ネットワークRPG“アラベスク”
『エルハーダの秘宝』
6回(第10月期)プライベートリアクション :N08 B

★宿命の輝ける瞬間(とき)

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scene.4 宿命の威力(ちから)

 シンザークは意識を集中させながら、朧げに考えていた。明らかに力は足りないのだ。これでは、門は閉められない。意思ある存在達の、全ての同意は得られない。ここにいる皆の――人間の意志を彼らは測っているのだろうか? どれだけ僕達が本気なのか、それを測ろうとしているのだろうか。人の意志がバラバラならば、同意するに値しないという事なのだろうか? ――そうかも知れない。人自身で出来る事であるならば、彼らは必ずしも手を貸したりしない。自身で努力をせぬ者には彼らは一切手を貸さぬものなのだ。だとするならば、僕達はまだ僕達のできる事を行っていないという事なのだろうか? 僕達の意思を彼らに示してみせねばならないのだろうか? 人が己の欲望の為だけに動くのではなく、少なくとも今は数多の生命の為に動いているという事を。――この、僕達の心の底から吹き上げる個々の想いの全てを、彼らに示さねばならないのだろうか?
 人は宿命を帯びて生まれてくる。成すべきを成す為に。その根源は宿命石と呼応する。術に使うための宿命石は全て使用し、もはやその為の石はない。だがここには、もっと威力のある力の根源が――今の今まで気づいていなかったが、沢山あるのだ、という事に、トマシアンは気が付いた。
「カーリーや魔物が迫っている。配列の儀式にゆっくり掛けている時間がない。皆の力を儀式に貸してくれ」
 精神の集中を妨げないように注意しながら、トマシアンは声を大にして叫んだ。間近に迫った魔物を辛うじて抑えている戦士達にも聞こえるように。
「皆の宿命の力を一つにして、俺達も配列の力になるんだ!!」
 戦士達の困惑した気配をシンザークは捉えた。現実には、何らかの言葉のやり取りがあったのだが、集中した彼の意識はもはやそれを言語として捉えてはいなかった。解るのは、そこにある意志。自分達には魔法の力が無い、という無念さを伴った想い。でも、そうじゃない――力に必要なのは才能ではない。威力の脈動は想いに呼応するものだ。君達は知らないだけなんだよ。人智は尽くされるべきなんだ。そうすれば天命も僕達に連なってくるだろう。だから。
「僕達は持って生まれた宿命の力がある。配列に使うのは、それが石の形を取ったものだ。だから、僕達自身を力に出来るはずだよ。勿論、君達も」
 シンザークは微笑みを見せながら、誰のものとも知れぬ血で全身をあかく彩っている戦士に視線を向けた。疲労の色が濃いその面を、僅かに歪ませて、戦士は穏やかに微笑む魔法使いを見つめた。そう、示すんだよ――君達の思いを。心の内より吹き上げる、その強き想いを。その全てを。それが威力となる。ならば、僕はその流れの進む方向を示そう。
「体の中に、命の中に、形の無いエネルギーを想像してそれを外に向かって解放して下さい。気配さえあれば、後は僕達魔法使いがサポートします。波動の魔獣が増幅してくれます。配列士が活用してくれます。祈って下さい。そうすれば、ここにいる全ての意思あるもの達が皆の望みに呼応します――自分を信じて下さい。強い己自身を。その心を」
 そう告げてシンザークは自らそれを示して見せた。眼を閉じて自身の波動を高めてゆく。思考は――理論は、必要ではない。己の奥底より湧き上がる威力、絶え間のない脈動。息づく「ちから」の全てを、血肉が感じその波に呼応する。汝はこの地に在りて成すべきを成せ、それが宿命の威力。人が生まれ、生きて来たその理由。今、ここに在るという存在理由。自身が己に与えるもの。宿命は人それ自身によって現界に具現化されるのだ。
 夢現つのままに眼を開けたシンザークの姿は、透明感のある深青の光を自ら放ち始めていた。彼の宿命石たる『サファイア』の彩そのままに。故郷のオータムテルンの大洋の色、深い海の青そのままに。
 宿命石の配列は新たなる力を得て輝きを増し始めた。術者達も各々の方法に則って精神を高め始める。戦士は、トパーズの輝きを放ち始めたトマシアンの言葉に従って、故郷に残した家族の事を想い始めた。そうだ、護るのは俺達自身の大切な存在。――そして、威力は生み出される。それはルビーの宿命、紅の光。
 配列の軌跡は威力の流れを運ぶ。シンザークは三叉槍を掲げた。威力は集中されるべきもの。流れは秩序に則ってあるべき所へもたらされねばならない――世界の調和のために。周りで呼応する想いの波動。宿命の威力。なれば我が同胞よ、疾くその路を開けよ。彼の力の進むべき処を。これが僕達の想いの全て。人の人たる威力の全て。半眼のまま『魔界の門』を睨め付けた。そは我らの望まぬ理をもたらすもの。まこと、現界に在らざるもの。我らの宿命をもちて――この世ならぬ理のもの、汝は汝が世界へと還元せしめよ。
 そうして、三叉槍はゆっくりと『魔界の門』を指し示した。
 トマシアンは自身の気力が莫大な程に奪われて行くのを自覚しながら、宿命の力が上位配列法にる魔法陣を巡って『魔界の門』へと落ち込んで行くのを感じていた。そして、急速に上昇する自然界への反動。必死でそれを取り押さえつつ、目まぐるしく輝く天のオーロラ、そして遠く脈動する大地の鳴動に、心のどこかがおののいていた。そうだ、こういう時こそ自分は冷静でなくてはならない。世に何が起ころうとしているのか――それを見極めなくてはならない。上位配列法の軌跡は輝くインパルスを見せていた。波動は全て魔法陣によって増幅されて『魔界の門』に向けられている。落ち込んで行く――水が高い所から低い所へと流れて行くように。宿命の力の奔流は束ねられ、同じ宿命はそれによって更に強大な威力をもって『魔界の門』へと打ち込まれてゆく。軌跡の描く紋様は陣を描きその理は一つの秩序をもって確実にある結果を生み出しつつある。強力な結界と――その威力による『魔界の門』の消失

 それは永劫の時間が経ったかの様に思えた。

 不意に、皆の体を締め付けていた魔界の波動が消えた。体が軽く感じられた。戦士達は狂喜した――『魔界の門』は閉じられたのだ。目の前の魔物を助ける波動は失われたのだ。術者達は自らの役目の終了を感じた。そう、我々は、勝ったのだ。