ネットワークRPG“アラベスク”
『エルハーダの秘宝』
6回(第10月期)プライベートリアクション :N08 B

★命の輝ける瞬間(とき)

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scene.5 終焉の、その目前の時

 だが、トマシアンは気を抜く訳にはいかなかった。宿命の力により気力のみならず体力も殆ど消耗してしまった。だが、いまここで自然の反動を押さえなくては、全てが水の泡になってしまうのだ。『奇跡の杖』に全体重を預け、ずるずると身を落としたトマシアンは必死で自身に言い聞かせていた。反動の力を全て散らす、それだけを考えるんだ、と。
 シンザークは、自身の体が倒れ込むのを感じながらも、成すすべがなかった。もう指の1本だって動かせそうになかった。このまま――大地の褥に抱かれて眠ってしまいそうな感覚に陥った。同胞に感謝を――そしてこの地の勇気ある人々に感謝と称賛を。彼らこそ称えられるべき人々。自らでその未来を護ってみせた。僕がしたのはその手助けに過ぎない。彼らの想いの全てがこの未来を引き寄せたのだ。さらに光に向かって進んでゆくであろう未来もその手にして。そう考えている時、不意に意識の中で警鐘が打ち鳴らされた。
 まだだ。まだ、もう一つだけ、やるべき事がある。
 無理やりに体を起こすと、シンザークは勢いよく頭を振った。呻き声が喉から漏れる。気力を尽くして立ち上がると『奇跡の杖』の主を求めて視線を動かした。
「だ、大丈夫かい」
 トマシアンの側に歩み寄り、そう声を掛ける。だが彼に、大丈夫か、などと尋ねる方が愚問なのだという事はその姿を見ればすぐに判った。顔色は蒼白で息も上がっている。
「一体どうして……」
 判っていても、ついその言葉が出てしまう。杖の行使に全神経を使っている筈だ。他の事を思う余裕など無いはず。それでも、弱々しい声で、呟くようにトマシアンは答えた。
「儀式の反動と、火山の脈動。抑えとったら、ばててしもうた……」
「閉門の儀式にも宿命の力を使っていたんだろう?」
 シンザークは、儀式の最中に確かに感じたトマシアンの宿命の力を思い起こす。それは、他の術者の提供した威力と比べても、何ら遜色のないものだ。それだけの力を提供しながら、彼はまだ『奇跡の杖』をその支配下に置いていたという事になる。その消費される力は莫大なものになる筈だった。それは容易に想像がつく。
「無茶だよ……君は」
 いつも、何でもない顔をしながら、一番負担のかかる所に身を置く彼を、シンザークはとても痛ましく思った。そんなシンザークの表情を見て心情を察したのか、トマシアンは表面的にでも笑みを浮かべながらこう言った。
「噴火なんて、させんのが吉って、な。お前こそ、まだ戦えるか?」
「僕にそんな事を言う元気があるなら、いいんだけれどね」
 明らかな空元気だ。シンザークは苦笑して、トマシアンを支えようと手を差し伸べた。シンザークより半ヴァジャブ程高い身長でありながら体重は殆ど同じ、というトマシアンの細い体は、さほど腕力がある訳でもない自分でも容易に支えられる。トマシアンを立たせたシンザークは、抱き締める様にして彼を支えた。称えられるべき人々、その中でも最も称えられるべきは彼だろう。その気力と精神力……僕の最も誇らしい仲間。トマシアンをここまで動かした心の原動力の一端を自分は担っているのだろうか? だとするならば、僕の存在意義はここに見いだされてしかるべきなのだろうけれども。
 トマシアンの体重が自分に委ねられているのが判る。それでもなお、彼は天の災いを抑えているのだ。地の雄叫びを鎮めているのだ。己自身を削りながら。
「よく頑張ったね。でも、もう少しだけ、我慢してくれるかな……」
 シンザークはトマシアンの耳元でそう囁いて、眼を閉じた。彼のためにしてあげれる事はもはや祈る事だけだった。後は自分の波を彼に合わせる事。『同位波動はその波の増幅を生む』――昔、そう言ったのはトマシアンだった。『だから、複数の術者で術を使うと効果が上がるという原因はそこにあるんだ』とも。ならば僕は心穏やかにして彼の意識を支える波となろう。そしてそれは皆を護ることに繋がるのだから。僕の大切な、人々を。
トマシアンを抱き締める腕に力が入る。僕を護ってくれたその想いに見合うだけの支援を。僕の――出来る限りの力を、君にあげよう。愛しい僕の仲間たちの為に。

●プレイヤーより
 今回のプライベートリアクションについての、詳しいストーリー展開はもう1本のプライベートリアクション『宿命の力、集いしとき』をご覧下さい。このプライベートリアクションは『エラン』の2人の魔法使い、トマシアンとシンザークの「魔法発動に関する理論・思想」について着目して記しているものです。このプラリアと多少展開に差がありますが、そこはそれ、ま、許して下さいねっ。
 しかし、マスターさんの作業は大変ですね。本当はもっと他のキャラクターさん達を出したかったんです。『エラン』の全員すら出てないぞ。でも、アラーム・レンさんは無承諾のまま出してしまった。もっと色んなキャラクターの描写とかもやりたかったのですが、全然できませんでした。それをあっさりやっていらっしゃる亜樹マスターや水沢マスターは尊敬に価します。いや、ホント。皆の我が儘を調停し、迷える冒険者達を導いて、何らかの結果はださなきゃならない。いゃ〜、大変ですねぇ。
 今回、調子にのってオフィシャルリアクションに出来るだけ形式を近づけてみました。これでお二方がのけ反っていただけると、それはそれで大満足だったりします。ふふふ。
 これを書いていて今回思ったのは「シンザーク……あんたってなんて怪しいキャラなんだ、オイ」という事でした。ガイアの民を地で行っているぞ!? 彼の周りは精霊で一杯なのか!? 全てが精霊の導きだというのか!? トマシアンは呆れているぞ!! という感じで。そんな彼の明日はどっちだ。(笑)
 では、本物の第6回(10月期)リアクションを、楽しみに楽しみに、待ってます。
 お体にはくれぐれもお気をつけて、楽しいリアクションを見せて下さいね。