ネットワークRPG“アラベスク”
『エルハーダの秘宝』
6回(第10月期)プライベートリアクション :N08 B

★宿命の輝ける瞬間(とき)

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scene.1 『儀式の場』へ

 遠く聞こえていた喧噪は既に間近に迫っている。ケルマンド火口付近、かつての大賢者の足跡を標した聖なる土地。地脈の晴れる処。『魔界の門』がその禍々しい口をぱっくりと空け、哀れなる現世界の住人達に嘲笑を浴びせようとしている処。
 トレンタの遺跡でどうにか魔導書を手に入れた『エラン(情熱)』の3人――ルカルカ・ルーとセラヴィール・トゥエルラキア、シンザーク・モリガン――は、逸る心そのままに、皆の待つ『儀式の場』へと急いでいた。
 戦士らしい男が魔物と戦っている。魔物も手ひどい傷を与えられていたが、男も負傷している。齢30程であろうか、逞しく鍛え上げられたその腕に握られた、もはや彼の肉体の一部となった剣を振りかざし、雄々しい雄叫びをあげながら、鋭い一撃を魔物に与えていく。そのさらに先には、まだ少女の幼さの残る拳士が、水魔に足をすくわれ、宙釣りにされた姿が目に入った。その脇を急いで駆け抜けながら、セラヴィールはシンザークに向かって振り向いた。セラヴィールの俊敏な動きは既に己が剣を抜き放っている。
「余計なものは見るな。そなたは、陣の中央を目指すのだ」
「セラヴィール、君は?」
 頷いたシンザークの問いに、セラヴィールは鋭い視線を魔物に向けた。
「成すべきを成す。そういう事だ」
 セラヴィールが水魔に向かうと同時に、魔物を仕留めた男も少女を助けようと水魔に切りかかった。シンザークはそんな彼らを後に、高台の上り口へと急いだ。
「あ、あれ。皆がいる!!」
 上を見てルカルカが叫ぶ。後ろを見やったシンザークの瞳には、無事に少女を救出した戦士とセラヴィールがこっちに向かって来ている姿が映る。
「シン、こっちだよ」
 ルカルカは即座に上り口を見つけると、シンザークを促す。切り立った崖の上では、皆が魔術陣を組んで、魔導書を待ち望んでいる筈だ。
 血の匂いが強くなる。悲鳴すら聞こえる。剣の打ち合う音、肉の打ち付けられる音。陣を構成する魔法使いを護るように、周囲で激しい戦いが行われている。陣の中央では、魔導書が届いたという喜びの声。魔導書はシンザークがしっかりと握り締めている。内容には既に目を通してある。魔導書自体は術の発動媒体ではなく、また術の力の根源でもない。そこに記されているのは方法に過ぎない。それを具現化させるのは、秩序だった手順と、それを執り行う術者の意志に因る。
 空中の風魔がルカルカとシンザークを見つけた。急降下して2人を襲う。と、そこへ飛んで来たのは狩人の手より放たれた力強い何本かの矢。それが合図となって、魔物を倒した戦士達が、踵を返して2人の所に駆けつける。
「ここは我々に任せて、早く術者の所へ!!」
「ありがとう」
 感謝の言葉もそこそこに、シンザークは陣の中央へ駆け込んだ。
「遅くなってごめん」
 待機していた配列士、そして配列知識のある魔法使い達がシンザークを取り囲む。
「魔導書には、ここに来る途中で目を通してきたよ。今から手順を説明するからね。手順そのものは意外と簡単なんだ。後は――宿命石の力を引き出す、皆の実力次第」
 そう言って、シンザークは魔法使いの中に居るトマシアン・ライハザードを見やった。彼の手には『奇跡の杖』がしっかりと握られている。無事な姿でそこに居る仲間に微笑みを見せ、シンザークはその後方にある禍々しい気の根源に目をやった。『魔界の門』の波動はすでにこの地の調和を乱し、彼の門の属する世界の秩序をこの世界へと導いている。それゆえに人々は力を殺がれ、魔物は益々強力なものとなるのだ。シンザークは知らず知らずのうちに、心の内で問いかけた。『魔界の門』の力――それは、新たなる調和をもたらし別なる秩序を形作るものとして、この世の、生きとし生ける全ての意思ある存在達が、それを認めるものなのだろうか? もしもそうであるならば、僕達の戦いは苦しいものになるだろう。だが、そうでないとするならば――僕達に秩序があり調和を維持すると『彼ら』が期待するのならば、人は、人の力を持ってここに『奇跡』を起こす事が出来るだろう。
 この世に有る、生きとし生ける全ての意思あるもの達よ。僕達をどう評価する――?