第4章「君は想い出に 僕は人形にもなれずに(エピローグ)」
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けたたましくなる警報……それと同時にアナウンスが流れる。
「……緊急事態発生。緊急事態発生。研究員及び職員は所定の避難場所に避難して下さい。戦闘員は第一種戦闘態勢。持ち場に集合し、指揮官の指示に従ってください。繰り返します……」
「……私達の事じゃない……みたいね。」
リーサは僅かに胸を撫で下ろす。しかし、それとは対照的にラッグスとクエイドの表情は険しかった。その様子に気付いたリーサはラッグスに声をかける。
「……どうしたの?」
「……第一種戦闘態勢なんて尋常じゃありません。よほどの事態が起こっているみたいですね。」
表情とは裏腹に口調は緊迫感に少し欠けるものだった。しかし、それも仕方がないかも知れないとクエイドは内心思った。このラッグスと言う男はとてもではないが殺伐とした世界にはあわない人種に見えたからだ。
穏やかな物腰と表情。体格もそれほど良くなく、どちらかと言うと華奢な感じだった。そして何よりもその瞳は本当に穏やかで優しさに満ちていた。典型的な優男という感じだった。そんな彼が言う事は信用出来ないと言えば信用出来ないが、その事に関してはクエイド自身も同意していた。
「……確かにただ事じゃないな。だけど、俺達にしてみれば助かる。この混乱の隙をついて脱出しよう。」
クエイドの言葉に二人は神妙な面持ちで頷く。二人の瞳には強い光が宿っていた。その事にクエイドは現金な者だなと内心嘆息していたが、気持ちが分からないわけじゃなかった。
(……こんな気持ち……俺が分かるなんてな……)
クエイドは二人に見えないように苦笑した。だけど、その笑顔は口元を僅かに引きつらせただけの酷く無様なものだったかもしれない。
無限に広がる情報の大海……
その中の何億何兆という気が遠くなるほどの情報の海からたった一つの情報を探していた。それがどれほど膨大な量だろうと『魔王』の力を持ってすれば見つける事は可能なはずだった。しかし、見つける事が出来たのはほんの僅かな情報だけだった。『魔王』として日に日に力を付けているというのにである。
「……間違いない……か。」
ガーランドは瞳を開けると冷笑を浮かべる。その笑みは酷く満足そうだった。それもそうだろう。1997年からの……いや、1万2000年の『星』の悲願の達成には必要不可欠な存在が見つかったのだから。そしてそれは今、疑惑から確信へと変わろうとしている。
「……どうした?」
ラズウェルの声にガーランドはその黄金の瞳を向ける。
「……レイキャンベルにあるバロンの極秘施設……あそこに部隊を向かわせてくれ。」
ガーランドの突然の言葉にラズウェルは口を開けたまま呆けてしまう。
「お前、自分が何を言っているのか分かっているのか?ドラゴンの襲来によってバロンの極秘施設にはトリニティ平和維持軍が向かっているんだぞ?現状が分からないわけじゃないだろう?唯でさえ陸軍情報部、CIT、国家公安調査庁が動いていて下手な行動は取れないと言うのに……IIAさえいつ裏切るか分からないんだぞ?……それを行うメリットはあるのか?」
ラズウェルの言葉にガーランドは微笑を浮かべる。このラズウェルという男はそれがどんな途方もない事でもメリットがあると分かれば即座に行動を起こす男だった。それを理解しているため、ガーランドには扱いやすい男だった。
そして、ガーランドはラズウェルの側によるとそっと耳打ちする。それを言えば確実にこの男が行動を起こす悪魔の呪文を。
ガーランドの言葉を聞いて見る見るラズウェルの表情が変わっていく。
「……本当なのか……?もし、それが真実だとすればそいつを確保すれば軍部への最高の切り札になるぞ。」
「……ああ、間違いない。」
ガーランドは悪魔の微笑みを浮かべた。
「しかし、奴の確保は通常の特殊部隊でも荷が重過ぎる。」
「……ARMSを始めとした主力部隊を投入すればいいだろう?今のレイキャンベルは一連のごたごたで北部に大半の部隊が展開している。各国の諜報機関への対応は奴を確保出来れば問題ない。もし失敗したとしても今のレイキャンベルではいつテロが起きても可笑しくはないしな。」
冷たい微笑みにラズウェルは心強さと同時に恐怖も感じた。
「しかし、ARMSを投入するとなると確保どころか殺してしまうかもしれないぞ?」
「クックック……あいつはそれくらいで死ぬような奴ではない。不完全な暴走でもARMSを始めとする帝国の機動中隊がたった一人に壊滅させられた事例すらあるんだぞ。……それにもし殺してしまったとしても遺体を回収してそれを解析し、確たる証拠を握ればいいだけだ。帝国軍部にとって……いや、『N計画』にとって奴は目の上の瘤だからな。」
その言葉が決め手となった。ラズウェルの冷酷な笑みを見てガーランドは確信した。
そして、ニルヴァーナ機関による軍事行動がレンキャンベルにおいて始動しようとしていた。
……間違いない……
真実を言えば、五分五分だとガーランドは思っていた。しかし、現段階でニルヴァーナ機関の存在を全世界の情報機関に知らせる必要があるとガーランドは考えていた。このニルヴァーナ機関による軍事行動が何を引き起こすのか……ガーランドは悪魔とも思える予測をもって、正確にその行方を掴んでいた。
この後、ニルヴァーナ機関の情報によってIIAがレイキャンベルに急遽、展開する事になる。このIIAの不穏な動きに帝国陸軍情報部、国家公安調査庁は気付くがその真意が読めなかった。それがレイキャンベル内でのニルヴァーナ機関の過剰な軍事行動を招く結果に繋がる。
首都を逸れ、突如地方都市ヴィステアに向けたドラゴンの動きに対して完全に不意を突かれたのはトリニティだった。
ドラゴンはバロンの極秘施設への攻撃を開始したのだ。バロンの極秘施設とは言え、形式上はトリニティ保健機関、つまりはトリニティの施設なのである。それに対するモンスターの攻撃はすなわちトリニティへの攻撃である。トリニティ平和維持軍がモンスター迎撃のために防衛行動に出る。
だが、これによって戦力分布図が大きく変動する。
先のドラゴンの首都への接近のおかげで首都近郊にレ軍部隊が集中し、ドラゴンの攻撃によってヴィステアにトリニティの部隊が集中した。この勢力図の激変も今後のニルヴァーナ機関の軍事行動の抑止を行えなかった原因になった。
そう……全てはガーランドの思惑通りに進んだのだ。
カイラスはドラゴンの背から降りると崖の上からバロン極秘施設を睨みつけた。
ドラゴンはカイラスを降ろすとバロン極秘施設に向かってその翼を羽ばたかせる。
暗闇にドラゴンの吐く灼熱の火炎が暗闇に火を灯す。
灼熱の業火に焼かれるバロン極秘施設。
ここを始めとするバロン極秘施設で行われている悪魔の所業を知っているからこそ、ここまで険しい表情になれる。ここまでの事が出来る。動物も、植物も、モンスターも、そして人さえも『モノ』としか思ってない奴らだからこそ……
「……『NOVA』……『魔王』……『星』がお前たちを戦わせようとしたとしてもわしがそれを阻止してみせる。」
そして、カイラスは静かに獣魔術を編み始めた。
魔法とは異なる特殊な術……『構成』を遥かに超えた高度な設計図『術式』。
その濃密な魔力の空間が広がっていく。
歪んだ巨大な空間からそれに見合う巨大な異形のモンスターが現われていく。
ラグナドラゴン・『神竜』の次に巨大な『八の瞳の暴帝』……『王蟲』。
8つの瞳を有し、全長50メートルの巨大なヤドカリのようなその姿はまさに圧巻だった。
その王蟲の紫の瞳にバロンの極秘施設が映る……
そして、王蟲がその暴帝と言われる所以の巨大な無数のかぎ爪を使い、木々を薙ぎ倒して施設へ向かう。
この一連の騒乱の果てにクエイドが得るもの……それは……
掛け替えのない『仲間』との出会いと……この星で一番大切な人との『再会』だった。
(Continue)
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