EARTH
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プロローグ「始まりを祝う宴は 血と狂気と…」
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1997年 レイキャンベル公国

夜の闇はすべてを包み込む。『火』を手に入れ夜の闇を駆逐し続けた人も大自然の中に飲み込まれれば闇に囚われるしか術はない。
光溢れるときはその生命力で自然の神秘を垣間見せる大森林も闇に飲まれれば、『聖』は『邪』に、『神秘』は『脅威』へと変わる。
そして、闇には人の根元的な恐怖が蠢いている。しかし、『ここ』には自然の脅威に対する恐怖とは異なる、『意志』ある恐怖もまた、蠢いていた。

その蠢く『意志』ある恐怖はこの自然の脅威を今も色濃く残すこの『モプフィス大森林』に展開していた。その『恐怖』は密林を走る戦車の内部から、装甲車から、戦闘ヘリ、そして現代の最強の陸戦兵器ARMSからも感じられた。
『意志』ある恐怖。それはいつの時代も変わらないだろう……
そう、『人』だ。

「まったく、なんだって俺達がこんな弱小国家で軍事演習をしなくちゃならないのかね。」
マックスはそう悪態をつくとARMSのパイロットスーツの胸ポケットから煙草とライターを取り出す。
「さぁな。『上』の命令なんて俺達『下』には永遠に分からないだろうな。」
俺の言った言葉にマックスは含み笑いをこぼすと、「ちげえねぇ。」とつぶやきくわえた煙草に火とつけ、煙を吐き出す。
俺はその煙にわずかに顔をしかめる。
「おっとそろそろ時間だな。お前、初めての経験なんだろ?こんな大規模な演習は?」
「ああ……まだ、軍隊に入ってからそう長くないし。」
「ま、心配するなよ。すぐに終わってとっとと本国に戻ることになるだろうからな。」
俺は笑みをこぼしてうなずいた。まだ、経験の浅い俺にとって幾つもの戦場を生き抜いてきたマックスの言葉は何よりも心強かった。
そう、俺もマックスのようにいつものような『戦場』だと思っていた……。


「……始まるな。
」 「ええ……。これで『N計画』の実証性をごらんに入れられますよ。」
「……『IIA』(ダブルアイエー)、国家公安調査庁、『CIT』に悟られないようにこんな弱小国家で行うのだ。それに『奴』の力を計るために機動大隊2個中隊、戦闘支援航空小隊1個分を犠牲にするかもしれんのだ。……この軍事演習に割かれた国防予算は計りしれんぞ。……お前たちの言うとおりの能力を見せてもらわねばな。」
「ご心配なく。N&BDシリーズの力、お見せしましょう。」


02:00 軍事演習開始

02:34 N&BDARMS−01 『ジハード』暴走

「……暴走だと?……どうする軍事演習を中止させるか?」
「いいえ。このまま続行しましょう。こんな時のために『特務遂行群』を待機させています。それに、いざという時の『切り札』も。」

夜の闇の静寂を破るように戦闘ヘリのローター音が爆音のように轟く。戦闘ヘリはその機動力を活かして闇に浮かぶ炎の明かりに高速度で向かっていた。その先に殺意を放つ『存在』を知るように。
「目標を確認!!正体不明のARMSです!!」
「了解。攻撃許可はすでに出ている。これより状況を開始する。対戦車ミサイルのセーフティ解除。誘導装置は電波誘導にセットしろ。」
「了解!目標をロックオンしました。」
「発射だ。」
「発射!!」
戦闘ヘリから放たれたミサイルは鋼鉄の魔獣に向かって軌道をとる。意志を持つかのようなミサイルは軌道を蛇行させ、正体不明のARMSに向かう。
戦闘ヘリが殺意を放つ者の気配を見つけたようにその漆黒の鋼の巨人もまた殺意と敵意を放つ『存在』に気がつく。破壊と破滅をもたらす巨人にとって敵意、殺意を向ける者は何者であり『消滅』させる必要があった。
……そのことに対する理由など存在しなかった。
漆黒のARMSは通常のARMSを遥かに凌駕する機動力でミサイルを回避する。目標を失ったミサイルをとたんにその意志をなくし、無意味に軌道を変え、大地にその身をさらし爆炎で大地を朱色に染め上げる。
「くっ!はずれたか?!」
「電波妨害によって電波誘導が無効化されました!」
「…誘導装置をレーザーに切り替えろ。もう一度攻撃だ!」
「了解。」
戦闘ヘリは急速転回し、再び攻撃態勢に入ろうとする。しかし、それをあえて見過ごすほどその漆黒の巨人は寛容ではなかった。
漆黒のARMSのその無骨な右肩のハッチが突然開き、ミサイルがその姿をきらめかせる。
戦闘ヘリをロックするとミサイルが発射され戦闘ヘリに向かって軌道を描く。
「回避しろ!」
「ま、間に合いません!!」
「うわぁぁぁぁぁ!!!」 ミサイルは確実に獲物を捕らえ、空中に大輪の花火のごとく烈火の炎を撒き散らす。戦闘ヘリの残骸は無残にもかつての機動力など微塵もなくただただ落下するのみでその骸すら大地に叩き付ける。
漆黒のARMSは『敵意』を放つ相手が『消滅』したことを確認すると満足そうに再びその破滅の歩みを始めた。まだこの森の中に無数にある『殺意』『敵意』『憎悪』『恐怖』を求めて……

02:53 『ジハード』、機動中隊と交戦に突入

そこは『戦場』だった。
そう、間違いなく『戦場』だった。銃弾が雨のように無数に襲いかかり兵器、人を問わずその身に降り注ぐ。あるものは腕を、足を、体を、頭を撃たれ倒れる。倒れた身体からはおびただしい真紅の血が流れる。兵器は血の変わりに黒い油を流し、爆炎でその最後を華々しく飾る。
足を失い泣き喚く者。自分の吹き飛ばされた腕を探す者。胴体と下半身が別れた者もいた。爆風が舞えば、人が空に舞い踊り、地に叩き付けられる。血しぶきが戦場を走る兵士を染め上げ、また己の血がその色を赤から黒へと変える。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
俺は自分が一体どこで何をしているのかも理解出来なかった。冷静になろうとすればするほど頭は混乱した。
爆音と爆炎と共にまた味方のARMSが吹き飛んだ。足元を見れば無数の骸が、うめき声が、助けをこう願いの声が、血が、嫌でも目に入ってしまう。
また、味方の兵士が吹き飛んだ。……足がない……
足元に倒れている兵士には……腕がない。それに……頭も……
突然自分の機体にぶつかった歩兵には…下半身がなかった。
今度は爆炎が右で起こる。宙を飛ぶ歩兵と血しぶき…それと………
知らず知らずのうちに涙が頬を伝う。泣いている場合ではない。それは分かっていた。このままでは自分も殺される。それも分かっていた。
それでも涙が止まらなかった。

そしてそいつは現れた。

漆黒…いや、紅蓮の炎、あまたの兵士の血をかぶり黒と赤のARMS…。
こいつにすべてがやられた。
漆黒のARMSは不気味に笑った。…戦場で混乱していたのかもしれないが確かに俺にはそう見えた。そして奴がつかんでいる『モノ』を見たとき、一瞬で体中の血液が頭に逆流するのを感じた。
奴がつかんでいるボロボロARMSは……マックスの機体だった。
瞬間、身体が動いていた。頭で考えるより先に動いていた。
俺の乗るARMSはその漆黒の悪魔にめがけてガムシャラに疾走した。
足元に誰がいるかなんて考えられなかった。仲間の亡骸を踏み潰し、兵器の残骸を飛び越し…もしかしたら生きている仲間すら…
しかし、どうでも良かった。こいつを殺せればそれで満足だった。
漆黒のARMSは最大級の殺意を向ける相手に『冷笑』を浮かべた。そう、破壊の魔神に向かう愚か者に対して。
漆黒のARMSが向けたライフルから瞬間、閃光が走った。
黒から白へと俺の視界は転じた。そして、そのまま…俺は光につつまれた…。

03:25 機動中隊、壊滅

03:37 特務遂行群投入

「これほどの力とは…我が軍が赤子同然ではないか…」
「当然ですよ。そのための兵器ですよ。」
「……我が軍は世界最強の軍隊だ!それがたった一機のARMSに…っ!」
「……そのこと事体、『N計画』の存在意義そのものですから。」
「しかし、この事態をどう収拾する?特務遂行群でもお手上げのようだが?」
「手は打ってあります。」

レイキャンベル公国・バルゲロ基地
「…了解しました。」
指揮官はため息を吐くとしずかに電話を切る。乗り気にはなれない仕事だった。自分たちが動く事態だけは起きないことを望まずにはいられなかった。しかし、その事態は現実のものになった。
指揮官は自分の右腕を見る。
「……自分の手を汚さずに他人の手を汚すことを望む……それもまた、道に外れることか…。」
「……国防省より指令が降りた。これより演習地点への空爆を行う。」

03:40 特務遂行群撤退

最初、俺は自分が生きているとは夢にも思わなかった。
体中を走る痛みが自分の『生』を皮肉なことに実感させた。しかし、喜びに浸っている暇はなかった。自分の置かれている状況が分からない以上現状は何も好転してはいなかった。
まずは自分の怪我の具合を調べ、そしてARMSのハッチから出て外の現状を知る必要があった。
最初の一つは容易にできた。
体中に打撲、擦り傷が無数にあるがそれらは問題ではなかった。問題なのは……
自分の左脇腹から血が滲み出している。出血の量はさほどでもなかったがこのままでは確実に体力を奪われ、いずれは死に魅入られる。
俺はコクピットの緊急用のハッチを開くと外へ出た。そして……言葉を失った。
戦場の跡……そう、それが一番の例えだった。
大森林は見るも無残にその姿を一変させ、黒い灰と炎とが支配する荒野と化していた。この光景をたった一機のARMSがやったことに思わず足が震える。
歩き出そうとして『何か』につまずく。思わずそれを見てしまい、そして後悔したときにはもう遅かった。それは……人のなれの果ての姿だった。全身を黒い焼け爛れ一目では人と判別することすら出来そうもなかった。
「くっ…!」
思わず後ずさる。見れば、そんな光景がそこかしかに広がっていた。助けを求めていた声も祈りの声も怒りをこめた声も、あの漆黒の巨人に聞き入れられず炎と銃弾の洗礼がすべてを灰へと変えてしまったようだった。
あまりの事に口元を押さえる。目頭に涙が溜まっていたのは空中を舞う黒い灰のせいだけではなかった。
その時だった。視界の片隅にマックスの機体が入ったのは。思わず足を引きずりその場所へと急ぐ。体中の痛みと戦いながらそのARMSの目の前に立つ。
いつも見慣れているそのARMSはもうかつての威厳を微塵も残さず破壊され尽くされていた。だけと、俺はマックスの生存を諦められなかった。緊急用ハッチを外部からこじ開ける。歪んだ機体であるため容易には開かなかったがようやく開く。
そして中を見て……俺は、絶望した。
開けたハッチから血が流れ出して、俺の足元へと流れ出る。……瞬間俺は、絶叫していたと思う。

04:10 戦術爆撃飛空艇、演習地点に到着

どこをどのくらい歩いたかも覚えてなかった。ただ気がついたときには焼け野原はいつもの森林へとその姿を変えて…いや、元の姿に戻していた。あれからどのくらい歩きつづけたのだろう。もしかした2時間かもしれないし、10分足らずなのかもしれない。完全に時間の感覚がいかれていた。そして、徐々に体の感覚もいかれはじめてきていた。ぼやけ始めた視界。左腹部から流れ出した血はもう、右手からあふれ出て大地という聖杯に注いでいた。感覚はなくなり、自分が歩いているのか倒れているかもわからなくなっていた。薄れ行く視界からなんとか自分が歩いているということを理解出来た。
だが、いつかは限界が来る。足がもつれそのまま大地に倒れこむ。もう起き上がる力などどこにもなかった。
「……俺、ここで死ぬのか……?」
完全に闇へと引きずり込まれる感覚を疲れ切った俺に拒否する理由などなかった。

04:17 空爆開始

どのくらい意識を失っていたのだろう。気がついた時、俺は奇妙な視線を感じた。そして、自分に近寄ってくる足音を……
なんとか体を起こそうとするが体はいうことを効かない。ぼやける視界の中でようやく『ソレ』の足だけ見ることが出来た。
「……あんたは……死神なのか?」

さぁ……そうかもな。


『死神』の声は透き通っていた。まるですべてを知っているかの如く。すべてに自信があるかの如く。
「俺は……死ぬのか……?」

そうだな。このままではそうなるな。


『死神』の言葉に俺は奇妙な安らぎにも似た感情を抱いた。どうしてこんな感情を抱いたのか自分でも不思議だったがそんなことはどうでもいいほど安らげた。

お前の名は?


突然に『死神』に名を尋ねられ俺は戸惑ったがもう死ぬのならと半ばやけになる。

「俺の名は……クエイド。クエイド・ラグナイト……」
俺は『死神』がどんな顔をしているか興味を引かれ、なんとか『死神』の顔を見ようと最後の力を振り絞る。ぼやけた視界の中でもその死神が笑っているのがわかった。そう、笑っていた。

……お前の望みを叶えてやる。


最初、そう言った『死神』の言葉の意味がわからなかった。だが、『死神』が望みを叶えると言うのだ。これも一興とも思う。
さっきまで遠くで鳴り響いていた爆音が徐々にだが確実に大きくなっていく。
「俺の…望みは……」
消え入りそうだった俺の声を爆音が掻き消してしまう。しかし、『死神』は満足そうに笑みを浮かべた。どうやら『死神』には伝わったようだった。
徐々に近づく爆音がすでに両耳を貫通するほどの大きさになっている。直にここも火の海だということが容易に分かった。
そして、ついにその時が来た。耳をやぶるほどの爆音の後、爆炎が『死神』の後ろから迫ってくる。その炎は意志を持つようにうねり、猛り、生あるものすべてを飲みほさんと欲していた。ついにその魔手につつまれる。烈火の中につつまれながらそれでもなお、『死神』は満足そうな笑みを浮かべていた。俺の意識はすでに炎に飲まれ、体も炎によって焼け爛れていく。それを楽しむかのごとく『死神』は笑いつづける。

俺が、お前の望みを叶えてやる……


04:37 『ジハード』鎮圧

08:00 軍事演習終了

この事件に関する出来事を歴史の中に一行たりとも見つけることは出来ない。
ただ、この事件が『すべて』の始まりだった。これから起きるすべての争乱。
そして、『世界危機』の……。
そして、3年後……2000年。『すべて』はここに集約する。

(Continue)

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