ブルーフォレストRPG
『シーアキト見聞録』 シナリオ1
『姫君は誰の手に』
第1回リアクション
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第3幕 居酒屋 山水庵
カーラキーア領内随一の街ガンガーには、交通の要所、という事もあってか、多数の宿屋、酒場等があり、それは街の1区画をも占めて、一大繁華街と化している。通称「酒飲み通り」である。
そんな中でも、居酒屋 山水庵
は庶民に親しみ深く、安くて旨い事で人気があった。連日、どこよりも賑わっているのだが、ここ最近は更に旅行者が加わった事で、更なる賑わいを見せている。とっぷり日が暮れ、すっかり真っ暗になって他の店が店仕舞いを始めても、その騒ぎっぷりは終わりそうにもない。
「ね、ナン、ここにしましょう」
明るく、期待に満ちた口調で、ルカルカ=ルーは一緒に旅をしているナンに言った。大きな街の苦手なナンは、周りを恐れているかの様に小さくなりながら、すっかり信頼しきった眼差しでルカルカを見つめ、頷く。
ルカルカは軽やかな足取りで扉に近づくと、元気よくそれを開け、大きな声で叫んだ。
「今晩はァ」
そのよく通る声に、店の中が一瞬、水を打った様にしーんとなる。店の中をぐるっと一通り見廻して、ルカルカは誰よりも明るくにっこりと笑う。ずっと旅芸人をしているだけあって、この笑顔は癖になっているのだ。
「あ、ああ、いらっしゃい」
気圧された風に、主人が声を掛ける。店内は再び騒ぎ始めた。ルカルカはナンを連れながら、スルスルと空いている席へと収まった。
「おじさん、おじさん。主人のおじさん」
「ご注文は何だね、お嬢ちゃん?」
「あ、うン、それもだけどね、ここって、いつもこんなに繁盛しているの?」
何やら目をきらきらさせながら尋ねるルカルカに、主人は曖昧に頷き、言った。
「ああ、まァ、特に姫様の花婿公募のお触れが出てからはお陰様で連日この入りよ。有り難い事で」
花婿の件に関してはルカルカも広場でお触れを目にしていた。ついでに、周りに居た人達に姫の事とか、領主様の事等を聞いて、この試合がここ近辺の注目の的だという事も知った。人の集まる所では、商売だってやりやすい。旅芸人たるもの、人が集まっていたら、芸を披露したくなるではないか! そういう訳で、ルカルカは敢えて、人が1番多そうなこの店を選んで入ったのだった。
「おじさん。実はあたし、旅芸人なのよ」
にこにこにこにこ。
「これだけ繁盛しているんですもの、歌うたいの1人ぐらいいても、いいんじゃない?」
にこにこにこにこ。
「いま、行商中なの」
「で、お嬢ちゃんは何が得意なんだい?」
「歌なら、ま、ちょっとしたものよ。雇ってくれる?」
「うーん」
主人は少し考え込む。
「一寸、1曲、様子を見させてもらおうか?」
ルカルカはにっこりと笑うと、店内で1番目立つ所へ立って、こほん、と咳払いをする。大きく息を吸って、一言。
「では皆さん、1曲、お聞き下さい」
朗々と、元気良く、明るく楽しげな歌を歌い出すルカルカに、皆、興味深げな視線を向け、やんやと囃し立てる。
歌い終えて彼女が礼をすると、店内はどッ! と沸いた。その人々の中を、ナンが小さな袋の口を開け、回って行く。その袋の中に、皆満足げに銅貨を入れる。時には、銀貨を入れる者まであった。
ルカルカは元の席までトトトト……と戻ると、
「どうですかァ」
と主人に言った。
「ウン、なかなかのものだねェ、お嬢ちゃん。暫くの間、宜しく頼むよ。そのあいだ、ここにロハで泊めてあげよう。どうだい?」
「宜しくお願いします。あたし、ルカルカ=ルーっていいます。この子はナン」
ルカルカと、気の弱そうな少年はぺこり、と頭を下げた。
「わしはムノラじゃ。こちらこそ、宜しくのう」
主人がそう言うと、客の何人かが、酔った声で
「もっと歌えやー、ねーちゃん!」と叫ぶ。
「ねーちゃんじゃありません、ルカルカ=ルーです。以後、お見知りおきを」
ぺこり、と旅芸人特有の挨拶をすると、又、歌い出すルカルカであった。
ルカルカの歌声が心地よく店内に谺する中、1人の女性が店内に入って来た。
「ムノラさん、お久しぶりー。あらァ、良く繁盛して」
「おや。これはシャルト=リューさん。いつも御贔屓に」
ムノラはぺこりと頭を下げる。シャルトはぶかぶかのマントをずるずる引き摺る様にして、カウンターへ近づく。
「いつもの、ちょーだい」
「へい、いつもの、ですね」
ムノラはごそごそと後ろの棚から両手で抱える様にして瓶を1つ取り出した。
「麦酒1瓶、5銀貨のところ4銀貨に負けときやしょう」
「いつもいつも、ありがと。ウチのドラちゃんが、すきなのォ、これ」
歌っているルカルカの方をついっと見て、シャルトは目をくりくりさせて言った。
「新しい芸人さン?」
「ルカルカ=ルーっていってね、今日が初めてさネ。なかなかに上手いだろう? 暫く居るが、どうぞ御贔屓にしてやっておくんなさい」
「へえぇ、ドラちゃんにも教えてあーげよっと」
シャルトは1枚1枚丁寧に銀貨を並べると
「……4枚ね。じゃあ、又、ムノラさん」
「お気を付けて、シャルトさん。今度は旦那サンと2人で是非来て下さいよ。サービスしますからね」
「はァーい」
シャルトはその小さな体で、人垣をかき分ける様にして出て行った。
―――試合の日は3日後に迫っていた。