ネットワークRPG“クレギオン”シナリオ#5
『バビロンの紋章』

第1回プライベートリアクションLA2

★DREAMERS

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 Dスペースの魔の手から逃れた“合衆国”、『エール』。そこは、合衆国から脱出したキャヴァリアー・パイロット達にとって唯一故郷と呼べる星域だった。だがしかし、合衆国の奪還を目指して、この星を後にする者も多い。況してや、自分達が苦汁を飲まされた黒いキャヴァリアーが現れたとあっては尚更である。キャヴァリアーの盗賊達に襲われているアステロイド帯の鉱山街を助けて欲しい、というパーカー・ラックスの申し出を無視するパイロットが多いのも、致し方のない事であろう。パイロット達には、合衆国の奪還の方が――紛れも無く重大な事柄なのだから。

 明かりを落としたコクピット内部は、正しく宇宙に放り出された様に暗黒に包まれている。
 シンザーク・アストライアは愛機『レヴィアタン』のシートに身を沈めると、溜め息を吐いた。
“本当に、感謝の言葉もございません……”
 ふと、パーカー氏の言葉が思い出される。パーカーの話を聞いて、開口一番、助けに行くと約束した自分に、彼は何度も何度も感謝の言葉を繰り返した。
「盗賊達を何とか出来るか、判らないってのに……」
 パーカー氏を伴って『エール・グランド・ホテル』に滞在しているパイロット仲間の協力を求めたものの、シンザークの淡い希望は、厳しい現実というものを目前に突き付けられて、脆くも崩れ去る結果となったのだった。それでも、自分は彼らを助けたかった。だから街に行くことに決めたのだ。――どれほど数が少なかろうとも。
 皆の――街の救出に非協力的な態度を取った者の考えもよく判る。確かに、事態の重要度は、合衆国の奪還の方が他の何物にも勝る。合衆国は自分達の生まれた処であり、育って来た処であり――そして、帰るべき処なのだ。自分達の大切な居場所なのだ。
 でも――。シンザークは両の手を合わせ、形の良い指を絡ませると、その手を顎の下に置く。考える時の癖だ。そのまま、少し、小首を傾げる。
 自分達にとって“合衆国”がそれだけの意味を持つのならば、小さなアステロイド帯で生まれ育った人々に取って、その街は自分達の“合衆国”と同じだけの意味を持つのではないだろうか? 合衆国が何物かに侵略されたならば――今現在の状況は正しくそれなのだが――皆なりふり構わず助けを求めたではないか?『疾風の狩人』セイレーンが『ガブリエルλ−30』を駆って聖都アダンの教皇庁へ助けを求めに行ったのと、パーカー氏が自分達に助けを求めるのと――何の違いがあるというのだろうか?
 シンザークは、その両者の結果すら類似している事に思い当たって、思わず苦笑する。成程ね、助けを求める方は必死でも、求められた方にして見れば、先ず大事なのは自分の国なのであって、懐に飛び込んだ窮鳥に必ずしも手を差し伸べたりしないという事か。文化の交流がなくても、住んでいる星域が遠く離れていても、人間というものはそれ程大きく違わない訳だね。 そう考えると、アダンの枢機卿がセイレーンの要請を断ったとしても、仕方のない事の様に思える。
「レヴィ。ガルーダを呼んで」
 シンザークは愛機に呼びかけた。『レヴィアタン』は微睡みから醒めた様にその光源を幾つもきらめかせてコクピット内部を淡く照らし出す。余りに生物的なファイバーが伸びて、シンザークの体に触れる。精神リンクシステムによってシンザークの体と『レヴィアタン』が繋がってゆく。そうして、愛機と一体化する。『レヴィアタン』の装甲は自分の皮膚に。腕も足も、体の全ては己自身のそれと感覚的には全く変わらない。人の肉体と変わると言えば――背にある『翼』の存在と、もはや自分の体の一部の様に何の違和感も無く動かせる『尾』の存在だろうか。
 『レヴィアタン』は神話にある海の魔竜レヴィアタン――リヴァイアサンとも言う――をモチーフにして造られたキャヴァリアーである。開発研究員の興が乗ったのか、はたまたそういう嗜好性の持ち主だったのか、飽くまで海竜らしく、魔竜らしく――造られたのだそうだ。そして、火力と機動力を重視して生産される事の多い中で、この機体は格闘力重視で造られた。火力は唯一、武器の三叉槍の切っ先から発射されるレーザービームのみ。その威力も他機と比べると小さいものだ。このレーザーは、格闘によって三叉槍が敵の機体を捉えた時に発射されるべきものである。もとより、長距離射程を見込んでつけられたものではない。だから、そのパイロットは飽くまで格闘中心のものでなくてはならない。そう、槍術の使える人材でないと。海の支配者は三叉槍を持つものだよ――と開発研究員が言ったかどうかは定かではないが、その条件の元にパイロットとして白羽の矢が当たったのが、シンザークだったのだ。
 尤も、格闘中心では単独で動く事など出来ない。敵に近づく事が出来てこそ、その格闘力は発揮されるのだから。その為に『レヴィアタン』と対になる機体が造られたのも当然というべきであろう。機動力を重視して造られたその機体の名称は『ガルーダ』という。『ガルーダ』も、神話に登場する神鳥、神の座となるべき天の鳥を礎として造られた。尤も、神話中でこの神鳥は、時代が下り神話が変化するうちに、諸々の神話習合の中で魔鳥としての地位を確固たるものにしていた。だからこそ、研究員は敢えてこの名を選び、この名に固執したのだという。海の魔竜と共にあるのは、神より堕ちた魔鳥しかないのだと。共に『獣』を構築する名でなくては納得出来ないと。それは純粋に研究員の自己満足なのだろうが――結局それで企画は通ってしまった。
 対になる機体という事もあり、シンザークは軍に入って以来、ずっと『ガルーダ』と一緒に活動していた。『ガルーダ』のパイロットのトマシアン・エレザールは自分と同じ20歳だが、性格は正反対だった。彼は純粋培養の軍人だ、とシンザークは思っている。だが、その性格の差異にも関わらず、互いによく気が合った。最も信頼出来るパートナーなのだ。フォーメーションも互いの存在を前提にたてたものだ。あの時だって――調整のため立ち寄った基地がDスペースに飲み込まれる時も、トマシアンの冷静な判断と『ガルーダ』の機動力のお陰で、何とか無事に脱出し『あれ』に飲み込まれる事を免れる事が出来たのだから。
 遠く、遥か彼方で『ガルーダ』が自分の呼び掛けに呼応したのが判る。
{レヴィか? シンザーク、早く元隊に復帰しろ}
 いつもの様に冷静なトマシアンの口調。今彼は合衆国最期の宇宙戦艦“アトラス”の一員としてかの区域にある。尤も――その所属はシンザークの『レヴィアタン』とて同じだった。
「トマシアン、実は、お願いがあるんだけれど。手を貸して欲しいんだ」
 そう切り出して、シンザークは事情をトマシアンに詳しく説明する。
{それで……?}
「それで……って」
{唯一残った合衆国へ軍隊再編成の確認に行ったと思ったら、お前は、一体何に引っ掛かってるんだ。そんな話は無視して、早く上がって来い}
 その口調は飽くまで冷静なまま。関係ない、と言うのだろうか。
「でも……今の合衆国と状況は同じなんだよ。アダンに助けを求めるのと、彼らが僕たちに助けを求めるのと、どこが違うって言うんだい? 僕が合衆国を大切に思うのと同じように、彼らは自分達の街が大切なんだよ?」
{アダンの助けが得られないからこそ、尚更、俺達は脱出したキャヴァリアーの戦力を結集して祖国を奪還しなくてはならない。その重大な局面でお前は――}
「あの街を襲っているのは、合衆国のキャヴァリアーだと言った」
 トマシアンの言葉を遮って、口調も荒くシンザークは言った。
「――パーカー氏の言葉だけだから、まだ確認した訳じゃないけどね。ただ本当にそうなら、止めなくちゃならない」
{我々に、軍規違反者を裁く権限はないぞ?}
「キャヴァリアーの戦力を結集しなくちゃならないのなら、こんな所で兵力を遊ばせておく訳にもいかないだろう? 説得して、あるべき処に戻って貰うんだよ」
 ふん、という横柄なトマシアンの反応。
{話し合いで、戻って頂くという事か?}
 トマシアンの口調には明らかに刺があった。甘い、と言うのだろう。何もなかった事にして、軍に帰れという事なのだから。お人よしにも程がある、と――。
「お願い。せめて確認だけでもさせて。本当に合衆国のキャヴァリアーが略奪行為を行っているのかどうか」 ややあって、溜め息と共に、トマシアンの返事。
{確認したら、直ちに隊に戻るぞ。グスグスしていると元隊復帰出来なくなる恐れもあるからな。誘導ビーコンを出せ。すぐ合流する}
「ありがとう」
 明るい声を出して、シンザークは遠く彼方のパートナーに感謝した。これで、少しは彼らの役にたてるだろうか。
 ややあって、虚空に6対の翼を持つキャヴァリアーの姿が浮かび上がる。月明かりに照らされた美しいその姿は、正しくその名に相応しい。静かに高度を下げ、そのまま、大地に立つ魔竜の側に静かに降り立った。

●プレイヤーより
■どうも初めまして。シンザーク・アストライアのプレイヤーです。これから宜しくお願いしますね。
■実は、このプラリアはリテーク版です。だって、これを書いた時には、まだXAブランチは無かったんですもの。だいたい、トマシアンのキャヴァリアーの名称も違ってましたし。第1版は、LAブランチ担当の水城マスターが持っていらっしゃいますけどね。でも、もう“アトラス”に骨を埋めるつもりなので(笑)これが本当、という事にして下さいね、佐々木マスター。
■本当は、シートもオフィシャルの物に近いもので作りたかったのですが、時間がない上に、このシートは小細工しづらいじゃないですか!! アラベスクの方は殆どオフィシャルに近い形で作れてるのに。くくっ、悔しい〜。これも白黒反転印字の出来ないワープロの悲しい性か。ううっ、モドキで許して下さいませ。
■私のキャラクター、シンザーク・アストライアは、ゲームの始まった当初から友人のキャラクターであるトマシアン・エレザールと一緒に行動しようという思惑の元でエントリーしたキャラでした。初回に貰ったリアクションはお互い違うものだったのでどうしたものか悩んでしまったのですが、トマシアンの方が「今イチ」なリアクションでしたので、トマシアンが移動してきたという訳なのです。このプライベートリアクションはその彼の移動をゲーム中でどう納得づけるかという理由の為に書いてます。
■『レヴィアタン』の事はシンザークもトマシアンも『レヴィ』と呼びます。なので、改めて正式名称を聞かないと『レヴィアタン』だとはパイロット仲間達には判りません。
■と、改めて書く理由は……。このブランチでこの機体名称は浮いてしまうのではないかという危惧のためです。「こんな“しょった”名前は困るんだよな」とマスターがお考えでしたら、地文の段階でも『レヴィ』で結構ですので。いや、本当。
■でも、スカーレット中隊には『ルシフェル』が居るんですよね。他のブランチでもこの名称(ルシファーを含む)は鈴なりでして、『ルシフェル師団』が作れるのではないか、という専らの噂(笑)。なので、トマシアンのキャヴァリアーも最初『ルシフェル』だったのですが『同じブランチにルシフェルが2機もあったらこりゃあ皆混乱するよね。仕方ない、トマの機体名称はまだリアクで出て無いから、こっちが変えるしかあるまいよ』と言っておりました。
■結局、この『エール』の話は、パーカー氏が合衆国を黒いキャヴァリアー達(Dスペース側)に売ったという事で逆上したPC達が、融合者になって利用されるだけ利用されて、それでも尚且つ貧しいながらもささやかな生活を守ろうとしたアステロイドの住民達諸共、エールの太陽へ突き落としたという結末に終わっております。個人的には不本意な結果です。民間人を殺すなんて何事!? お陰で、精神的にボロボロです。
■では、次回のリアクションをとても楽しみに待ってます。お体に気をつけて、頑張って下さいね。