ブルーフォレストRPG
『シーアキト見聞録』 シナリオ1
『姫君は誰の手に』
第1回リアクション
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第4幕 街外れの宿
この様な賑わいを見せる街とはいえ、街外れに行くと、況やそれが黄昏時も過ぎ、薄暗くなってきているともなると、さすがに人の姿は殆ど見えない。街が大きく、又、栄えているからこそ、街のすぐ外ではその富を狙うゴブリン等のモンスターが、夜な夜な哀れなる犠牲者を求めて徘徊する。特に、悪魔の月が夜空に架かる1ヶ月の下半期では、誰も町の外れまで行こうという者などいないだろう。
その、人通りもろくに無い街外れの小道を、1人の男が歩いていた。細身で、大きめのマントを羽織り、フードを深々と被っている。視線を伏せがちにしながら、ゆっくりと歩いていく。
彼は、自分の目の前を行く、1人の青年に気が付いた。後ろ姿だけによく判らないが、身なりが良いのは見て取れた。背の荷物の横に竪琴があったが、それに何やら紋章らしきものが彫り込まれているのに、気が付く。
これは、かなりの坊々らしい。雰囲気がそうだ そう思った途端、反射的にムッときた。しかし、自分には関係の無い事だ、と、その感情を意識下に散らす。
青年は、街の方へと入って行き、姿が見えなくなった。
それを認めた彼は、どこか心の中で安堵を覚えながら、歩みを進める。
この様な街外れには、大抵、格安の値で寝泊まり出来る木賃宿がある。彼はその内の1軒に目を留め、そこに入って行った。
「らっしゃい」
どこか冷めた様な、少し澱んだ空気の中で、主人らしい男が彼を見て言った。
「1晩5銀貨だ。先払いで頼むよ」
彼は銀貨5枚を、テーブルの上に無言で置いた。マントから出された彼の腕を見て、主人はぴくりと表情を変えた。彼の肌の色が褐色だったからだ。古き民――逃げた奴隷だろうか? 宿の主人はそう思ったが、要らぬ事を詮索しないのがこの宿のウリでもあった。
次の瞬間には主人はいつも通りの表情をしながら、銀貨の枚数を改めた。
「毎度。ウチは大部屋だ。左の扉に入っとくれ。毛布だけは好きに使ってもらっていいよ」
マントの男は、少し肩を竦めると、示された扉に入った。
大部屋の中には、以外と沢山の人間が、勝手気ままに毛布にくるまっていた。大抵は屈強そうな、そして野卑な感じのする男達だった。部屋の隅で、博打をしている者もいる。
その中で、ふと彼の目を引いたのは、人の善さそうな、大凡、こんな所に居るのが似つかわしくない1人の少女だった。彼女も彼を認めると、にこりと笑い掛ける。
「今晩は」
まるで顔見知りにでも会った時の様な表情だ。普通の女性なら不快な思いをするであろうこの場所で、臆している様子もない。
「こちらの方が、空いてますけど?」
これといって悪意は感じられない、と思い、彼は彼女の側に行った。座って、フードを取る。彼女は、彼を見て、何等表情を変える事なく笑顔のままで、言った。
「わたし、カーラ=チャンダーといいます。月王神殿の神官を努めてますの」
この一言で、どうして彼女が平気でここに居るのかが彼には判った。神官であれば身体は神に捧げてあるものであり、又、その様に公言しているのならば神殿でもないこんな所で、心配される様な事をする者も居まい。
「わたしは、ティラー=スメンディと申す、薬師です」
と彼は名乗った。
「スメンと呼んで下さい」
「あの……スメンさん、ひとつ、お尋ねしたい事があるのですが……。その様子ですと、スメンさんも長く旅をしているのでしょう?」
「ええ、まあ」
スメンディはやや曖昧な返事をする。
「わたし、妹を探して旅をしているのですが……スメンさん、旅の途中でわたしに良く似た女の子を見掛けなかったでしょうか」
そう言われて、スメンディはカーラをまじまじと見つめた。瞳は黒、髪も黒で長め――妹とやらも同じ様に伸ばしているとは限らないが――一般的な肌の色。自分とは正反対の、どこかおっとりとした目、人間の醜い面など何も知らない様な、どこか育ちの良い雰囲気。
「妹の名はカーリーです。わたし達、双子ですから良く似ているんですけれど」
スメンディは首を左右に振った。これといって目立つ風貌でもないし、覚えはなかったからだ。
「そうですか……」
カーラは少しがっかりした様だった。そして、続ける。
「暫くは、この街にいらっしゃるのでしょう? もし妹を見掛けたら教えて下さい。わたしも、姫様の婚礼の件がきまるまでここに居ようと思っていますから」
「試合は2日後だったな?」
「ええ。……噂では、かなりの人数が参加するらしいですね。何やら、不穏な動きも見える様ですし、何も起こらなければ良いのですが」
カーラの言葉を聞きながら、スメンディは、試合の日までにどこかの神殿で薬草をもう少し仕入れてきておいた方が良いだろうか、などと考えていた。
試合では、きっと儲かるに違いない。
2月1日に行われる試合は、街の全ての人々に、多かれ少なかれ、何等かの期待を与えていた。
人々は囁き合う。
『姫君は誰の手に』と――。
【続く】