|
間奏: Requiem -Second Engagement- (4:03) 夜明け間近の高空に、二隻の騎装艦が並んで浮いている。 片方はジェット推進のホバリング。 片方は重力慣性制御のホバリング。 お互い、殆ど隙間もなく密着している状態。 双方のハッチが、ほぼ同時に開いた。 片方から現れたのは、ヴァイスだ。 翼と同じ色のフライトジャケットに、耳には通信用のヘッド・セット。 鞘に入った長剣を携えている。 もう片方からは、フェシアとワルター。 銀の髪と白金の翼のフェシアと、ワルターの黒い装甲服が対比的であった。 「…よう、ずいぶんとカッコ良くなっちまったじゃないか。」 「無駄話をしている余裕はない。」 ワルターは挑発に乗らない。フェシアは黙っている。 ワルターはフェシアの方に向き直った。 優しい笑顔で語りかける。久しく見ていなかった顔だ。 「姉さん。」 「…」 「俺は、彼奴のことを…ヴァイスのことを、認めることができない。」 「……」 「でも、姉さんは彼奴のことが好きなんだろ?」 「………」 「なら、姉さんは姉さんのしたいようにすればいい。」 「…え……」 「姉さんの人生だ。少しくらい神の御許に行くのが遅れたって、誰も文句は言いやしないだろうさ。」 「ワルター…」 「でも、約束してくれ。必ず帰ってくると。」 そう言って、ワルターは姉を抱え上げてヴァイスの方に放り投げた。 「きゃ!」 「うぉっと!」 フェシアはヴァイスに抱き留められる。 それを見届けてから、ワルターはヴァイスに向かって吼えた。 「ヴァイス!貴様の様な奴では心許ないが、一時預ける!判っているだろうが、姉さんを傷つけよう物なら…!」 「…わかってる。」 「それと、貴様の命も一時安泰になるな。ありがたく思え。」 「…おう。」 ヴァイスは短く答えて、無言。ただ、ワルターの方を見つめ続ける。 ワルターは、誰にともなく苦笑。ハッチの方に向かって歩く。 夜が明け始めた。朝日が昇り来る。 「…ワルター?」 フェシアは、何か不吉な物を感じてワルターを呼び止める。 ワルターのの背中が、陽光で、一瞬霞んで見えた。 彼はハッチに手をかけて、一瞬だがこちらに顔を向けて。 「――――必ず、幸せにしろよ…にーちゃん―――」 一瞬でハッチが閉まる。フェシアは「鬼」に駆け寄ろうとするが、それをヴァイスが押さえつける。 「…ワルター!?ちょっ、ねぇ、ワルターっ!」 「おい、フェシア、暴れるなっ!墜ちるぞっ!」 「鬼」がゆっくりと「名無し」から離れる。 一瞬、名残を惜しむかのように停滞した後。 「ワルター――――!」 別れは一瞬。 全速後退した。 恐らくは、こちらを追ってきている敵の方へと。 すぐにごま粒のように小さくなる「鬼」の機影。 フェシアが伸ばした手は、何もつかめない。 十数秒、空白の時間ができる。響くのは風の音のみ。 「…フェシア。」 「……兄さん…」 沈黙が再びわだかまる。フェシアの顔は見えない。 だが、こんな時どうしたらいいのかヴァイスは覚えている。 フェシアの肩を抱いて、耳元で呟く。 「…泣いても、良いんだぞ。」 そう言われて、フェシアは振り向く。ヴァイスの胸に顔を埋めた矢先、嗚咽が漏れる。 止まらない。ヴァイスはフェシアを強く抱きしめた。 ヴァイスのヘッドセットにポゥンからの通信が入る。 ヴァイスにだけ聞こえる通信だ。 『…そろそろ移動しないと、敵に感づかれやすが…』 ヴァイスはそれに返事をしない。ただ、フェシアを抱きしめたまま、エアロックの中に入って、ハッチを閉めた。 名無しは、ゆっくりとターンを切って、帰途についた。 遠くから、爆音が聞こえてくる。 ―――何のことはない。 あの暗号は、「俺が引きつけるからにーちゃんは姉さんを頼む」といった内容のことだけで。 ただ、それだけのことで。 どうと言うことはなかった――― |