ネットワークRPG“クレギオン”シナリオ#5
『バビロンの紋章』/灼熱の夜明け編

第12回 追加リアクションXA1

★ゲルニカ 4234年

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――人は忘却の生物である。
特に自らにとって不利・不快な事象は忘れ去りやすい。……また、忘れ去らねばならない。
意識的・無意識的に忘却を繰り返す事によって、
人は辛うじて発狂を免れる。
(『Intolerance――あるいは暮林助教授の逆説』)

Act.1 砂漠の中の一粒の砂
 シキ・リーズィクラウツは、2ヶ月程前から、ある人物を観察し続けていた。その対象――『彼』に違和感を覚えたのは、偶然に近かった。パトロール任務に出た後、シャワーを浴びて、雑談していた時にふと気が付いたのだ。それから、ずっと当人に悟られぬ様に観察を続けているのだが、疑問は晴れるどころか、そうでない事実ばかりが目につく。
 他の連中は――フッ、さすが凡才の悲しさか。誰もろくに気が付いていないとは情けない。ここは天才のこの私が、自ら出向いて真実を追究せねばなるまい。

「君に重要な話があるのだよ」
 トマシアン・エレザールは、目の前で前髪を優雅にかきあげる長身の男を、見据えた。
 格納庫から自室に戻ろうとしたトマシアンに声を掛けたのは陶酔馬鹿の異名を持つシキである。シキは、澄んだ青色の瞳を意味深にトマシアンへ向け、無言で腕を掴むと、滅多に誰も来ない薄暗い倉庫の一室に彼を連れ込んだ。
「――話とは?」
 シキの腕を振り払って、トマシアンは憮然に問う。シキはいつもの彼らしい自信に満ちあふれた笑みを満面に浮かべながら、ずい、とトマシアンに歩み寄った。ダン、と勢いよく腕をつき、トマシアンを壁に追い詰める。抑揚のない声で、シキは告げた。
「我々と共に天覇帝国と戦ったトマシアン・エレザール君は何処にいるのかね?」
 トマシアンは、突然理解しがたい言葉を聞いて、呆れるしかない。
「何を、馬鹿な事を――」
 馬鹿馬鹿しい、とでもいいたげな表情でトマシアンが言いかけると、シキは左手で自身の前髪をかきあげ、嘲笑を浮かべた。
「隠し立てしようとしても無駄だよ。君が2ヶ月程前から、トマシアンと入れ替わっている事は解っているのだからね」
 シキの青い瞳が、トマシアンの濃藍の瞳を覗き込む。
「もう一度だけ、聞こう。トマシアン・エレザール中尉は何処にいる?」