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第弐楽章:Sonata of the Highland Wind(10:32) 1 高山の上では、陽は雲に沈むと言う形でその身を隠す。 雲や、その他の光で遮られることの無い星の輝き。 そして、蒼き月ルニアに照らされたアカーニァの山頂は、かなりの明るさを持つ。 中央に向けてやや低く、すり鉢上になっている半径25メートル程の広場になっている。 やや蒼みがかったその広場に今、多数うごめくものがいる。 それは、有翼人たちであった。 村の規模にふさわしく、それほど多くは無いが少ないといえる人数でもない。 皆、正装に見を包んで円を描いて集まっている。 その円の内側にいるのは、神官服を纏い手に笛やリュートを持った男達の影。 それに紛れて、装飾の多い巫女服、神舞服を纏った数人の女性。 その中に、ひときわ目立つ影がある。 背に10枚の翼を背負い、飾り立てられた影。 フェシアである。 その表情は、暗く、儚げ。 周囲にいる他の巫女達が衣装の細部の調整を行なっている。 やがて、その輪も無くなり周囲に沈黙が訪れる。 輪の中から、一人の男が出る。 高位神官衣に身を包んだその影は、バウキアだ。 バウキアの、太く、しかしよく通る声が響く。 「皆の者、良くぞ集まってくれた。」 そして、それが儀式だということが雰囲気から伝わる。 「今宵、320年振りに真なる起臥の儀式が行なわれることを、ここに宣言しよう。」 周囲の輪が、跪く。 そして、ただ残されるはフェシアとバウキアのみ。 フェシアが 「今、世に留まりし翼達よ、今宵の宴を持って汝らの冥福を約束せん。天に静寂、地に安寧。我が名は神格司祭。神の代弁者。我が声を見よ。我が舞を聞け。」 言って、目を閉じる。 「こうなったら…歌うしかないじゃないですか。」 誰にも聞こえない様に、呟く。 「やっぱり…変わってしまったんですね…」 バウキアが、手を挙げる。 楽器を持った男達が散開、神楽を奏で始める。 高く、優しく。 しかし、強く、高速に。 巫女達が踊り始める。幾枚もの翼が風をはらんで音を立てる。 そして、楽器と翼の重奏に他の音が加わる。 歌だ。 歌詞も何も無く、ただ響く声。 神楽に会わせて、高く早く。 しかし、その中に一つだけ他の者と違う歌が混ざる。 フェシアの声だ。 声量的には他の者と変わらず、むしろ小さいくらい。しかしその声は音としてではなく、直接に空間を伝わる。 その速度について行けず、一人、又一人と歌声が減っていく。 歌声はさらに加速、手で奏でる楽器さえ追いつかなくなる。 そして、ついには広場の中央で一人神舞を踊り、歌を歌うフェシアだけが残る。 四肢の末端に付けられた鈴の音だけが唯一着いて来ることを許された伴奏。 その舞は、空間にもう誰も読むことの出来ない文字を書き残していく。 一瞬文字が光り、すぐに消え、その度にフェシアの翼が少しずつ光を纏う。 その光景を眺めるバウキアは、涙を流していた。 他の有翼人も涙を流している。 歌が、否、声が直接に魂を揺さぶっているのだ。 生命の根源を震えさせる神気が、フェシアの歌声にはあった。 その力に惹かれ、数多の死霊が下界から上ってくる。 だが、広場の輪に近寄る前にそれは神気に焼かれ焼失する。 その音は悲しみの縛鎖から解き放たれた歓喜の声に等しい。 連続して響く歓声が、辺りを支配する。 自分自身と世界との境界が曖昧になっていく。 ふと、身体の心から力が抜けるような感覚を感じた。 それでも、歌は止まない。 何時までも続くかと思われたその時間は、唐突に終わりを告げた。 まず、空気が断ち割られる音が響く。 そして、広場の上を、影が通った。 それに気を取られ、フェシアが歌うのを止め、歓声が消える。 通りすぎて、ターンを行なっているその姿をフェシアは記憶と照らし合わせる。 月明かりの中、微かに赤黒く見えるそのシルエットは 「飛空艦…飛空戦艦ですか!?」 周囲が、騒ぎ始める。 護衛の兵士達が周囲に集まってきた。 そんな中、フェシアは疑問を放つ。 「何で、こんな所に…?」 刹那。 空から影が落ちてきた。 2 その影は、影としか形容のしようが無かった。 黒衣に身を包み、黒い鞘に収まった長剣をもっている。 その顔はフードに包まれており、月光の下でも確認できない。 影は、背中の翼を開くことなく急降下。 着地点周囲にいる僧兵を二、三人蹴り飛ばし、その反動を持って跳躍。 その、猛禽に見られる攻撃的な一対の黒翼を広げフェシアのすぐ傍に降り立つ。 そして、一言。 「よう、フェシア。久しぶりだな。」 「誰ですか!?儀式の最中に…!」 フェシアは身構える。指で印を組み、精神集中。 神霊呪法の準備だ。 影は、フードをはずす。 ボサボサな黒髪と共に、燃えるように赤い瞳が月光にさらされる。 「俺だ。ヴァイスだよ。」 記憶の中の、その名を持った少年の面影を持った顔を見て、驚きながら 「兄…さん? ど、どうしてこんなことを?」 「ああ。迎えにきた。」 「迎えに来たって…」 「約束しただろ…っと!」 ヴァイスが身を捻る。 そこを、僧兵の持つ長棍が通りぬけていった。 「話してる最中だろうが!」 捻った反動を利用して、鞘に入ったままの剣を振る。 顔面にクリーンヒット、僧兵は血と歯を吐きながらもんどりうって飛んでいく。 それを見てフェシアが激昂。 「な…なんて事するんですか!?」 「いや、人が話してる最中に邪魔しちゃいけないと習わなかったのかと思ってな。」 ヴァイスが周囲を見渡す。 すでに一般の有翼人たちは逃げ出し、僧兵や神官戦士たちだけが広場にはいる。 その数、ざっと20以上。 「あの、…待ってください、皆さん。えっと、この人は」 無駄。 仲間を一人やられたことで、血気にはやる若い僧兵が怒りをあらわにしている。 今すぐ飛びかかってこないのは、フェシアが居るからだ。神格司祭に危害を加えまいとする動き。 だが、雰囲気から見て突撃してくるのは時間の問題だ。 それと見て、フェシアはヴァイスに 「と、とにかく、止めてください。殺されてしまいます。」 「まったく、約束を果たそうとしに幼なじみを迎えに来ただけなのに…」 ヴァイスは剣を持ったまま器用に腕を組み 「大げさだ。」 ため息一つ。 「それにしても、何だって君一人にこんなに護衛が付くんだ?どうせ君は良くて高司祭だろう?落ちこぼれ。」 「落ちこぼれって…たしかに昔は……ひどいです。でも」 「でも?」 「私は、神格司祭に…なったんですよ?」 ヴァイスの目がすぅ…と細められる。 「なんだと…?じゃぁ」 「はい。持って、後一ヶ月。」 「……」 ヴァイスは、黙って前を魅る。 「なら…付いて来い。」 「出来ません。」 フェシアはうつむきながら答える。 「何故だ?」 「後一ヶ月…ここで、神の御下へ行く準備を」 「それは、君の選択か?まだ、知らない事だっていっぱい有るだろう?見たい物だっていっぱいあるだろう。 …自分の中にある選択肢を全部鑑みて決めたのか?」 「でも、私は皆の期待にこたえないと…」 フェシアの表情が沈む。 「その顔を見ると…思いも依らぬ扱いを受けたって感じだな…」 「……」 「それに…約束はどうなる?」 「約束…」 「そうだ。大切な、約束だろう?約束は、守らなくちゃあいけない。そうじゃないのか?」 「……」 フェシアは黙る。考えている。 僧兵達の輪が、ゆっくりと縮まる。 時間は無い。 「でも、私は…私の意見はもう、関係無いです。 私が神の下へ逝って、皆が幸せになれるように」 「…所詮言い訳だな。」 ヴァイスは、フェシアの言葉を立ち切る。 「さっきも言ったが、自分のやりたいことが、本当にそうなのか?それを認めるのが、怖いだけじゃないのか?」 刹那。 ヴァイスの左手がフェシアの延髄を軽く叩く。 「うぇっ…!?」 フェシアの意識が飛び、倒れかかるその体を翼を痛めないように左の脇に抱える。 「………」 ヴァイスが誰にも聞こえない何かを呟く。 鞘に入ったままの剣を握りなおし、器用に懐を探り、何かを握る。 「さぁて……行くかな…っと!」 ヴァイスは走り出しながら右手を振ってそれを投げ、目をかばう。 次の瞬間、僧兵達の一角に特大の爆発が炸裂した。 3 ワルターは館の執務室から山頂のほうを眺めていた。 独断でこの村をラグールに明け渡し、名誉将校となった今では儀式に参加することを許されていない。 恐らく、儀式が始まったのだろう。 山頂の広場の辺りが、芒と柔らかく光り始める。 それと同時に、浮遊霊が集まってくるのが見えた。 「起臥の儀式…か。」 世界各地に使命乱散して留まる霊魂を浄化、鎮魂するための儀式である。 しかし、ここ300年ほど神格司祭がいなかったので、若いワルターはこの儀式が行なわれたのを見るのは始めてだった。 ふと、姉のことを思い浮かべる。 「後一ヶ月…」 どう接して良いのか解らない。 なんとか平常心を保てたが、後一ヶ月で最愛の姉とわかれてしまう。 12年前の別れは、また、きっと会えると信じていたから耐えられた。 しかし、今度は違う。 執務室の机にひじをつき、指を組む。その姿は、懺悔の姿ともとれる。 そして、もはや懺悔その物といった姿勢で、呟く。 「神よ…あなたは、何故…」 そんな、理由などわかっている。 神に近づき、また神に愛されたものは苦しみにまみれた俗世から、幸せな天界の在る星海へと導かれるのである。 だから、ワルターは思う。 姉さんが幸せになれるなら。 後一ヶ月、この村で、姉を神の下へ逝かせる準備の手伝いをしようと。 再び頂上を見ると、光が消えていた。 そこで、疑問を感じる。 「終わった…?いや、早過ぎる…!?」 次の瞬間、執務室の扉が開かれ、有翼人ではない、慌てたラグールの兵士が入ってきた。 「緊急事態です! …指名手配中の、ヴァイスの艦と思しき騎装艦が頂上付近を飛行中!」 「指名手配中の…誰だって?」 「先月、帝都ラグンギオーネの第4基地より新造飛空戦艦を強奪した、ヴァイス・レパードであります!」 「ヴァイス…」 ワルターの顔が歪む。 「あいつか…!」 押し殺した声で呟く。 「指示をお願いします。」 「総員、第一種戦闘配備。装備は、四式。」 「四式…?そんな重装備で良いんですか?」 「ああ、必ず仕留めれるようにな。 念のため、近辺に駐屯している航空師団に応援を頼んでおいてくれ。」 「はい。」 脳裏に、ヴァイスの顔が浮かぶ。 12年前、何も知らなかった自分が共に遊んだ友。 ワルターは去ろうとする兵士を呼びとめる。 「俺の、魔鋼機の起動準備もしておいてくれ。…騎装艦相手の上に同調手術も受けていないから何処までやれるか不安だが、無いよりはマシだろう。」 「了解しました。」 兵士の足音が去っていく。 立ちあがり、再び山頂のほうを見る。 すると、ちょうど大きな爆炎が上がった。 その炎は呪法や呪符によるものではない。 ワルターは、口だけで苦笑。 「新開発の無煙火薬…か。相変わらず、派手で新しい物好きな奴だ。」 4 黒い影が、白い翼を抱えて疾走する。 時に走り、時に白い翼の重さを微塵も見せずにその翼を使って滑空。 下り坂なので速度は十分にノっている。 道が、舗装された石畳になってきて、村に入った事を伝える。 「…村の入り口で合流、そのまま帰還、か。」 村の中、中通りの一つ隣の小路は、狭く、見通しが利きにくい。 「障害物が多いと、伏兵も多いんだよなぁ…っと!」 右手を一閃。 角から跳び出てきた男を張り飛ばす。 黒い兵服を着たその姿は 「ラグール空兵…?」 うめきながら立ちあがろうとする相手に、きっちり止めをくれてから、再び走り出す。 「…絶対不可侵のはずのこの村に、何でラグールの兵がいるんだ…?」 角を二回曲がり中通りに出ると、そこには 「げ」 横一列に8人ほどのラグール兵が魔銃を構えている。 「構えぇっ!」 小隊長らしき人物の号令。 対するヴァイスはフェシアを前方空高く放り投げる。 そのまま右手を振りかぶり、一気に詠唱。 「―――そは貫く者なり。 紅き調べ、滅びの先駆者、数多の鋼槍。 そが力は我が意志より出でて敵を討たん―――!」 開門祭文を省略した聖霊呪法。 威力は多分に落ちるが、兵士達が引き金を引くよりも早く空間を構成するエーテルがヴァイスの強い意思のみで書喚され、十数本の炎の槍が生まれる。 「略唱式・炎檄鋼槍!」 言い放ち手を振りぬくと同時、炎槍は兵士に向かって直進、その影に隠れるようにヴァイスも前進する。 音すら越える速度で放たれた炎槍は兵士達を直撃、しかしその約半数の動きを一時的に止めたに過ぎない。 「うわ、弱ぇ威力……嘘教えやがったなあの野郎…」 だが、それで十分。 前進して、一人の兵士の前にたどり着く。 炎で目をやられたのか、目を押さえている。 突然右から突き込まれる銃剣をしゃがむように回避、そのまま足を出して前の兵士の足を払う。 前に出ながら立ちあがる動きで眼前で倒れつつある相手の喉をつかみ、握って潰しながら右後ろに投げ飛ばす。 銃剣の兵士がもんどり打って倒れた。 前に出ながら回し蹴り、別の兵士がその蹴りを受け止めた腕を本来曲がらない場所から変な方向にに曲がらせそのまま吹き飛んでいく。 その兵士が地面に着くのを見終わらないうちに、足を一度引きそのまま放つ後ろ蹴りを背後に迫っていた別の兵士の鳩尾に突き刺す。 捻りを加え蹴り抜き、小休止。 無造作に右手の剣を振り近づいてきた他の兵士を、返す動きで突いてさらに別の兵士を。 これで、6人。 残る2人は無視して前進。 懐から炸裂弾を取り出し、後方に無造作に投る。 そこへちょうど降ってきたフェシアを絶妙な力加減で優しく受けとめ、再びいきなり全力疾走。 直後、ヴァイスの姿が、背後の爆発で照らされる。 圧倒的な戦闘力の差。 「…イカン…」 そんな状況に、ヴァイスは苦い顔をする。 「…こんなにポコポコ使ったら、補充が大変じゃないか…クソ。」 走る。 村の出口はもうすぐだ。 しかし、唐突にそれを遮る者がいた。 大気の壁を絶ち割る轟音。左舷から白い壁――いや、巨大な剣が降ってくる。 「なぁっ!?」 咄嗟に後ろに跳び下がり、回避。 抱えているフェシアの分だけ動きが鈍っているのを、翼をうち払って何とか修正しながら後退。 剣はそのまま来た方向へと戻っていく。 そちらを見れば、黒い影がある。細身ながら、鎧套を纏い熱気と威圧感を放つ巨体。 高さ8メートルほどのその姿は 「…!? 魔鋼機か!?」 5 『機構連絡:型式番号:RGLW−0073−SE 「剣鷹」の起動プロセスを開始します。 聖霊機関・接続完了。一次起動・終了。 状態・非同調/手動モードに固定します。 肉体同調が不可能なので、機体の反射速度を通常の3分の一に減圧します。 搭乗者の肉体安全保護のため、音速超過機動及び亜音速機動はできません。』 魔鋼機がメッセージを送ってくるのを、ワルターは翼を縮めながら狭く薄暗い部屋で聞いていた。 人一人が入るのがやっとの空間。ここは、魔鋼機の操縦室である。 眼前にあるモニターにはまだ何も映っていない。 ―――魔鋼機。 前大戦が生み出した、人型が主流の有人兵器である。 極限まで軽量化されたフレームに流体金属の筋肉、それを包む飛空金属の外殻を持った巨人。 同調手術によって脊髄周辺を改造し、神経を完全に機械と合一することでその真の力は発揮される。 手術を受けない場合は手動操縦となるが、その場合、操縦者保護のためかなり能力は制限されてしまう。 魔鋼機の体は極限まで軽量化されており、出力によっては音速・亜音速の機動も可能だ。 音速超過時の機体保護用の呪法紋章が描きこまれた鎧套を纏ったその姿は、さながら呪法士である。 そこに、副官からの通信が入る。 『ヴァイス・レパードは、神格司祭を人質にとって逃走中、とのことです。』 「…っ」 歯ぎしりする。 今すぐにでも飛んでいきたい気持ちを抑えて、魔綱機の起動プロセスを終了させていく。 『機構連絡:意思同調が不可能なので、呪法紋章の展開は不可。 通常兵器及び左腕部防壁紋章のみ使用可能。 視覚/聴覚/各センサ・確認終了。 各部駆動器・問題無し。二次起動終了 起動プロセス終了・各部異常皆無・行動可能。』 モニターに光がともり、格納庫の扉が映る。 夜間なので、いささか暗い。戦闘するには心許ない。 手元のスイッチをいじると 『機構連絡:夜間戦闘モード・開始。 光量調節機能・起動』 一瞬画像が消え、すぐに映る。 先ほどとは違い、真昼のように明るい。低光量モードでのカメラ画像。 そこに、再び副官からの連絡が飛んでくる。 『防衛線、突破されました。』 「わかった。周囲の民間人を避難させろ。」 『了解』 足下のペダルを踏み、機体を起立させる。 すぐ脇に立てかけてある魔綱機用の剣を取り、扉に向かって歩き出す。 それに連動するように扉が開き、明るい夜が目の前に広がった。 「……」 深呼吸。 手動で動かす時には極少しの操作ミスでも命取りになってしまうことだってある。 集中し、ヴァイスの逃走経路を確認。中通りを一直線に進んでくる。 村の入り口へと向かっているようだ。 「それが命取りになるぞ…何たってこの屋敷は村の入り口にあるんだから。」 格納庫から出て、周囲を見渡す。 建物の影に熱源動体反応。 射程内だ。 気づかれてはいない。 相手が影から出てくるのにあわせて、剣を打ち込む。 「なぁっ!?」 外部センサが音を漏らさずとらえた。 「魔綱機か!?」 紛れもない。 低光量視覚センサではっきりと見える黒い二枚翼、ヴァイスだ。 小脇になにやら白くて大きいモノを抱えている。状況的にそれがフェシアであろう事を想像するのは容易だ。 「姉さんをはなせ!」 「姉さん…?! …ワルターか! なんで魔綱機なんかに乗ってやがる! …そうか、この村をラグールに売ったな!?」 「売ったんじゃない!守るためだ!」 剣を横凪に振り払った。 ヴァイスは大きく跳躍して回避、しかしその巨大な刀身が生み出す剛風によって飛ばされる。 空中で無理矢理身をひねって何とか着地。 「アブネェな!フェシアまで叩き斬るつもりか! 『剣鷹』なんて軽量だから剣の振りが速くて危険だろ!」 「おまえが姉さんを放せば問題ないだろう!」 再び、剣を構える。 「クッソ…おせえなあいつら…」 ヴァイスは舌打ち。しかし、すぐに口だけでにやりと笑う。 額には冷や汗が浮いている。 「さあ、神妙に縛につけ!」 ワルターは三度剣を振るう。それに対して、ヴァイスは剣を下段に構えた。 受け止める構えだ。 「ふっ!」 ヴァイスの気合。一瞬だが確かに巨人の剣と人の剣がかみ合う。 しかし、それも一瞬。圧倒的な質量差に押され、ヴァイスが吹き飛びそうになる。 それを、ヴァイスは剣をワルターの巨剣に押さえつけるようにする。 力の向きが変化。ヴァイスは丁度ワルターの剣を飛び越えるような形で着地。 着地した直後、剣を放して炸裂弾を投げつける。そして、剣が一度地面にぶつかって跳ね、しかし、空中にある間に回収。 炸裂弾をワルターは左手に仕込まれた防御呪章で受け止める。 大気を引き裂く轟音と共に、赤黒い花が生まれ、すぐに消えた。 どちらも決定的な一打を与えられない。だが、状況的にはワルターの方が上だ。 「ちと…やばいかな?」 ヴァイスはそう呟き、背後を確認。たいまつを持った僧兵達が集まりだしている。 そのとき、ワルターの魔綱機のレーダーが一つの影をとらえた。 それに対し、ワルターは直感的に危険を感じた。 「来たか!?」 すさまじい速度でそれはやって来た。 楔のような巨大なシルエット。 飛空艦である。空を飛ぶ艦船の呼称。 それは、ヴァイスたちの真上でちょうど止まり、ホバリング。 外部スピーカーが声を上げた。 『兄貴、遅れてすいません!』 「おせえよ!とっとと降ろせ!」 一瞬の後、飛空艦から物資牽引用のワイヤーが降ろされる。 それを見たワルターは一気に踏み込もうとする。 だが、それは果たされない。 飛空艦の外部の機関銃が弾けるような音を立てて連射される。 小口径とはいえ、対艦用APを使用した機銃弾は軽装甲なワルターの魔綱機にとっては当たり所が悪ければ命取りにもなりかねない。 「くっ!」 左手の甲をかざし、呪法紋章を展開。 薄い六角形の光の幕が広がり、火花が散った。 だが、そのせいで動くことができない。 そうしているうちにヴァイスはワイヤーで飛空艦の中に入っていく。 「じゃあな、ワルター。」 そう言い残してヴァイスは消えていく。 ヴァイスが完全に飛空艦の中に入った直後、急加速。 飛空艦は領域から離脱していった。 「くそっ!」 拳をモニターにたたきつける。 何度も、何度も、何度も。 モニターはひび割れ、拳には血がにじむ。 「…くそ…っ!くそぉーーーーーっ!」 叫びは、静かになった山の中に響いて消えた。 それに応える者は、いない。 |