ネットワークRPG“クレギオン”シナリオ#5
『バビロンの紋章』

第4回プライベートリアクションXA2

★Cypress

5/5


Act.8 鎮魂

 アトラスに帰投して暫くの間、シンザークは“レヴィアタン”から出て来なかった。そのまま、時が過ぎ、皆が寝静まる頃になって初めてシンザークは“レヴィアタン”のハッチを開けた。
「御免ねレヴィ。色々と付き合わせちゃって」
 沈んだ表情で、シンザークは愛機を見上げた。主の言葉に呼応する様に、コクピットでは幾つもの光点がきらめく。
 泣いている姿を見せると――サカキ先輩やトマシアンが心配する。そう考えて“レヴィアタン”から出られなかったのだ。闇の深淵に端を発する深層心理の迷宮は――冥くて、とても、深い。考えてどうなるものではない事は良く分かっている。自分1人の力で全てが何とかなる、なんて自惚れた事を考えている訳でもない。ただ、そこに存在していた生命が、そこに当然在るはずの人々が、永遠に――失われてしまった事が、堪らなく悲しくて、胸が引き裂かれそうになるだけだ。
 それでも――と、シンザークは考える。ルフタルの悲劇は、多分、自分よりもプラムの方が悲しみが深い筈だ。探していた家族を、目の前で永遠に失った。僕が余計な事をしたから――? “レヴィアタン”の中で何度も繰り返した疑問が再び鎌首を擡げた。永遠に行方不明で、見捨てたのだと悔やみ続ける事と――再会を果たし、喜びの絶頂から、目の前で家族を失うという不幸のどん底に突き落とされる事と、果たしてどちらの方が彼女にとっては、ましな事だったのだろうか。
 ルフタルで過ごしていた人々は、どんな未来を望んだのだろう。『夢』は。『希望』は。求めていたものは何だったのだろう。
 そんな事を考えながら住居区へと帰る。ふと顔を上げると、プラムの部屋の前に立っていた。無意識に、インターホンを鳴らす。
 休憩室で皆に慰められて、多少は落ち着きを取り戻したプラムであったが、さすがに1人になると、再び悲しさと寂しさが胸中を去来する。そのまま寝付けず、ベッドにころん、と転がりながらつい昔の事を思い出していたプラムは、呼び出し音に、誰だろう、と首を捻った。
「僕だよ。少し、いいかな?」
 シンザークの言葉に、プラムはひょっこりと扉から顔を覗かせる。プラムの様子から、寝付けないのだろうと思ったシンザークは穏やかに微笑みながら、言った。
「展望台に、星を、見に行こう? ね?」
 プラムは小さく頷いた。シンザークはそのままプラムの手を引いて、展望台へと足を向ける。
 さすがに、この時間は展望台は無人だった。 飽くまで澄み切った宇宙は、遠く彼方できらめく星々の輝きを両手一杯に抱えているかの様だ。満天に溢れる綺羅の輝きを、2人は暫く無言で見つめていた。
「妹さん。よく笑う、可愛い子だったね」
 呟く様に、シンザークは告げる。
「プラムの髪の色はお父さん似なんだ。……妹さんも、そうだよね。目は――お母さんに似てるんだよね。あと輪郭も」
「うん。――皆に、よくそう言われるよ」
 プラムも、小さな声で答えた。
 そこに在った人々を悼むかの様に。
 透明な宇宙。音ひとつ無い、静寂の、宇宙。数多の生命を飲み込んだ、暗黒の深淵。生命の謳歌する、光溢れる、彼方の星々。
 シンザークは視線を隣のプラムに移すと、そのまま、じっと彼女を見つめた。プラムはそれに気づかぬまま、身動きもせずに宇宙を見つめている。
 ルフタルの人達は、必死で――自分達の事も返り見ず――プラムを脱出させて、沈んでしまった。プラムの未来は、そのまま、ルフタルの人々の未来を背負ったものになるのだろう。ルフタルの人達は最後のその瞬間に、未来を彼女に託したのだから。その希望は恐らく、そのまま真っすぐ、彼女の心の赴くまま――未来に向かって――進むという事。
「プラム」
 シンザークはそう声を掛けると、ふっと、そうするのが自然であるかのようにプラムを抱き締めた。プラムは少し身じろぎをしたが、シンザークが抱き締める強さに少し驚いて、大人しくなった。
 腕の中の温もりはそこに生命の在る事をはっきりと訴えている。規則的に脈打つ心臓の鼓動と――静かに繰り返される、息遣いと。
 囁く様に、シンザークは言葉を絞り出す。
「プラム……君は、逝くなよ……」
 戦いで彼女を失えば、ルフタルの人達が命懸けでプラムをルフタルから脱出させた事も――無意味なものになってしまう。そう、彼女の死はそのまま、ルフタルの人々の死すら犬死ににしてしまうのだ。
 恐らくこれは、ただひとつ残された贖罪なのだとシンザークは考えた。ただ1人残された、至極の、生命の宝石。彼女を護れば――護り切る事が出来たなら、僕の背後に連なる長い長い屍の途は――その罪は、償われるのでしょうか?
 鮮血に彩られた、その、何よりも深い暗黒の罪は償われるのでしょうか?
 シンザークは、慈しむかの様に、そっと、プラムの頭に手をやった。

  《FIN》

●プレイヤーより
 今回の話は第4回リア対応。すまん。凄く長くなってしまった。ついでに書式も変えたから尚更である。許せ、皆の者(笑)。
 今回も真面目な話を書いてしまった。プラム佐藤さん、前に言ってた話がこれだよん。
今回は全員を出せなかったよう、御免ね〜。

1996年5月