ネットワークRPG“アラベスク”
『エルハーダの秘宝』
8回(第12月期)プライベートリアクション :N08
★最後から二番目の真実
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scene.4 最後から二番目の真実
シンザークは脱力した様に力無くその場にへなへなと座り込んだ。使ったのは水流制だ。水流制で形を創って見せていただけに過ぎない。なのに、あの威力は何なのだ。同胞達の支援はいつもと同じだったはず。水の同胞の威力、それ以上のものが「あれ」には加えられていた――その事がはっきりと感じられる。
トマシアンは一人呟く。
「合体魔法というやつだな」
言って、シンザークの肩に手を置いた。シンザークは呆然とした表情のまま、トマシアンを見上げる。
「複数の術者がお互いの波動を一つに練り上げて個々の魔法を一つの術に合わせたものを合体魔法と言うのだ。有名なものに『火炎竜巻』がある。さしずめこれは『水龍操刃』と言うところか」
トマシアンは、冒険者を通じた独自の情報網をもっている。それゆえに、『エラン』のメンバーの知らぬ事も――簡単には知り得ぬ遠く離れた所の事件の事すらも――熟知している。この事は、軍師としての彼を支える一端でもあるのだ。
シンザークは、トマシアンの明るい月夜の空の色に似た瞳を見つめて――そういう事か、と納得した。力無い笑みを見せながら、トマシアンに問いかける。
「怪我は無かったかい?」
トマシアンは、返事の代わりにシンザークの頭を何度も撫で、そのまま、風魔の落ちていった崖を覗き込む。
「死んだと思うか?」
トマシアンの手を振りほどいて、シンザークは立ち上がる。自分達の引き起こした結果に、魔物相手とは言え、生命を奪ってしまったという罪悪感を覚え、沈んだ声で言った。
「死んだと思うよ。あれだけの負傷だもの――」
「そうだな」
シンザークの言葉に同意しながらも、トマシアンは風で小さな竜巻球を創り、崖下へ落とし込む。そのまま、それを操って崖下に潜む存在を探索する。暫く周囲を移動させて、息を顰めている魔物の存在を警戒する。――どうやら、安全なようだ。
もっと、安全な処で、ちゃんと話そう――シンザークの言葉に、トマシアンは森の中に入る事を提案した。森に入り、東に少し行くと泉があって、その側数カズ程が草地になっている筈だ、とのトマシアンの言葉にシンザークは従った。
俺は少しする事があるから、先に行ってて配列でも組んでいろ、と言うトマシアンを後にしてシンザークは草地に辿り着き、その周囲に宿命石を配置して行く。まずは音声遮断配列。次は波動遮断配列。そして万一の為に、防護光盾配列の配置を。それらの配列が出来上がった頃に、平然とした様子でトマシアンがやって来た。シンザークは前者の2配列を発動させる。
トマシアンが、ここに来る前に、先に倒れた2体の風魔の止めを刺し、そこにある風魔の屍4体の体と所持品を改め、そしてその死体を処分……すなわち死体が容易に発見できぬように隠匿をしていたなどという事は、シンザークは知らない。
「とんだ邪魔が入っちゃったね」
シンザークは小さな声で言った。その様子は、明らかに沈んでいる。
トマシアンは、疲れた様子で手近にある倒木に腰掛けた。
「さっきの続きなんだけれど――」
シンザークの言葉にトマシアンは注意引かれた様に視線を向ける。そういう様子をみせるのは聞く気が出て来たからだ、という事を過去の経験からシンザークは知っていた。
「1しか出せない力が、2にも3にもなるって話だったよね」
「それがお前のいう『繋がり』とやらの中にあるとでも言うのか。ならば、俺がここに留まる事でその『繋がり』とやらがもたらす利点、とやらを説明してみせろ」
シンザークは、すぐに言葉を返すことは出来なかった。暫し考える。
「さっきの合体魔法を見ただろう?」
「あれは、単に術のタイミングを合わせ、互いの波動を共鳴し合わせた結果だという事も出来るが?」
興味が薄れた様に言うトマシアンを、シンザークは物憂げに見つめた。その現象がどうして起きたのか。誰とでも共鳴は可能なのか? そうじゃないだろう。そこには何かがある筈なんだよ。そう考えて、言葉を探す。
「……僕は君を信頼してる。君が僕の事をどう思っているかは君にしか分からない。でも、僕は君を信頼して全てを預けられる。だから……いや、だからこそ、波動の共鳴が出来たんだと思う」
懐疑的な視線を投げかけるトマシアンに、シンザークは穏やかに微笑む。
「僕はね。いつも同胞達の威力を借りる時には、彼らが僕にその波動を――威力の脈動とその想いを、共鳴させてくれてるんだよ。僕と同胞達とは、互いに信頼してる……互いに、愛しい存在だからね」
「その感情が共鳴の原因になると………」
トマシアンの呟き。深く考え込んだ様子でシンザークを見つめる。頷いて、シンザークは続ける。己を取り巻く風を追うように、視線を宙に預けて。
「そうだよ。愛しい慈しむべき者は、己がそう想い、またそう想ってくれる存在に対して決して仇なさず、威力を共鳴させてくれるものなのだから。人同士の共鳴も――」
不意に途切れる言葉。驚いた様に表情を一瞬凍らせて、シンザークはそのまま言い淀む。トマシアンの視線を感じながら、それでも決して目を合わそうとせず――ややあって、小さな溜め息と共にトマシアンに向き直った。
「僕は君を信頼してるって言ったけど、君は僕の事をどう思っているの?」
トマシアンはシンザークの言葉に答えようとせず、考え込んだ様子で、今、己の意識を支配している思索について言葉を紡ぎ出す。
「共鳴の原因は互いの信頼でありそれがお前の言う『繋がり』とほぼ同義であると……?」
「そうだよ」
だが、トマシアンはシンザークの肯定など聞こえていない様子で言葉を続けた。
「『繋がり』なくして共鳴は生まれぬ、と言うのだな」
「合体魔法はその証明のひとつでしかないと思うけど。――だって、心の迷宮から連れ出してくれるのは君だけだから」
トマシアンは知らず知らずの内に立ち上がっていた。そのまま、シンザークの明るい海の色の瞳を――オータムテルンの透明な海の色の瞳を見つめる。シンザークはトマシアンの月夜の空色の瞳を真っすぐ見つめ返した。星々を携える、深い紺の空。その瞳。そうするのが当然の様に、ゆっくりとシンザークはトマシアンに歩み寄り、彼の胸に頭を預けた。
「同胞達でも、駄目なんだよ。迷宮は冥くてとても深い――そこから救けてくれるのは、君だけなんだ」
トマシアンはこの親友の価値観の根幹を感じた気がした。自分はシンザークに何もしていない。なのにシンザークは自分が救いになると言う。それが『繋がり』だと言う。大切な者だと言う。信頼していると言う。無二の同胞と同じように。
トマシアンは言うべき言葉を持たず、今まで自分が感じたことの無い衝動に動かされ、彼の名を呼んでいた。耳朶を打つ響きが二人の間の最後の垣根を取り去った。と、
シンザークは感じていた。
トマシアンは判断した。
「証明しよう」
マントが落ちる音がした。