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第一章「魔王現われ 謀略始まる(1)」
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近年、領土問題から国境付近で小規模の戦闘を繰り返していたレイキャンベル公国、ネルドガルド共和国において未明、レイキャンベル陸軍がネルドガルド国境を越えてこれまでにない規模の部隊で侵攻を開始。ネルドガルド軍と交戦中、レイキャンベル軍の一個中隊規模の部隊がトリニティ国際連合下の『戦闘禁止区域』に侵入。ネルドガルド軍の偵察部隊からの報告をトリニティ中央政府は受ける。両国間の極度の緊張状態を考慮してこれまで武力行使を行わなかったトリニティ中央政府も事態の収拾に『トリニティ平和維持軍』の派遣を決定。ネルドガルドより『戦闘禁止区域』に小規模の村落があることが打診。ネルドガルド軍はレ軍の突然の侵攻に対して部隊の展開が遅れ、民間人の救出活動を行うことが事実上困難と通達。また、中央政府もトリニティ平和維持軍の投入も間に合わないと判断。ギルドはトリニティからの依頼を受諾。ギルド本部はAクラス任務と判断。A級派遣員2名B級派遣員6名C級派遣員4名の派遣を決定。 任務内容は早急にレ軍侵攻にさらされているルビア村の民間人を保護し、ネルドガルド軍へ身柄を引き渡すこと。 また、ルビア村に接近している部隊にはARMS他、戦闘車両も含まれている模様。交戦の可能性を示唆するためやむを得ない場合、レ軍との戦闘活動も認められる。 ただし、本任務はあくまで民間人の救出が目的である。極力戦闘は避けるように。 貴公の健闘を祈る。
クエイド・ラグナイト殿

それがその命令文書のすべてだった。
ネルドガルド首都ゲールホルツ。そのダウンタウンの一角の小さなボロ宿でその文書を持って鋭く目を光らせている青年こそ、その『クエイド・ラグナイト』だった。
クエイドは内心、ギルド情報部の情報の速さに感嘆していた。
自分の所在地はネルドガルド首都としかギルドへは連絡していなかった。相変わらずその情報収集能力は帝国や連邦、トリニティの情報機関と同等クラスと呼べるようだ。
「……もちろん引き受けてくれますね?」
黒いスーツの男が沈黙を守っていたクエイドに対して声をかける。
クエイドはその冷淡な眼光をスーツの男−諜報員−に向ける。
実際年齢は二十歳にもみたない青年だが、その冷たく輝く青い瞳はクエイドを5つほども大人に見せる。『奇麗』という呼称が似合うほど均整のとれた顔立ちと金色の軽やかな髪が青年をさらに魅力的にしている。
しかし、その鋭い眼光はその青年のすべてを残酷なほど冷酷に見せる。その蒼い瞳は氷の刃の如く視線の先のものを射抜く。
ようやく開いた重い口は簡単な言葉を発するだけだった。
「ああ…。それが俺の仕事だから。」


ギルド……
一企業でありながらその規模は世界レベルに達する傭兵派遣会社である。
雇用する『派遣員』と呼ばれる傭兵の数、装備、兵器…どれをとってもその規模は大国と並ぶほどのものである。
本部をルドラン連邦首都フォート・コーポルに置き、支部は世界各地に点在する。ロンダルギア大陸、パラメキア大陸、ヴァジュランダル大陸……ギルドの存在しない国などなかった。例外は北極と南極くらいのものだろう。
任務内容は基本的に依頼によって承り、それの任務に見合った派遣員を用意する。
任務は内容によってS・A・B・C・Dの五段階に別れる。同じく派遣員もまた、S・A・B・C・Dの五段階になっている。
今回、クエイドが受けた任務はAクラスであり通常考えられうるレベルでは最高のものだった。Sクラスの任務は長いギルドの歴史の中でも数回しか数えられていない。
Aクラスの任務では各国の公的機関との交戦が許されている。
通常、ギルドの任務は原則として各国の軍隊、または国家機関との交戦を禁じている。しかし、今回のように近年、トリニティからの依頼や各国の内情不安による内乱等、ギルドに要請が降りることも多くなった。
そのため各国、とくに発展途上国からの強い要望もあり、ギルドの活躍の幅は国家の枠すらも飛び出している。

クエイド達派遣員6名は森の中を行進していた。
残りの6名は情報収集としてネルドガルド陸軍と一緒に最前線へ偵察を行っている。
前衛をもう一人のA級派遣員が守り、一番後方をクエイドが守っている。
ギルド派遣員の装備は皆すべて一緒で深緑色のベストと森林の迷彩色の施されたハイネックのアンダーシャツ。どれも戦闘用に特別に作られたものでその性能は大国の歩兵部隊と同等かそれ以上のものである。手には皆マシンガンを持っている。これも世界一の軍事大国であるドルテカ帝国陸軍のものと同じものである。
一歩一歩確実に歩き続ける。空を隠すように天高くにある落葉樹林はその青々とした瑞々しい緑の葉を揺らし、木漏れ日が緑の葉の割れ目から降り注ぐ。薄暗い森のなかで輝く光の『線』が幾本も斜めに大地に注いでいる。名前の知らない小さな花がその光を喜びでいっぱいに受け、その恩返しのようにその可愛しい花を精一杯輝かせている。朝露が葉をさらに輝かせこの森を神秘的にすらしている。

……クエイドの眉が微かに動いた。
クエイドは足取りを緩めつつ周りの気配を探る。……さっきよりもより慎重に。
先ほどと全くかわらない静かな森だった。聞こえてくるのは虫の声や、風で森の葉のせせらぐような声、小鳥のさえずりにクエイド達の歩く音のみのはずだった。
しかし、クエイドはその見えない気配を敏感に感じ取り、そして確信していた。
「……モンスターが近くにいるぞ。」
「なんだって?!」
皆、マシンガンを手に取り互いに背を合わせるようにして木々に、あるいは茂みに銃口を向ける。緊張が音となってあたりを包むように静かだった。
「…どこだ?」
隊長の静かな、緊張を含んだ声にクエイドは今まで周りを気配を探るために閉じていた瞳を開く。
「……2時方向から……おそらく、3…いや、4匹だ。」
前衛の2人の銃口がその方角に向く。
アランは汗が流れ落ちていくのを感じずにはいられなかった。生唾を思わず飲み込む。目線の先にはただ、緑の茂みがあるだけだった。
……突如、虫の音が止んだ。小鳥のさえずりも聞こえなくなった。ただ変わらないのは風にそよぐ木々の葉のこすりあう音のみ……
「…くるぞ!!」
クエイドの声とほぼ同時にガサガサと今までとは明らかに違う『音』が現れる。茂みが揺れて波のようにクエイド達の隊へと迫ってくる。
「この野郎!!」
アラン達派遣員の銃声が森にこだまする。弾丸はすべて森へと吸い込まれていく。しかし、弾丸はほとんどがその『波』に避けられる。
「なんなんだよ!!こいつはよ!!」
恐怖のあまり思わずアランは叫んでしまう。自分の実戦経験の無さを露呈していることもわかってはいた…いや、本当は何もわからなかった。ただ戦闘の恐怖に耐えられなかった。
そして、4つの『波』は茂みから、獣道へと現れてその姿を白日の下に晒す。
犬…いや、狼のようなモンスターだった。ただ、その大きさはゆうに1メートルを超していた。その巨大な狼が4匹、弾丸を無視するかのようにつっこんでくる。
「チッ!一斉に狙え!!」
隊長の声に他の派遣員たちも銃を向け、その引き金を引く。弾丸は耳を突き抜ける耳障りな音となり、横から降る雨となってモンスターに降りかかる。
後ろの2匹のモンスターが再び茂みにかくれ大きな楕円を描いてクエイド達の後方へと回り込む。
「2匹回り込んだぞ!!そっちはまかせる!!」
隊長の言葉を聞く前にすでにクエイドは動いていた。
構成を編み上げ、それに従い呪文を口早に唱える。モンスターが茂みから出るタイミングが勝負だった。
『魔法』が完成したとほとんど同時に2つの『波』が茂みから姿を現す。
「烈光牙!!」
瞬間、クエイドの『魔法』が現実世界へと具現化する。
クエイドの右手から放たれた一筋の閃光はその茂みへと到達すると眩いばかり紅蓮の炎を巻き上げ、爆音を轟かせる。
しかし、爆炎の中から一匹のあの狼に似たモンスターが体中に火をくすぶらせて飛び出してくる。
(チッ……狙いが甘かったか。)
クエイドはマシンガンを捨てると腰から短剣を引き抜く。
しもその効果が期待出来るとは限らない。モンスターの中には弾丸を跳ね返すほどの強力な皮膚を持つものも数多く存在が確認されている。
もちろん対装甲用、対モンスター用の弾丸も存在する。対装甲車・対戦車・対ARMS戦に有効な都市戦用に開発された『キーンバレット』と呼ばれる特殊な弾丸や、帝国生体科学研究機関バロンが開発した対モンスター用弾丸『ヴィルレント』がある。
しかし、これらの兵器は軍、しかも特殊部隊等が使用するもので企業であるギルドでの使用には軍よりも厳しい制限がある。
もちろん、今クエイド達が使っているマシンガンの弾丸も通常のものだ。
それよりもクエイドは短剣を選んだ。
短剣の割にはがっしりとしている片刃のものである。見た目にも重量感のある代物だ。
クエイドは使い慣れたその短剣の柄を握り締める。使い慣れたその短剣はクエイドに手に吸い付くような感覚を与える。
風となり、疾走するモンスターにクエイドは短剣を右手でぶらさげ、半身下げて『構える』。
素人の…いや、玄人の目から見てですらそれはただ短剣をぶらさげて立っているだけに見えただろう。しかし、これがクエイドの『構え』だ。
敢えて正眼で構えたり、切っ先を向けたりといった構えをしない。
モンスターはその『獲物』に飛び掛かった。そして、瞬間そのするどい刃となった牙が『物体』を捕らえる。しかしそれをかみ砕くことは出来なかった。それどころか『意識』すらなかった。
……当然だ。首を切り落とされているのだから。
瞬間、クエイドは飛び掛かってくるモンスターを僅かに体を動かすだけで避け、ほぼそれと同時に右手の短剣を一閃させた。
弧を描いた剣はモンスターの首を切断し、斬り飛ばされた首は倒れている樹木にその鋭い牙を突き立てるだけだった。
クエイドは首と胴の二つになったモンスターを冷めた蒼い瞳で眺めていた。
右手にはぶらりと下げられた血塗られた短剣。その短剣からは赤い血のしずくが一滴一滴大地に落ちる。
モンスターを倒した仲間たちが見る彼の姿は『異形』だった。
生死の境にいながら、モンスターといえど骸を前にして眉一つ動かさずその凄惨な場面を見続けている。
……彼らにはクエイドのその蒼い瞳がひどく残酷に見えた……

モンスターの襲撃はあったもののその後は極めて順調だった。
これなら予定通りルビア村に到着することが出来るだろうとギルド派遣員部隊のビッグス隊長はそう内心ホッとしていた。
…通常、ギルド派遣員同士が部隊を編制するのは極めて希である。
どんなに優秀だとしてもあくまで各国、依頼主にとってギルド派遣員とは極めて便利な『補充要員』なのである。
そのため、ギルド派遣員は単独、または元々ある部隊に編入という形式をとられるのが一般的である。そのため派遣員達は依頼主の要望にまたは命令に応えられるよう徹底的に訓練される。それがギルド派遣員にとって一番必要なこととも言えるからである。
しかし、ギルド派遣員同士で部隊を編制する場合も近年増えている。
そのため、B級以上の派遣員達は部隊を的確に指揮出来るようにも訓練が施される。それがB級以上のクラスの必須科目となっている。
もちろんA級派遣員であるクエイドやビッグス隊長も的確に指揮を行えるよう徹底的に訓練されている。

緑がうっそうとしげり木漏れ日が『線』として差し込んでいた森も歩くうちに徐々にその『線』が太くなっていく。
森が開けようとしているのだ。
「…そろそろルビア村が近いな。」
ビッグス隊長の言葉に内心メンバーのほとんどが胸をなで下ろす。
もし、ルビア村への到着が遅れればその文、レ軍との交戦の可能性が高くなる。軍隊、しかもARMSを含む戦闘兵器を所有する部隊とは戦いたくはないのが普通である。
しかし、一人だけなんとも感じていないものもいた。
……クエイドである。
クエイドには関心がなかった。レ軍と交戦したいわけではなかった。面倒な事は避けたかった。だが、必要とあらばレ軍と交戦する覚悟もついていた。
……ただ興味がなかった。

ついに森が開け、まばゆい太陽の光りが目を貫く。
まばゆさをこらえ、瞳を開けた時そこには信じられない光景が広がっていた……。

(Continue)


ちょこっと秘話1

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