ネットワークRPG“クレギオン”シナリオ#5
『バビロンの紋章』/灼熱の夜明け編

第12回追加リアクションXA1

★アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

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Act.1 災いの兆し
 トマシアンが病室に行った時、宇宙海賊リサIルラヌスは既に意識を回復していた。
 電子ロックで厳重に施錠された病室のIDカードスロットに意識を振り、ドアを開く。その時には、彼女は海賊船の行方を聞き出そうとするリノ・カーネリア中尉と言い争いをしていた所だったが、どうも御互い平行線の主張になっているらしい。
 このままでは埒があかないと考えて、リノにちょっといいかなと手で合図すると、トマシアンは憮然とした様子のリサに切り出した。
「俺はグリーン中隊のトマシアン・エレザール中尉だ。君のキャヴァリアーの事で話があるのだが」
 リサは不思議そうにこの訪問者を見つめた。じっと、品定めでもするかのように。
「君のキャヴァリアーには、可能な限り圧縮されたデータが、メモリ一杯に入っているようだが……あのデータは一体何だ? 良ければ、教えてもらいたいのだが」
 考えているのか、何度か瞬いてから、彼女は告げた。
「言って何かするとでも言うの?」
 そして、意地の悪い笑み。
「第一、あれはとても大切なもの。『電算機』なんかに、教えられないわ」
「何だって?」
 捕虜の言葉に、珍しくトマシアンが言を荒げた。リノとアダンの従者フィアー・リディオは思わず顔を見合わせる。リサは、うざったそうに、溜息を漏らし、言った。
「……『電算機』って言ったのよ。何か文句ある?」
 トマシアンは苦々しげにリサを睨み付ける。2人は暫くそのまま睨み合っていたが、トマシアンは、務めて冷静さを失わないようにしながら、言いかける。
「そんな戯言はいいんだ。君にとっても悪くない話に……」
 そんなトマシアンの言葉を全く意に介さず。彼女はトマシアンを見据えたまま、言葉を割り込ませた。
「戯言? そんな事言っていいの?」
 自分を見下ろす青年を。黄金の瞳でじっと見上げたまま。
「あなたが造り物だって事ぐらい、誰でも判ることよ」
 確かめるように、一言一言、ゆっくりと発せられる言葉。
「頭の中も、体の中も。電子機器で一杯だもの」
 いつものトマシアンなら一笑に付するところなのだろうが――今回は彼女の言うことに逐一表情が変化する。あり得る筈は無いという動揺。しかし、逃れられない現実を付きつけられたように一度だけ伏せられた瞳。自信に満ちた彼らしくない――そうリノが感じた、心の揺れを隠し切れない声でトマシアンは告げる。
「そんなことは無い」
 しかし彼女は、現実を叩きつける様に言葉を繋げる。
「否定したって駄目よ。『電算機』さん」
 どういう理由かは解らない。しかし。彼女はそれを知っている。理解している。トマシアンは脅威を覚えた。合衆国の最高機密を。アトラス艦内でも殆ど知られていない事実を――解っているのだ。この俺自身の真実を。でもそれは。誰よりもトマシアン自身が認めたくない事。容認したくない出来事。しかし……。
「俺は人間だ。それよりも俺の話を……」
 彼女が真実を知る事はあり得ない。そう決断して言いかけたトマシアンの言葉を、リサはまたも遮った。
「あなた、あの、白銀の羽が沢山生えたキャヴァリアーに乗ってたでしょう?」
「それが何か?」
 彼女の唐突な一言に、トマシアンは戸惑いを見せる。リサはトマシアンの言葉など、全然意に介さないつもりらしい。勝手にどんどん言葉を繋いで行く。
「合衆国のキャヴァリアーがどういう構造になっているか知らないけれど、他のキャヴァリアーからはパイロットの気配と、もうひとつ別の気配がしたわ。でも、あなたのキャヴァリアーからは、ひとつの気配しかしなかったわよ。パイロットじゃないあなたの気配だけ」
 何を根拠にしているのか、自信に満ちた口調でリサは告げる。トマシアンの言葉など、全く聞く様子も無い。これでは、会話になりはしない。トマシアンはリノとフィアーを気にしながら、そう考える。この「戯言」を。リノが本気で取るとは思えないが……。
「ドラゴンの形をしたキャヴァリアー、あるわね。それからはパイロットの気配と、あなたの気配がしたわ」
 馬鹿馬鹿しい話だとは思いつつも、リノはこの言葉に思わず考えを巡らせる。ドラゴンの形のキャヴァリアーというと……シンザークの<レヴィアタン>だろうか? 確か、トマシアンの<ガルーダ>と<レヴィアタン>は合体システムのプロトタイプだったはずだが……。それにしても、彼女は自分たちの機体を良く見ている。リノはそこに感心した。
 リサは再び溜息をつく。解りきっている事を何度も言わせないで、とでもいうように。
「だから『電算機』だって言ってるのよ。キャヴァリアーの気配と同じだもの。パイロットにならともかく、道具に大事な話は出来ないわ。キャヴァリアーの部品なんかにはね」
「俺は道具なんかじゃない!!」
 反射的に叫んだトマシアンは、そのままリサの胸倉を掴んだ。このまま、彼女の言葉を無視することなど出来なかった。
「訂正しろ、その言葉を!!」
 掴み上げられたまま、リサはぞっとするような冷たい瞳で彼を見上げた。ややあって、彼女は告げた。
「躯体の内部がどれだけ造り物で占められているのか、思い知るがいい。いつまでも愚劣でか弱い人間なんかの振りをする事はないわ、蛋白質の皮を被った機械人形さん」