ネットワークRPG“クレギオン”シナリオ#5
『バビロンの紋章』
第4回プライベートリアクションXA2
★Cypress
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植民歴4232年5月。合衆国は天覇帝国の進攻により、首都星ニューエールを失った。合衆国の誇りでもあったニューエールは、異常現象宙区域=Dスペースに飲み込まれてしまったのである。その後も天覇帝国は残存戦力を掃討する作戦を展開し、年末までには、Dスペースの拡大傾向を更に強め、合衆国の大半はそれに飲み込まれてしまっていた。
同年12月。天覇帝国による襲撃を受けた宇宙戦艦アトラスは、民間船団を伴ってサラトガ太陽系を脱出し、近地球圏へと旅立った。
Act.1 帰還
植民暦4233年1月。サラトガを後にして3週間程経っただろうか。百余隻の民間船団と共にオーキス太陽系を目指すアトラスは航路外航行に入っていた。
合衆国がDスペースに飲まれたと言っても、その版図全てが塗り替えられている訳ではない。合衆国でも辺境部はまだDスペースの脅威に晒されてはいなかった。特に、小さな太陽系がひとつだけという小国は尚更である。そんな小国のひとつ『エール太陽系』に合衆国のキャヴァリアー・パイロット達が集まっているという情報を頼りに、軍隊再編成の確認に赴いていた2人――トマシアン・エレザールとシンザーク・アストライア――がアトラスに戻って来たのは丁度この頃であった。『エール』も既にDスペースに飲まれてしまい、そこに集まっていたパイロット達の多数はそのままDスペースへの突入を試みたという報告は、レアリー・ルゥエス艦長代行の肩に掛かる責務をより確実なものとするだけだった。――アトラスは、誰を頼る事なく、自身の能力でこの苦境を乗り切らなくてはならないのだという重い責務を。
Act.2 追憶
格納庫では、グリーン中隊所属のジン・サカキが、戻って来た2機のキャヴァリアーを装甲の反射するライトに目を細めながら、ため息混じりに見上げていた。
辺境での戦闘に幾度となく晒されたのだろう“ガルーダ”と“レヴィアタン”は、あちこちに損傷が見られた。それでも尚、何度も繰り返される長距離フォールドに耐えて戻って来たのだから、万全の調子に整えてやろう。そう思って、つい整備を始めてしまった。
他の機体と少し異なり随分狭い印象を受ける“ガルーダ”のコクピットに座り自己診断システムの走査結果に目を通しながら、ジンはふっと、アトラスに戻って来たシンザークの様子を思い起こした。いつも笑顔を絶やさず、あれこれと人の世話を焼きながら楽しげな表情ばかりを見せていた――家が近くにある事もあり、小さい頃からどんな奴なのか良く知っている――あいつが、青い顔と緩慢な動きを見せ、濁った様な瞳で自分を見たのには正直言って驚かされた。艦橋にいる人間からエール太陽系での出来事を小耳に挟んでいたジンは、今日何度目かの溜め息を吐く。
(あの体験は、あいつには辛すぎるだろうよ……)
汝、殺す事なかれ。無闇とその生命を奪う事なかれ。食す以外に殺してはならない。食べるという事はその生物の命を貰うという事だ。だから、食材には必ず感謝をする――生物の未来を貰って、それを血肉にし、自分の未来にするのだから……と。そういう考え方をする様な奴だ。元々、軍人なんてやるには到底無理な性格なんだとジンは考えていた。だから、アトラスに転任になった時、同じ隊にシンザークの姿を見つけた時には、信じられない気持ちで一杯だった。本当に大丈夫なのだろうかと――いずれ、目の前で流される血を現実のものとして耐え、乗り越えられるのだろうか。その時感じた懸念は現実のものとなってしまった。
じっとモニターに鋭い視線を投げ付けながらそんな事を考えていたジンは、己の考えを払う様に頭を振った。軍人としてここにある以上、遅かれ早かれこんな経験は訪れるものだ。それでもアトラスに居る時にこうなったのはある意味幸運だったかもな。たった1人で乗り越えるには余りにも重いだろうから。少なくとも、ここに居れば仲間が多少は支えてやることが出来る。
“人はひとりでは生きられない”
ジンの心中に、ジェシカの言葉が鮮やかに蘇った。