェルダンディ』のサポートを加え、トマシアンは『ハレルヤ』にリンクした己自身の思考でもって、複雑な計算を始めた。
ジン・サカキは小さな輸送船の小窓から、遠く離れたアウロニアを見つめた。散々世話になったアウロニアの修理屋の親娘は自分を快く送り出してくれた。
――無くした物は確かに多い。でも、全部を無くした訳じゃない。自分がそう望むなら、帰るべき所だって、ちゃんとある。
ジンは軍認識票と一緒に掛けている胸のペンダントを握り締めた。たった1枚残された愛しい婚約者の写真。日だまりの様なその微笑み。
もう一度、やってみよう。自分に出来る事を。過去に捕らわれるのではなく、これからを生きて行く為に。
そう考えたジンは、アウロニアを後にして、アトラスに戻る事を決心した。宇宙港まで行って、アトラスが出発した事を聞いた。しかし、幸いにもアトラスの行く先はある程度にしろ解っていた――アトラスへの帰還を信じたヘリシア博士が、アウロニアただひとつのこの宇宙港にメッセージを残しておいてくれたお陰である。ジンは、小さな輸送船と交渉を始めた。
交渉は意外と簡単に済んだ。辺境の人間は、基本的に素朴で、互いに助け合うものなのだと、ジンは改めて感じていた。荷物は自分、運び先は戦艦アトラス。報酬は、なけなしの現金と、足りない分を自分がメカニックとして船内で働く事を条件に、ジンはアトラスを目指している。アトラスと会えるのも、そう遠い事ではないだろう。
戦艦アトラスには、合衆国の人間ばかりが乗っている訳ではない。アウロニアを後にする時に、アウロニアの人間を何人か乗せて来ていた。
その中の1人、辺境騎士のシーラ・フュレスは、ブルー中隊の才女メリル・リース相手に合衆国キャヴァリアー相手の戦闘シュミレーションを行っていた。
パルスェス騎士団に所属していたシーラは、戦が終わったのをきっかけに、アトラスに乗る事を決めた。戦が終わるまでは、これからもパルスェスの騎士として生きていくつもりだった。だが――リーダーであったリセリナはルムロアの騎士になってしまったし、一緒に戦ったバンデッツともあまり反りが合わなかった。アトラスが新天地を求めて出立する、と聞いたので、自分自身の可能性を見いだす為に皆に同行を希望したのだった。
アトラスに乗ってすぐ、キャヴァリアーに乗らないか、と言われた。キャヴァリアーに乗れる人間はアトラスでは貴重なのだそうだ。自分の愛機〈ガイジナ〉はこの船に積み込んで来ている。その事を聞き付けたのか、技術部のヘリシア博士とマサコ・ヤマバ博士、ルナ・ケイオス博士の3人に早速こう聞かれた。
「自分のキャヴァリアーをこのまま使ってもいいし、カースシリーズを使用しても構わない。貴女の特性と希望に合わせて機体変更を行うから、どちらかに決めてもらえないだかしら?」
その答えを出すために、自分達の機体性能を入力した戦闘シュミレーションを行う事にしたのだった。
カースシリーズは、元々合衆国の標準的な機体よりスペックが高い。それに、近接戦闘に片寄る騎士の戦い方と事なり、遠距離での射撃戦が中心となりがちである。メリルの機体〈シルフィード〉は機動力も十分にあり、何より火力も高い。シーラは剣技に優れていたが、相手の機体を捕まえられないのでは話にならなかった。ただ〈ガイジナ〉は装甲値が高いので、それで多少は持ちこたえられた。
「今度はあたしとやってみない?」
シュミレーションシステムから降りようとしたシーラに声を掛けたのはグリーン中隊のアフロディーテ・バーンシュタインである。その言葉を聞いてメリルも笑みと共にそれを勧めた。
「そうね、デューテは格闘中心で戦うから、あたしとは違う手ごたえが味わえると思うわ」
シーラは頷いて席に戻る。アフロディーテは喜々としてメリルの退いた席に着いた。キャヴァリアーデータを書き換える。メリルは開始の合図をした。
機動力は概ね五分と五分。〈ガイジナ〉には分厚い装甲があり、アフロディーテの〈ピュアレイス〉にはその代わりに格闘力がある。シーラは、メリルよりは戦いやすい相手だと思った。だが、勝敗が決まるまで随分と長引きそうだ。
〈ピュアレイス〉の攻撃は驚くほど正確だった。これはアフロディーテ自身による格闘鍛練の賜物と言ってもいい。避け切れずに何度も直撃を受けるが〈ガイジナ〉の装甲がその攻撃の衝撃をほぼ弾き返す。
暫く白熱した戦いが続いていると、そこにスカーレット中隊の名物コンビ(?)が現れた。
「面白い事をしているな?」
モニターを凝視するメリルに声を掛けたのは“スカーレットの良心”カイン・レイルドだった。
「フッ。この戦い方は、美しくないな」
前髪をかきあげて呟いたのは“陶酔馬鹿”の異名をもつシキ・リーズィクラウツ。
「戦いというものは、短時間に一撃で、が美しい姿だよ。その点この私は常に美しい戦闘スタイルを……」
大きな振り付きで演説を始めるシキを、あからさまにメリルとカインは無視する。
「近接戦能力は十分よ。カースシリーズに乗るかもしれないけれど、その時はどの隊に所属になるかしらね」 メリルはそう言って、含みのある笑顔をカインに見せた。
ブルー中隊所属のクラリス・エファーソンとセフィール・ライトは、こっそりとある一室の扉にへばり付いていた。コップを耳に押し付け、じっと耳を澄まし、集音にも余念がない。この技は“アトラスの種馬”の異名をもつレディー・キラー、アッシュ直伝のものだ。
室内では、イーヴ・クリストマスやアムネシア・フォアヘイト以下ブラック中隊に所属していたパイロット達が集められている。
キース・ダルバ隊長が一時行方不明にってから、ブラック中隊は3小隊に別れて運用されていたが、この度、新しく隊長を据え、再び中隊として運用する事となったからである。
皆の前では、ルゥエス艦長が1人の男を皆に紹介していた。
彼の名前はユーシス・イスカリオテ。キース亡き後、ブラック中隊の中隊長に任じられた人物である。ライトブラウンの髪に黒い肌。背がずば抜けて高い所はキースと同じだが、細身の印象が先隊長と大きく異なっている、とアムネシアは思った。特に射撃能力に優れているらしい。キャヴァリアーは〈暗黒の魂〉。不可視機体として新たに開発された装甲素材を用いている。
ユーシスの挨拶は至極簡単なものだった。
「宜しく」
とただ一言だけである。イーヴは、厳しい視線で新隊長を見据えた。
「あんた達、何してるのよッ!!」
部屋の外から金切り声の叫びが聞こえたかと思うと、ガラスの割れる音と、人の走り去る音。扉近くに座していたイーヴが扉を開けると、そこには仁王立ちになったスカーレット中隊隊長、シャロン・テンプルが廊下の彼方を睨みつけている。
「マックスの舎弟共よ。盗み聞きしてたのよ。全く、躾がなってないわねッ!!」
シャロンの足元には、割れたコップが散乱していた。