ネットワークRPG“アラベスク”
『エルハーダの秘宝』
5回(第9月期)プライベートリアクション :N08
★夜の魂
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scene.2 神殿の人々
夜になっても、街のあちこちでは焚き火の明かりが焚かれて、街は明るくなっていた。
神殿では、街の生き残った人々と冒険者達が互いに助け合い、街の復興のための相談を始めていた。崩れた建物を撤去して、新しく住居を作らなくてはならない。出来上がるまでに人々が暮らす場所も必要だし、負傷者のための施設も必要だった。
「暫くは、神殿を避難所にして、主に負傷者を神殿内に、健康者は近くの広場に天幕を幾つか作って寝起きするしかあるまい」
貴族であるセラヴィール・トゥェルラキアの言葉に、トレンタの地図を眺めていた魔法使いトマシアン・ライハザードは、ふと顔をあげた。
「街が元に戻るまでは、相互扶助が生活の要になるだろう。後は街の区画整理だが」
トマシアンは机の上に地図を広げて、セラヴィールの言に答えた。
「そうだな、どうせ殆ど建て直しになる。効率の良い都市設計を最初から考えておいた方が、後々の為になるだろう。地図を見て、考えていたのだが――」
2人が相談を始める横を、盗賊のルカルカ・ルーはバランス感覚を活用して、食べ物を両手に一杯抱えて運んでいた。所定の場所まで運ぶと、元気よく叫ぶ。
「みんな、晩ごはんだよ。手の空いている人は手伝ってね♪」
「おう、腹へった、腹へった」
すぐ駆けつけるのは拳士のレイゲン・アシュヴインだ。その後に戦士のリオーン・バーネズが続く。ルカルカはにっこりと笑うと、人差し指をぴっ、と立てて言った。
「残念、まだ、お・あ・ず・け。シンが呼んでたから、2人は、厨房に行って☆」
リオーンはぷう、と膨れる。働かざる者、食うべからずかぁ? とぼやきながら、レイゲンが立ち去るのをリオーンは慌てて追いかけた。
2人して、厨房に入ると、そこではシンザークが大きな鍋で炒めものをしている最中だった。シンザークは2人の方を見ることも無く、忙しげに手を動かして、言った。
「済まないけれど、そこのワゴンに乗ってる食事を持って行ってくれないかな? 怪我人用になってるから医療室と病室に持って行って。皆に配ったらまた戻って来るんだよ。その頃には、次の分が出来てるから」
自分たちに怪我人の給仕が出来るのかな? と不安げにリオーンはレイゲンを見る。レイゲンは、自信たっぷりに笑うと、ポキポキと指をならした。
「配って来ればいいんだな?」
「悪いね。アルシームさんだけじゃ、とても手が足りないんだよ。――あ、誰にどの料理を食べさせるのかはセルグさんが知ってるから、ちゃんと聞いてから渡すんだよ」
シンザークの言葉に、へいへい、と返事をして、レイゲンはリオーンを促した。2人でワゴンを引いて厨房から出た時、シンザークの叫びが2人に向けられる。
「戻って来る時に、広場に行って、山羊のミルクを貰って来て。沢山だよ。温めて子供達に配らなきゃならないから!!」
○
医療室と病室として使われている幾つかの部屋は、怪我人とその付き添い人で溢れかえっていた。その中を、リオーンとレイゲンは薬師のセルグ・トゥセシャーヌの指示に従って、食事を配って行く。セルグはその横で、1人1人に体の調子を尋ねていた。
「病気、じゃなくて怪我だけ、だからまだ救われている部分があるんだ」
セルグは、足が折れている割にやたら元気な子供に食事を渡すと、2人にそう言った。
「怪我だと、個人の治癒力でちゃんと治ってゆくものだしさ。壊死や化膿にさえ気をつけていれば、後は安心して見てられるってものさ」
リオーンは、そんなものかな、と考えていた。事実、怪我の状態の安定している人は血色も良い。身動きが取れないだけだ。子供に至ってはそれでも尚、暴れたりする。そんな怪我人達の様子を見ていたリオーンは、ふとある事に気が付いた。
「……シンザークって、あまり顔色良くなかったと思わないか?」
「うん。それに、ちょっと表情に余裕がない感じだぜ」
「そうね、昼間もあんなに働いてれば」
2人の会話に突然加わって来たのはユン・タンジャリンだった。彼女の目の前には、寝台ですやすや寝息をたてている3歳位の子供の姿がある。
「昼間にこの子を助けた時も、あの人、あまり顔色良くなかったわよ。ちゃんと食べてるのかしら?」
リオーンは考え込む。
「うーん……。俺達の食事一切を取り仕切ってるから、食べてると思うけれど……」
「なら、いいんだけれど」
そんな会話の横で、セルグは子供の診察をする。
「よし、外傷も無さそうだし、ちゃんと十分な栄養と休息を取ればこの子は大丈夫だ」
ユンは明るい笑顔を見せる。
「後は、この子のお父さんが見つかれば、万事解決だわ!!」
「お母さんは?」
リオーンの一言に、ユンは静かに首を左右に振る。
「亡くなってたわ。この子を庇って」
レイゲンが珍しく、厳しい表情を一瞬だけ見せた。