ネットワークRPG“アラベスク”
『エルハーダの秘宝』
5回(第9月期)プライベートリアクション :N08
★夜の魂
4/4
scene.4 夜の魂
闇雲に月明かりの中を走りながら、シンザークは泣いていた。先の事を考えなくてはならない事はよく解っているのだ。騒乱の原因が『魔界の門』にある事も。それを閉じる為に全力を尽くさねばならない事も。だがその為に、今、目の前にある死と苦しみに目を閉じろというのか? 知らぬふりをしろと? 関係ないというのか? そんな、無責任な!!
トマシアンの静かな口調は余計に自分の神経を逆なでする。感情的になっている事は良く判ってる――でも、この感情を捨て置く事は、自分自身が許さない。
街を出た所で、ふと小さな湖が目に入った。トレンタの水瓶だ。月の明かりと星々の光を反射して、湖面がキラキラと輝いている。シンザークはその水面の輝きに惹かれるようにして湖へと飛び込んだ。その冷たさが心地良かった。
水の同胞よ――僕の大切な同胞よ。僕達は正しいのか? 人の命を削るこの行いが。傷つく人、死に逝く人。争いの種を蒔いているのは僕達なのではないか――人々は巻き込まれているだけではないのか? どうか応えて――お願いだから、助けて。
そうして、シンザークは取り巻く水に全身を預けた。同胞に体を委ねるように。意識を集中させる――同胞の声が聞こえる。僕は、一体どうしたらいい? そのまま、湖中へ沈み込む。その動きに触発されたのか、魚達が身じろぎをし、起き出して、周りで優雅に泳ぎ出した。そうだね――『魔界の門』は君達にも悪しき影響を及ぼすだろう。それは人だけに限らない。自然全体に、影響を及ぼす。だとすれば――僕は、僕達は――。
遥か遠くで、夜泣き鳥の声が響いていた。
○
2時間を過ぎても戻って来ないシンザークを心配して、リオーンはそっと神殿を後にした。誰も居ないか、きょろきょろと辺りを見回す。
セラヴィールに見つかったら危険だから、と止められそうだし、レイゲンに見つかれば、シンザークは少し頭を冷やした方がいいんだぜ、とやっぱり止められそうだし、トマシアンに見つかったら……何て言われるか分からないけれど、きっと止められるに決まってる。そう思って神殿の敷地を出た時、運悪くトマシアンに出会ってしまった。
「どこに行くんだ?」
「そ、そういうトマシアンこそ、こんな時間にどうしてこんな所に立ってるんだ?」
狼狽した様子でリオーン。トマシアンはあふあふ、と欠伸をして言った。
「色々と、考え事をな。『魔界の門』の閉め方とか。魔導書の行方や儀式の方法、『奇跡の杖』の事など、考えておきたい事は一杯ある」
「部屋の中で考えりゃいいのに……」
思わずリオーンは呟いた。トマシアンはその一言につい笑みを見せる。
「ま、明日の朝食の事も気になるんでね。――あいつなら、多分街外れの湖だ」
「え?」
振り向いたリオーンを無視して、トマシアンは大きく伸びをすると、神殿に向かって歩き始めた。手を振って、背中を向けたまま、一言。
「俺はもう寝るぞ。武器を忘れるなよ。まだ魔物がうろついているかも知れないからな」
○
果たして、トマシアンの言った通りだった。リオーンが湖まで行ってみると、そこには腰まで湖に浸かったままじっと立ちすくんでいるシンザークの姿が見て取れた。全身はずぶ濡れだった。何だか声を掛け辛くて見ていると、シンザークはそのまま、ぱしゃん、と湖中に姿を消した。
「あっ!!」
慌ててリオーンは湖のそばに走ってゆく。まさか、身投げなんて事はないと思うけれど……そうやきもきしながら見つめる湖面は、リオーンの心中とは裏腹に、静かに波打っている。どうしよう、と、そのまま呆然としていると、暫くしてシンザークが顔を覗かせた。リオーンが声を掛けるより前に、シンザークはリオーンをじっと見つめた。そのままリオーンのそばに来る。
「迎えに来てくれたって、わけ……?」
「えーっと、だからその、トマシアンだって悪気があってあんな事言った訳じゃないし、ええっと……それに……多分あいつも心配してるんだし……」
どうトマシアンの事をとりなそうか、そう考えながら、自分ながらに訳の分からないことを言っているなぁ、という表情で、しどろもどろに告げるリオーン。シンザークはそんな彼に、穏やかに微笑んだ。
「知ってるよ。トマシアンが僕の事を心配してくれてる事も。心配して、言ってたんだって事も。多分――このままだと、僕が倒れちゃう、って思ったんだろうね」
リオーンはほっとした表情を見せた。どちらも大切な仲間なのだ。喧嘩して欲しくない。
「リオーンにも、心配かけちゃったね。ごめんね、もう大丈夫だから」
そう言いながらも、シンザークの表情はまだどこかしら悲しげだった。それに気が付いたリオーンは、シンザークを湖から引き上げながら言った。
「帰ろうぜ。帰って、一晩ぐっすり寝たらさ、きっと……」
「今日だけだよ。明日になったら、なおる」
シンザークの口調の鋭さに、リオーンは、きっと明日になったら無理やりにでも、いつもの様子に戻すんだろうな、と考えていた。そうやって、シンザークは悲しい事を内へ内へと沈めてゆくのだろうか。心の奥底に、閉じ込めてゆくのだろうか。
悲しい出来事が、少しでも減ってゆくなら、気が楽になるんだろうか……。
シンザークは暫く水面を眺めていた。光が反射して輝いていた。月の光と星々の光。
「湖の光はね、死んだ生き物の魂なんだよ」
突然そんな事を言い出すシンザークを、驚きの隠せない顔でリオーンは見つめた。
「湖だけじゃない。海も――その水面の輝きは魂のものなんだよ。メーノーグの彼方にある魂の。生前の事は、もう何も覚えてないけどね――輝きの中に魂のいきづかいがあるんだよ。だから、あの輝きは魂の片鱗なんだ。――死んだ者の事は、忘れてしまえば、ただそれだけの事なのだろうけれど、僕は安易に忘れたくないんだよ。その全てをね。……もう、神殿に帰ろうか? トマシアンが待ってるんだろう?」
そうして、2人は月明かりの中を神殿に向かって歩き始めた。
●プレイヤーより
しまった。もっと短いはずだったんだ。なぜ、この内容で『宿命の輝ける瞬間(とき)』とほぼ同じページ数になってしまうのだろう。謎である。
プライベートリアクションの第2弾をお送りします。今回は少し他の人のキャラクターを入れることが出来たので嬉しかったりします。でも、無承諾。いいのかこれで(悩)。『エラン』の一部で人気急上昇中なアラーム・レンさんを再び出してしまった。……なのに、ソルの出番はなかった。次回は出来るだけ『エラン』の全員を出そう、と心に誓うプレイヤーです。
今回のお話しはトレンタの復興に関する出来事です。第5回共通リアクションの後、となっております。トレンタ住民は地震の影響で大変な状態。相変わらずシンザークが怪しいキャラクター性を発揮しております。今回は、『エラン』内部のキャラクター関係も少し書けたらなぁ、と思っていたのですが、全然書けないぞ、何故なんだぁ。レイゲンはどう思ってるとか、セラヴィールはこう考えてるだとか、色々と書きたかったけれど入らなかった。それはまたの機会に譲りましょうね。
なんだか、調子に乗ってプライベートリアクションをどんどん書いてしまいそうな予感が。……ああ、でもクレギオン#5が始まるとそうも言っていられないかも。むむう、心情とかを書くのが近ごろ気持ちいいというのに、何だか残念。出来る限り書いてゆきますので、これからもどうかよろしくお付き合いくださいね。