ネットワークRPG“アラベスク”
『エルハーダの秘宝』
6回(第10月期)プライベートリアクション :N08
C
★危機
3/3
scene3.真実
「食事、出来たよ」
セラヴィールは自分に掛けられた声に顔をあげた。手にした『第三の魔導書』はざっと1/2ほど読み進まれている。他の者ならそうはいくまい。速読には自信があるのだ。
セラヴィールに声を掛けたシンザークは、そのままトマシアンの側に行く。少し彼を見つめると、軽く肩に触れる。トマシアンは直ぐに目を覚ました。熟睡できてないって事じゃないか、とシンザークは心中で呟く。いつもなら、うたた寝の時だって簡単には起きてくれないんだから――。
「トマシアン、食事……どうする?」
トマシアンは抑揚のない声で――どこか義務的に――応じる。
「当然、食べる」
シンザークは小さく肩を竦めた。どれだけ心理的に良い状態ではない場合でも、トマシアンは自分と違ってやるべき事は必ずやる。やり遂げてしまう。だから、トマシアンの精神状態は他人には知られにくい。他者に甘える事は大嫌いな上に、何よりも他人にどうやって甘えたらいいのか、その甘え方を彼は知らない。だからなおさら、他者には彼が精神的に苦しんでいる事が判らない。軍師が己の心中を他人に悟られてどうするんだ、とトマシアンは言うのだろうが――。ある意味ではそれは正論である。理性ではそれを納得しているシンザークは、だからと言って、自分の感情がどこかそれを許さない事も感じていた。
恐らく、今のトマシアンの精神状態はそれ程良いものではないはず。そうシンザークは考えている。それはトマシアンを良く見ていれば判る事だ。ちょっとした振る舞いで精神状態が判る様になるのに3年も一緒に暮らしていれば充分だろう。
トマシアンの傍らでルカルカがにこにこっと上機嫌な様子で串に刺して焼いた肉をほおばっている。
「おいしいねぇ。いっぱい食べて、頑張って魔界の門を閉めようね」
ルカルカの言葉を全く意に介しない様子でトマンアンは黙々と料理を口に運んでいる。確かに、いつもなら――返事はしないにしても、自分はちゃんとそれを聞いているという意思表示を表情の変化なり視線の移動なりで表すのに、それすらも全く無い事にセラヴィールは気がついた。シンザークの指摘は正しい。だとするならば、何らかの原因があるのだろう。セラヴィールはシンザークに視線を移すと、軽く合図をして、シンザークを傍らに呼び寄せる。
「彼の様子がおかしい事は判った。それで、そなたの考える原因は何なのだ?」
他の者に悟られない様に声を落とす。シンザークは困った様に視線を宙に向けた。
「ここ暫くの僕達の行動だよ。最初に禁断の地の遺跡を探索した頃からの」
セラヴィールはそれからの出来事を思い起こした。魔界の門の存在の予想も、魔物に襲われたトレンタの街にトロッコを改造して移動するという作戦の立案も、真実の館に『第三の魔導書』があるという推測も――それはその通りになったのだから、現実として具現化したのだから、そこに不満などないのではないか?
「悪い事は無かっただろう? 確かに死傷者は多かったが――」
「そうだね、彼にとって悪い事はなかった。でも、良い事も無かったんだとしたら?」
セラヴィールにはその意味は判らなかった。シンザークはセラヴィールを見すえて、言葉を続ける。
「僕達や他の人々の賞賛も、作戦が現実化する事も――彼にとってみれば、その結果生じることは緻密な作戦による当然の帰結なのであって、それによって彼が満足を得るっていう事とは違うんだよ。出来て当たり前の事で人は喜ばないだろう? 彼の事だから、もっと別の――客観的にこの行動の結果として得られる[勝利条件]を自分の行動の結果として考えていると思うんだ。彼は自分を評価するのに[主観]なんていう曖昧な要素は用いないよ。他者の賞賛は他人に気に入ってもらえるかどうかなんだから、称賛する者の主観が大きく関わるだろう? それは客観的なものとは言えないからね。――多分、彼はまだ自分自身の決めた勝利条件を満たして、事件に一段落ついたっていう、一種の達成感を得ていないんじゃないかな。達成感がないから、自分自身に対する己の評価もどんどん下がってゆくんだよね。己を高める事が彼の最大の関心事なんだから――自身の評価が下がってきているなら、それでいて僕達が色々な事で彼を頼り過ぎているのだとしたら、それは、とても精神的に苦しい筈だよ。――彼の求める価値観から外れてゆくのだから」
ただ、そう語りながらシンザークは、この事が判っているからといって、でも自分達にはどうする事も出来ないのだ、と考えていた。これは彼自身の評価なのだ。他者の言葉は評価を下げる原因になりこそすれ、彼自身の評価を上昇させる効果はない。だから、せめて彼の精神的な負担にならないように心がけるしかないのだ。知り合ってから5年になるのに、自分は彼の精神のほんの僅かな部分すらも支える事は出来ない。それがシンザークには酷くつらかった。それどころか、負担の一端を担っているのだ。
魔界の門を閉める事に成功したとしても、その事自体は彼に喜びを与える事にはならないだろう。魔物が減少する事で安心はするだろうけれど、自分がある事を達成したのだという満足感は得られないのだ。自身に与えた勝利条件とは全く別のものなのだろうから。
「だから、セラヴィール。出来れば彼の力になってあげたいんだけれどね……事態はそれ程単純じゃないんだ。出来るのは、彼の精神負担を減らしてあげる事だけだ、と――悔しいけれど、そんな程度の事しか出来ないと思う。でも、協力してもらえるかな?」
セラヴィールは笑みを見せると頷いた。私達は、互いが互いを補うのだ。誰が欠けても『エラン』は成り立たない。情熱の炎は、個々では小さな火にすぎない。だが、集まれば大きな炎になる。
このまま、ずっと皆が無事で行けると良いんだけれど……とシンザークは考えていた。いつまでも――勝利条件が満たされぬのなら、完璧主義者で人一倍向上心の高いトマシアンの事だから、このままだらだらと一緒に皆と過ごす事は良い事だとは思うまい。逐一、他人と相談する性格でもないし、こうと決めたら即座に行動に移す性格だから……朝起きたら急に居なくなっている、なんて事がありうるのではないか。それがシンザークには何より心配に思える事だった。彼の追いたがっていた『奇跡の杖』の件も事態の変化によって、追跡を他人に譲る事になるだろう――火口付近に刺さる『ベリアラの鍵』の存在も手伝って、魔界の門の閉門という目的の前に。
だとしたら、もしもここ一連の行動の勝利条件が、最終的に満たされぬ時には、その心中にぽっかりと空いたままの空白を彼はどのようにして埋めるのだろうか。――僕達はこれからも共に歩んで行けるのだろうか。
今までの幸運も幸福も、永遠には続かない。せめてあと暫くの間だけでも平穏な時が続く事を、シンザークは数多の同胞に祈らずにはいられなかった。
●プレイヤーより
プライベートリアクションの第3弾をお送りします。しかし、先月のネットワールドに「N03
魔界の門を閉める」となっていたのでてっきり閉めるのかと思いきや、閉める所か閉めるための必須アイテムすら出揃っていない状態のリアクションが届くとは思ってもみませんでした。次回こそは、閉めれるんでしょうねぇ。緊張感で胃が痛いです。ほんと。 今回のこれは第6回リアクションの後の話になっています。で、魔界の門を閉める前の話です。第7回(第11月期)のリアクションに関わる話も書きたかったのですが、時間がないです。これだって『エラン』の打ち合わせでの遠征中に書いてるんですから。ちなみに今は帰りの電車の中でこれを作っているので、へろへろだったりします。
以前に、第6回(第10月期)プラリアを書いてしまっているので、今回の話は
N03といってもN03Bになっております(笑)。ああ〜、もう何が何だかわからない。毎回、AプラリアとBプラリアを作っていたりして(第5回以前はさすがにもう無理か!?)。どうするんだ、クレギオン#5は4人もエントリーしているのに。締め切りはもう間近だぞ!!
でもでも、今回の話は思想性というか思考性の事ばっかりだったので、もう少しストーリーらしいストーリーのあるプラリアも書きたいなぁ、と思っています。他のPCの方々にも色々と出ていただいて(笑)。ああ、プラリア書くのが楽しいたのしい♪
なるべく時間を見つけて書いてゆきますので、よろしくお付き合い下さいませ。