レジェンド・オブ・スケロク2 エピソード3

copyright(c)ebi

第一話 居酒屋店主の旅立ち〜魔族と人と〜
=============================================================

---スケロクタイムズ---
・・・次のニュースです。
当時、次期大統領最有力候補と言われた魔王コレチカ氏殺害事件の犯人の捜査は依然として進展が見られず、捜査本部は焦りの色を隠せないでいます。
刀で斬りつけられた傷以外に手がかりは見られず・・・


「コレチカが生きていたら、この国も少しは良くなっていたかな?」
「バカ!魔族の言う事なんか信用できるか!」
スケロク共和国の片田舎、アズミの街に居酒屋「勇者」はあった。
テレビのニュースを見て、客が口にしている通り、時代は混迷を極めていた。
魔族と人間の共存を掲げて、スケロク共和国の大統領候補にまでのし上がった魔王コレチカが殺害され、それに伴い、改善に向かっていた人間と魔族の関係は悪化。時代は先行きが不透明となっていた。


無骨な格好をした、いかつい男が店に入ってくる。
「スケロク君、今日も一杯やらせてもらうよ」
「鳴羅門(なるらと)さん」
いつもこうして飲みにくるのだろう。当たり前のように会話が交わされる。
「父さんがいなくて、寂しくはないのかね?」
スケロクの父、比麗門(ひれもん)は、5年前から行方をくらませている。
それまではこの店も、共和国の首都スケロクシティにあったのだが、治安の悪さに不安を抱いた比麗紋が、親友である鳴羅門の世話になるようにと、スケロク達をアズミへと引っ越させたのだった。
「まあ妹もいるし、それに・・・」
スケロクが顔を向けた先には、少女がいた。
どことなく儚げな雰囲気を漂わせた、見た目は10歳程度の少女。しかし彼女は吸血種族ルビーアイなので。見た目と実際の年齢が大きく異なる。
太陽の異常活動の起きた時代である200年前以上から、彼女は生きている。
「なるほど。女の子に囲まれて幸せか」
笑う鳴羅門に、スケロクは苦笑いを浮かべる。
「ラナはともかく、妹は・・・」
「兄さん、何か言った!?」
客に酒を運んでいた少女が、スケロクの方を向いて叫ぶ。
「いや、何でもないってば、ヘレン」
スケロクは、押しの強い性格の妹ヘレンが苦手らしく、口調も弱弱しい。親の嘆きが聞こえてきそうだ。

「スケロクさんはいらっしゃいますかねぇ?」
顔色の悪い男が、入ってくるなり声をかける。
「『悪党退治承ります』って張り紙を見て来たんですが、引き受けてもらえるですか?」
男の話によると、街からすぐ近くのアズミの森に、悪事を働くデーモンの一味がやってきて悪巧みをしているらしい。
「またか・・・」
鳴羅門の顔が険しくなる。
その森の奥には洞穴があり、そこが野盗や魔獣の棲み家になることもしばしばあるというのは、この街の住民の間では有名だった。
「かまいませんが、前金で500S頂きますよ」
スケロクは金にうるさかった。小さな仕事でも、しっかりと前金を取る。しかし、これはスケロク共和国屈指の剣士である比麗紋と鳴羅門仕込みである自分の腕前に自身があってこその行動であり、鳴羅門も、スケロクの上達の早さに一目置いていた。

男から前金を受け取ると、早速スケロクは仕度にかかった。森までは歩きでも1〜2時間程度なので、大した装備は必要なかった。 「私も同行しよう」 実戦から久しく離れていた鳴羅門は、戦いを楽しみたいのか、有無をいわせずにスケロクに同行した。
「しっかりやってきてね!まあ鳴羅門さんがいるから問題ないでしょうけど」
スケロクの『仕事』に向かう場面を何度も見てきているのか、ヘレンの口調は安心しきった感じだ。増して鳴羅門もついていくというのなら、不安になる要素など全くないのだろう。
「わたくしも行きたいのですが・・・」
スケロク達に声をかけたのはラナだった。その表情には、どういう訳か罪悪感のような痛々しいものすら感じる。
「ラナ、俺たち2人で十分だから、ヘレンと一緒に待っていてよ」
スケロクはラナを危険な目にあわせたくないゆえに、彼女にはここで待っていて欲しいと思っていた。
しかし、ラナの表情からも、スケロクと全く同じ心境が感じられる。
「私がとスケロク君いれば大丈夫だよ。それに留守番が誰もいないのも不安だろう」
ルビーアイであるラナは、そこら辺の人間や魔獣など全く相手にしない超能力の持ち主だった。ヘレンも鳴羅門に武術の訓練を受けている。この二人になら、留守を任せてもいいと鳴羅門は思ったのだろう。

結局、スケロクと鳴羅門の二人で安曇森へと向かった。
「ラナは時々ああいう表情を見せるんだ。そんなに俺のことが心配なのかな?それだけとは思えない、何か深いものを感じるんだけど・・・。小さい頃からラナとは一緒だけど、わからないんだ・・・」
スケロクは、時々ラナの見せる、罪の意識に苛まれたような痛々しい表情を見るたびに、自分にも罪の意識のようなものが、心の底から沸き上がってくる感じがしていた。
「この感じは何なんだろう。何か、昔自分が悪いことをした、そんな感覚さえするんだ」
スケロクのこれまでの人生に、やましいことなどほとんどなかった。子供の頃はいたずら小僧で有名だったが、人生の先の先まで罪悪感を感じるような事は、何一つしていないはずだった。
「ラナちゃんは、スケロク君の血を吸って生きている。君も知っているとは思うが、ルビーアイに血を吸われると、座れた人間は、その度に体質がルビーアイに近くなっていくんだ。つまり、君がこのまま血を座れ続ければ、人間をやめてしまうことに繋がる。ラナちゃんは、それが辛いのではないかな」
スケロクとラナは幼なじみではあるが、ラナの年格好は、スケロクと初めて会った時から変わっていない。スケロクも、20歳になったにもかかわらず、どう見ても15、6歳程度に見えた。恐らくは、ラナに何度も血を吸われたことによって、体の成長が止まってしまったのだろう。
「そのことは、俺は何とも思っちゃいないですよ。それに、吸われるの気持ちいいから・・・」
ルビーアイに血を吸われる際には、快感が伴う。ゆえにスケロクのように、好んで血を吸われる人間も少なくなかった。

話しながら歩いているうちに、スケロク達はアズミの森へと着いた。
森の外側は開かれているが、途中から、獣道のように入り組んだ地形になっている。
途中、魔獣に何度か出くわしたが、鳴羅門とスケロクは一瞬で片付けてしまう。
森の奥に、ぽっかりと洞穴が開いている。
「どうせデーモンといっても低級なヤツだろ」
野盗の棲み家になることが多いので、その筋の人間の間では、この洞穴は有名だった。
それゆえに、大物の盗賊などは、この洞穴に近づきもしなかった。
スケロクが低級のデーモンと踏んだのは、そのためだった。
洞穴を突き進んでいくと、最深部には、確かに情報通りにデーモンがいた。
スケロク達が、影から様子を伺う。

「そろそろ来る頃じゃないか?」
「ああ、街ではうまくやったらしいからな」
「その間に、街のヤツラが女を奪えば万事うまくいくな」
「しかし、俺たちが奴等を片付けないと意味が無いぞ」
3人のデーモンの会話は、スケロク達には意味がわからない。
「まあいい。いくぞ!」
その一声で、スケロク達が影から飛び出す。
スケロク達が来るのを知っていたかのように、デーモンの一人が、スケロクに話す。
「ひっひ。お前らが来ることは先刻承知だったのさ」
スケロクの表情が険しくなる。
「どういうことだ!?」
「さあな・・・それよりも、自分の心配でもした方がいいんじゃないか?」
返事と同時に、デーモンが襲い掛かって来た。
一対一ならスケロク達の敵ではないのだろうが、相手が3人で、思った以上に手こずってしまう。
相手の動きが俊敏で、なかなか捕らえきれなかったが、鳴羅門の一撃が、遂にデーモンのリーダーを捕らえた。
リーダーをを倒してしまうと、あとの二人はあっという間に崩れた。
「ちくしょう・・・こんなに強いなんて聞いてないぜ・・・」
倒れたデーモンの懐から、無線機のようなものが出てきた。
「こ、この女達、思った以上に強ぇ!こうなったら、ヘルキャットを召喚してもいいか!?おい!聞こえているのか!?」
無線でこちら側のデーモンと連絡を取っているらしいが、スケロクはこの声に聞き覚えがあった。
「こ、この声、店でデーモン退治を頼んできた奴じゃないか!」
「どうやら、私とスケロク君をここにおびき出して始末して、ヘレン君とラナちゃんを拉致する計画だったようだな」
しかし、ヘレンもラナも、そこら辺の低級の魔獣など相手にならない戦闘能力を持っている。
「しかし、ヘルキャットとなるとやばいな。ていうか、アイツに操ることができるシロモノか!?」
巨大な猫の魔獣ヘルキャットは、その柔軟性と敏捷性から、かなり高度な魔獣に分類される。
「いかん!街に戻ろう!しかし、私たちでも倒せるかどうか・・・」
修羅場を潜り抜けてきた鳴羅門は、ヘルキャットの恐ろしさを知っていた。
高位のデーモンでも手を妬く程の力を秘めた魔獣を、低級のデーモンに扱えるはずもない。鳴羅門やスケロク達以外に満足に戦えるもののいないアズミの街がどうなるか、創造に難くなかった。


街では、デーモンとヘレンの応酬が続いていた。
アズミの森の洞窟のデーモンと同程度の強さだろうか。素早く飛び回ってヘレンの様子を伺っている。
ヘレンのヌンチャク捌きもなかなかのもので、致命傷とまではいかないまでも、デーモンに少しづつダメージを与えている。
「大丈夫か!?」
スケロクが戻ってきた時には、大勢はヘレンに傾いていた。
「コイツ、思った以上にやりやがる。けどなぁ、コレでお前らもおしまいよ!来い!ヘルキャット!!」
男が呪文を唱えると、空間がねじれ、巨大な猫の魔獣が姿を現す。
「くそっ!」
鳴羅門が切りかかるが、猫特有の柔軟な皮膚が、攻撃を全く受け付けない。
続けざまにスケロクが念動波を放つが、ヘルキャットはまったく動じない。
ヘルキャットの咆哮と同時に、ヘレンのヌンチャクが長く伸びて、ヘルキャットの体の中に入る。
「サイキック・オーバードライブ・ヘレン・スペシャル!!」
ヘレンが念じると、ヌンチャクを通して、ヘルキャットの体の中に向かってエネルギーが疾走する。
それでも全くダメージを受けた様子は見せず、ヘルキャットは口にくわえたヌンチャクを振り回す。
ヘレンはヌンチャクごと吹き飛ばされ、近くの木に体を強く打ち付けてしまった。

「さあ行け!もう女はどうでもいい!皆殺しだぁ!・・・?うっ・・・うわぁぁぁぁぁぅぅぅ!?」
ヘルキャットの最初の獲物は、自分を呼び出したデーモンだった。鋭い爪で切り刻み、そして、食べる。
「バカが。お前に扱えるシロモノじゃないんだよ。けどこっちもどうしたもんだか」
スケロク達の攻撃が一切通じないのでは、どうしようもない。

魔獣が次に見たのは、ラナだった。
しかし様子がおかしい。ラナに怯えているようだ。
ラナから、今までとは違う気を感じられる。ルビーアイの秘められた力が目覚めたのか、それとも、ラナにはもっと大きな力があるのか。
とにかく、今までのラナとは別人のようだ。
ヘルキャットがラナに襲いかかる。しかし、明らかにラナに怯えている。
「わたくしは、スケロク様をお守りすると誓ったのです。絶対・・・絶対に!」
ラナの瞳の輝きが増し、爪が鋭く伸びる。
ヘルキャットの突進を軽くかわし、鋭い爪で、ヘルキャットの体を切り刻む。
ヘルキャットが振り向いた瞬間、ラナは爪をヘルキャットの首に突き刺した。
魔獣は大きな咆哮と共に倒れ、ピクリとも動かない。
「すごい・・・」


戦いを見ていた街の住民達が、怯えた眼差しで見つめている。見つめていたのは魔獣ではなく、ラナだった。
「この子・・・ルビーアイだ!」
「ま、魔族だ!!」
「血を吸われるぞ!!」
「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!」
住民たちは、ラナの戦いをを見て恐怖したらしく、あっという間に、周囲には誰もいなくなってしまった。
「わたくしは、たまたま・・・ルビーアイに生まれただけ・・・なのですが」
ラナの表情は、スケロクや街の人を守れたからか、微笑を見せているが、悲しみを含んだような笑みだ。



「行くのか・・・」
日も昇っていない朝早く、鳴羅門が、スケロクに名残惜しそうに声をかける。
「魔族はここでは嫌われているみたいだし、仕方ないですよ、まずはスケロクシティを目指そうと思います。あそこなら、何かしら情報が掴めるだろうし」
スケロクは、笑って答える。
「この街・・・いや、この国には、『出る杭は打たれる』の精神が未だに抜けていないようだ。人間が魔族を嫌うのも、魔族の力に対する嫉妬なのだろう。君たちにはすまない事をした」
鳴羅門の顔は、無念さに満ちている。
「わたくしのせいで、スケロク様をこのような目に会わせてしまって・・・」
ラナも、申し訳なさそうな顔をしている。
「鳴羅門さんが謝る事じゃないですよ。この機会に父さんを探す旅に出てみます。ラナも、そんなに気にしなくていいってば。一緒に旅に出るんだし」
スケロクのこの微笑は、不思議な魅力を秘めている。この魅力が、後に多くの仲間を彼の下に集めることになる。
「ヘレン、すまない」
「兄さんこそ、あやまることないっての。店は私が守っといてあげるから!それに、帰る場所がないと心細いでしょ?」
ヘレンの肝は座っている。彼女がいるからこそ、スケロクとラナは安心して旅に出られるのだろう。
「私がいる限り、街の連中は口は出せんだろう。安心して行ってきなさい」
鳴羅門も、吹っ切れた笑顔をスケロクに見せる。
「よし!行こう」


スケロクとラナが小高い丘の上に登ると、丘の向こうに朝日が昇ってきた。
「綺麗・・・」
「やっぱ冒険の旅立ちは、こうじゃないとな!」
街を追われるようにして旅立ったスケロクとラナの表情は、それでも希望に満ちていた。

「願わくば、彼らの旅路に希望を」
鳴羅門は、スケロクとラナの後姿と重なる太陽に向かって、祈りを込めた。

(Continue)

=============================================================

| BACK | | NEXT |