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第5話 再開−そして苦悩 ============================================================= 普段は落ち着いたたたずまいを見せるテンバーの街も、年に二度行われる武術大会の時は、お祭りムードに包まれる。 「最強のヤツは誰なのか−?」テンバーの住人はこれを決める時を楽しみに生きている。 武術大会会場には、いかついファイター風の男から、超能力者風の女性まで、色々な人物が集まっていた。 「では、これより大896回秋季テンバー武術大会の開会式を行います」 大会の実行委員会によって。大会の進め方などが説明された。 1日目は予選8ブロック、5回戦を行い1位と2位のチームが、2日目に行われる本選に進めるという。予選はチーム戦ではなく、代表者を1名選んでの代表戦で、代表は試合の度に変えてもいいということであった。 「そうなると、代表をどこで誰にするかは結構重要だな・・・」 スケロクが考えた案は、最初はアニキかチヨ子が行けるところまでいって、限界が来たら、残った誰かが残りの試合を戦うという案だった。 「1回戦からいきなり強いチームと当たらないとも限らないから、その方法でいいんじゃないか?」 アニキも、その案に同意した。 「おーし!じゃあ頑張ろー!!」 チヨ子の号令で、スケロクチームのボルテージは最高潮に達した。 会場の隅で、エミーナチームがなにやら話していた。 「セレナ、任せるわ」 「・・・わかった」 セレナは冷めた顔で、エミーナたちの前から姿を消した。 「なーによー!無愛想なんだから〜!!」 ルシーダが、あかんべ〜のポーズをセレナに向ける。 「ルシーダ、ルビーアイのセレナが我々の側にいるだけで大きな力になるんだ。それにセレナの恐ろしさは私たちがよく知っているだろう」 「そりゃあ、そうだけど・・・」 ルシーダは、煮え切らないような顔を見せる。 ルビーアイ-本来政府に差別されている魔族に属する種族。永遠に近い長命と、強力なサイキック能力を持っている。さらに人間の血を吸って生きるため、人間からは羨ましがられ、疎んじられてきた種族。希少種族といわれ、人が目にすることは少ない。永遠の命を手にするために、ルビーアイに血を吸われることを望む者も少なくない。 そのルビーアイであるセレナが、なぜ政府の組織に属しているのか--彼女の思惑が政府の思惑と交錯していると思われるが、人間を見下す存在であるルビーアイであるセレナにとって、人間の下につくのは苦痛であるはずだ。ラナの様な存在の方が、ルビーアイとしては珍しい部類に入る。 一回戦。スケロクチームの相手は、前回大会で本選に進出しているオルバンチームだった。 スケロクチーム代表者、アニキ。オルバンチームの代表者、イマンドラ。 「代表はオルバンじゃないのか?ナメられたな」 スケロクが舌打ちする。 「こう見えても俺は頭脳派なんだぞ〜!アナライズしてやる!!」 スケロクが取り出したのはハンドヘルドコンピューターだった。コンピューターについたカメラを二人に向ける。 コンピューターがたたき出したバトルレベルは、アニキが19、イマンドラが11。 「アニキー!敵じゃね〜!やっちまえ〜!!」 オルバンを出さなかったせいか、スケロクは妙にむきになっている。 「おーう!いいとこ見せるぜ!」 アニキは高笑いする。 「ふん、前回本選進出のオルバンチームをナメるな!」 試合開始の合図とともに、イマンドラが斧を大きく振りかぶる。 アニキはそれを軽々と2本の剣で抑えると、イマンドラの斧を大きく弾いた。 斧が場外に大きく飛んでいった。オロオロするイマンドラに、アニキは剣をつきつける。 「ま、まいった!」 イマンドラは情けない顔をして試合場を後にする。 「ざま〜みろ〜!!」 呆然とするオルバンを見て、スケロクが吼える。 「わ〜い!この調子でいこー!次はアタシがいこーか?」 チヨ子はいつでもハイテンションだ。 「わたくしも・・・一度くらいなら」 ラナもワクワクしている。まんざらではなさそうだ。スケロクチームは、今まさに一丸となった。 2回戦、3回戦、4回戦と楽勝で突破。軽々と本選進出を決めた。そして5回戦の相手となる、4回戦の第2試合で、ざわめきがおきている。 「おい!あの娘すごいぞ!」 ラナはたまたまその場にいなかったので見なかったが、会場に立っていたのはルビーアイの少女、セレナだった。 「3回戦まで全部一撃で相手を倒しているんだ!これから4回戦だよ」 試合が始まると同時に、セレナの爪が伸びて相手の腹を貫く。相手は血しぶきを上げて倒れた。 「担架だ!急げ!!」 スケロクはセレナをアナライズした。バトルレベル20。アニキよりも上だった。 セレナは無表情のまま会場を降りる。 「殺してしまっては反則だ。気をつけなさいよ」 エミーナがセレナに声をかける。「大丈夫。死なない程度にしてあるから」 セレナの声は冷淡だ。 ラナがスケロク達の場所に戻ってきた。 「次はわたくしがいってもいいですか?」 ラナは珍しく興奮している様で、問答無用で試合に出たいといった感じで、代表者申告を済ませてしまった。 「今度の相手は今までとは格が違うぞ。まあ負けても本選に出れるから気楽に行こう。いざとなったら降参するんだ。さっきの相手はヤバかったからな」 いよいよ5回戦が始まる。 「あ、そうそう」 スケロクがもうひと声かける。 「相手の娘、ルビーアイだぞ」 「えっ・・・?」 ラナが驚きの表情を見せる。 そして試合場に上がったラナが相手を見ると、その表情は凍りついた。 「セ、セレナ姉さま・・・!?」 スケロクは、ラナが天涯孤独の身だと聞いていたので、驚きを隠せないでいる。 ルビーアイは希少種族だけに、個人同士の繋がりは強い。さらに姉妹ともなれば、その絆は相当に深いものと思われる。 後には、不敵な笑みを浮かべたイルがいた。イルはそのまま会場の人ごみの中に姿を消していった。 「こいつら、政府の組織の連中だ!」 スケロクがラナに声をかける。 「そんな・・・どうして、姉さまが政府に・・・?」 ラナの驚きと焦りの表情とは対照的に、セレナは無表情だ。 「ひさしぶりね。ラナ」 セレナはそう言うと、スケロクの方に顔を向ける。 「そう、彼が・・・」 セレナはスケロクを見てつぶやく。 「姉さまのやりたい事は見当がつきます・・・しかし、しかし何故政府に!?」 ラナの顔は強張る。 「手段を選んでいる場合ではない・・・ラナ、あなたには分からないでしょうね。私の気持ちは」 セレナは珍しく表情を険しくする。 「しかし、今みつけたわ。『彼』を!」 鋭い眼光でセレナはスケロクを睨みつける。 「スケロク様は、わたくしが命に代えてもお守りすると誓ったのです!」 スケロクは、ラナとセレナの言うことの意味がわからない。一体自分がいつ何をしたのか。自分に何があるのか。全くわからない。 「ラナ!降参した方がいい!!」 スケロクは叫んだ。前の試合でセレナの力を見ているスケロクは、ラナに降参を促す。 「わたくしは、逃げるわけにはいかないのです!」 ラナの様子がいつもと違う。 試合開始の合図とともに、セレナが呪文を詠唱する。呪文とは、超能力を発動させる際に集中力を高めるために用いるもので、同じ超能力を発動する場合でも、人によって呪文の長さなどは違う。セレナのそれは驚異的に速かった。 しかし、ラナもそれに劣らない速さで呪文を詠唱していた。 次の瞬間、セレナの体から巨大な炎が。ラナの体からは竜巻が繰り出された。 しかしセレナの炎の方が圧倒的に強く、ラナは吹き飛ばされた。 ラナは一回転すると地面に膝をつき、氷を発生させる。 セレナに命中するが、全く効いた様子はなく、すぐに爪を伸ばしてラナに斬りかかる。 ラナも爪で応戦するが、セレナの強烈な攻めに防戦一方だ。 一瞬の隙を突いて、セレナの爪がラナの腹に命中する。そして力の抜けたラナの全身を、セレナの爪が切り刻む。 「うあああああああっ!」 ラナの全身から、血しぶきが上がる。 力の差が出た勝負だった。 「せいぜい彼を大事にすることね。本選でまた会いましょう」 元の冷淡な表情に戻ったセレナは、会場を後にする。 「まただ!担架だ!」 大会の係員が駆けつけるが、スケロクはそれを止める。 「大丈夫。俺が何とかするから」 スケロクはラナを抱きかかえて、宿へと向かった。 「アニキ、チヨ子さん。正直あの時の試合に出たのがラナで良かった。アニキとチヨ子さんでも同じ結果だったでしょう。でも、ラナならこういう風に・・・」 スケロクは、ラナをもう一度抱きかかえると、口を自分の首筋にあてる。 「さ、俺の血を吸うんだ」 ラナの牙がスケロクの血を吸う。 「スケロク様の血・・・あったかい・・・」 ラナの傷がウソの様に消えていく。 スケロクの血を吸ったラナは、瞳の輝きが以前にも増している。 「どうして・・・どうして姉さまが・・・」 ラナはセレナが政府の組織に属しているのが信じられないようだ。 「ラナ、やっぱり俺に何か隠しているな。隠し事は無しって言ったじゃないか」 復活したラナに、スケロクが聞く。 「すみません・・・」 「あの娘は何で俺の事を知っている!?一体俺は何なんだ!?」 セレナはスケロクの事を知っていた。ラナもスケロクの事になると必死になる。何が彼女達をそうさせるのか、スケロクには全くわからなかった。 「時が来ればわかります。それよりも、今は姉さまと政府を止めなくては。政府の狙いは非常に危険です。そして、スケロク様も運命の渦に巻き込まれてしまうかもしれません−」 スケロクは、自分に課せられた、時を越えた宿命をまだ知らない・・・ (Continue) ============================================================= |