ネットワークRPG“クレギオン”シナリオ#5
『バビロンの紋章』

第5回プライベートリアクションXA1

★Ancient Fable

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Act.2 宇宙の彼方に

 アトラス艦内での戦闘で負傷した民間人を病院へと収容したグリーン中隊各機は彼らの処置を専門家に任せて、再び敵の警戒にあたった。敵によって穿たれた艦側面部の穴も迅速な処置により塞がれつつある。内部では今、それこそ戦場の様な騒々しさで修繕が行われているに違いない。
 ジン・サカキは“アイゼン”で艦橋前面部を優美に横切りながら、艦右前方部にじっとしている隊長機“若草色の大地”にふと目をやった。脳裏に、さっき収容した民間人の姿がよぎる。重傷の少女。その肌の色、髪の色。何よりも同じ瞳の色――暖かな印象のモスグリーンの瞳。
 彼女に家族の事を問うてみる事は簡単だった。だが、自分の心の中の何かが、それを阻んでいた。聞く事がとても憚られたのだ。聞いてみようか? そう思うと、焦燥感が沸き起こる。聞いてはいけないのだ。家族の事は。ふと、そんな気になってしまうのだ、ジェシカさんの事を考えると。
 ジンは無意識の内に胸元のロケットを握り締めていた。
{――あ、皆が帰って来た!!}
 プラム・リーズンの明るい声にジンは我に返った。見ると、遠くにブルー中隊とスカーレット中隊各機体の姿がある。アトラス左前方部に位置していた“レヴィアタン”が、その長い尻尾を踊らせる様にしながら、彼らを出迎える。
{お帰りなさい!! 皆、怪我はない?}
 シンザーク・アストライアの弾んだ声に、スカーレット中隊03“ソマーリヒト”を駆るシキ・リーズィクラウツがいつもの調子で応じる。
{ふッ。負傷するなどと、美しくない姿をこのわたしが好むと思うかね? もっとも、他の皆はどうだか与り知らぬが}
 その横で、冷静に“ルシフェル”のカイン・レイルドが告げる。
{スカーレット中隊各機は多少の損傷が見られるが概ね無事だ。心配はいらない。ブルー中隊も同様だそうだ}
 その言葉を聞きながら、トマシアン・エレザールは遥か彼方に反応のある敵の姿を、“ガルーダ”に可能な限りのありとあらゆる手を使って、捉えられる限り捉えてじっと見つめていた。緑色のフィールドに包まれて飛ぶその姿を。天駆ける双頭龍の姿を。
「――非常識な連中だ」
 吐き捨てる様に呟き、厳しい視線で彼らを一瞥した後、トマシアンはジンに声を掛けた。
「サカキ中尉。座標WE76よりWE79方面へ向けて、移動中の敵を発見。オーキスを殲滅させて、悠々と凱旋中だ」
{ああ?}
 トマシアンの言葉に、ジンは慌てて“アイゼン”に敵の姿を探させた。モニターに、ぼやけた様に何頭かの龍の姿が粗く映り出される。“アイゼン”の能力ではこれが限界だった。
(ド……ドラゴン!?)
 モニターを見つめジンはしばし呆然とする。トマシアンの通信を聞いていたのか、同じ様に敵の姿を見たシンザークは、子供の様に声をあげた。
{す……凄いよ。ねぇねぇ、あれ見てよ!! 龍が宇宙を翔んでるよ!!}
 その声は、動物園かサファリパークで普段は滅多にお目にかかれない珍獣を目にした時の様に弾んでいた。プラムも無責任に同様の声をあげる。
{ほんとだー、すっごいねー。どうやって飛んでるのかしら? 息が詰まらないのかなぁ?}
 きゃあきゃあと騒ぐ2人に、トマシアンはふと頭痛を覚えた。
{本物だよね? ねぇ、トマシアン、凄いと思わないかい? 龍なんだよ、生物の。生き物なんだよ。それがさ、宇宙空間を翔んでるなんて――}
 そういえば、こいつは結構、動物好きだったな、と思いつつ、トマシアンは冷たい一言をくれてやった。
「生物だろうが、何だろうが、あれが“敵”だ。紛れも無い融合者の」
{しかも、強い}
 アッシュの言葉が割り込む。
{エルドで交戦して来た。奴等のお陰でエルドのドーム都市はほぼ壊滅状態だ。しかも、それを俺達のせいだって言ってきやがった}
「……後で、詳しく聞かせてもらおう」
 鋭い視線を彼方に向けたまま、トマシアンは告げた。