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第一章「魔王現われ 謀略始まる(2)」 ============================================================= 森が開け、太陽の光の次に飛び込んできたのは『異様』な光景だった。 血生臭い、戦場跡ではない。 それならまだクエイドの想像の範疇だったし、可能性としてはかなり低いが考えられ得る事だった。 しかし、目の前に広がっている光景はそうではなかった。 煉瓦のしきつめられた美しい舗装されている広場。そして道。 どれも豪邸というわけではないが大きく、素晴らしい外観の家々。 広場の中央に噴水があり、白い小鳥がその水場に集まっている。太陽の光を乱反射させて美しさを一層増してさえいた。 ……はっきりいって異様と言える光景だった。 なぜなら、これほどの美しい村を作る『財源』がどこにも見当たらなかったのだ。畑もこれといって大きいほどでもない。村全体で食べる分もないのではというぐらいの広さである。しかも、こんな都市からだいぶ離れた場所に位置しているのにこれほどの原材料をどうやって運んだのか? いや、運ぶだけなら問題ない。問題はさらにかかるであろう費用をどこからくめんしたのかが問題である。全く不思議な村だった。 クエイドはそこまで考えて、かぶりを振る。 『どうでもいいことだ。』 『これまでと同じ。ここも『通過点』に過ぎない。』 そういつものように考え思考をやめる。別の事、『任務』に集中する。 クエイドは肩越しにわずかに振り向くと、そこにはやはり驚きを隠せない派遣員たちがいた。まるで砂漠の真ん中でオアシスが突然現れたかの様に。 クエイドは誰にも悟られぬよう一つため息を吐くとそのめったに開かない口を開いた。 「……早くこの村の代表者に会いましょう。……レ軍は待ってはくれない。」 クエイドの言葉にようやく金縛りが解けたようにみんながクエイドの方を向く。 「あ、ああ…。そうだな。では私と君で代表者に挨拶に行こう。早急にこの場を立ち去らなくてはいけないしな。」 ビッグス隊長の言葉にクエイドはうなずく。 「お前たちはここで待機だ。」 ビッグスの命令に4人の派遣員が「了解」と答える。 そして、二人が歩いて奥へ進んでいくのを見て一人の派遣員が口を開く。 「ケッ!なんなんだあの野郎は。人形の様に顔一つ変えやがらねぇ!」 つばを吐き、そう毒づくのはB級派遣員のウェッジだった。 服装はまったくクエイドと同じなのだがクエイドのような華やかさが欠片も見て取れなかった。ぶっちょう面に髭を無造作にはやしている。実際年齢は20代後半なのだが見た目はどう見ても30代の半ばだった。しかし、これがある意味一番良くありがちな『兵士』の顔なのかもしれない。 「だけどあいつのあの剣技と魔法はすごいぜ?あのモンスターをあっという間に2匹殺しちまうんだからな!」 そう答えたのは、アランだ。 アランはクエイドよりも1つか2つ上というこのメンバーのなかでは一番クエイドに年が近い人物だった。しかし放つ雰囲気はまったく正反対だった。 クエイドは年齢によらず幾つもの修羅場を潜り抜け、必然的にその独特の自信と実力を醸し出す『雰囲気』というものを身につけているのに対して、アランのそれは弱々しく、威勢だけということがありありとわかった。 髪を茶色に染めているがそのまだ幼さを残した容姿がさらに拍車を駆けている。 そして、何より彼はあの戦闘が始めてだった。 まだC級派遣員になったばかりの新米で初めてモンスターというものを現実に見てその恐怖を知ったばかりだった。 「……だから恐ろしいんだよ、あいつが……」 ウェッジはそういうと流れていた汗を拭いた。汗を拭わずにはいられなかった。 「恐ろしい?何故だ?頼りになるじゃないか。そりゃ、無愛想で全然しゃべらないけど」 彼はあの戦闘の後、しつこいくらいにクエイドに話しかけた。しかし、クエイドは沈黙を続け彼の努力は5分ともたなかった。 それでも新米の彼にとって圧倒的なまでに強いクエイドは憧れのような存在になっていた。 「……わかってねぇよ、お前。俺はこのギルドで働いてからいろんな奴の目を見てきた。その俺が言うんだ。間違いねぇよ。あいつの目は『殺人者』の目と同じだ。いや、それよりもひどく淀んでる。……『殺戮者』の目……って奴だな。」 ウェッジの心底恐怖している声にアランは思わず思い出す。 あのモンスターを殺した時にクエイドが見せた心底冷たい…氷の様な蒼い瞳を。 生唾を飲み込みアランはクエイドが隊長と共に行った方向を目線で追いかけた。 しかし、そこにもう彼の姿はなかった。 クエイドとビッグスは煉瓦と敷き詰められた美しい舗装道路並んで歩いていた。服装は変えようもなかったが先ほどまで持っていたマシンガンは置いてきた。クエイドも同じくマシンガンと短剣を置いてきた。 クエイドとしてはマシンガンはともかく愛用の短剣まで置いてくるのには内心不服があったが、民間人にいらない圧力をかけてしまい反発されるのだけは避けたかった。その事をクエイド自身も十分承知していたのでビッグスの言葉に即座にうなずいた。 そう、ビッグスは模範的な『A級派遣員』なのである。 髪を短く切り、そのひきしまった顔はクエイドとは別の意味の風格を醸し出している。実力では圧倒的にクエイドの方が上だがその風格は隊の隊長としては及第点を与えられ得るものだろう。おそらく年齢は30代前半くらい…。A級派遣員としては優秀な部類に属する。 ……そう、『優秀』なのである。 10代で『A級派遣員』を勤めるクエイドのほうこそが『異常』であり『異端』なのである。 無言でしばらく歩くと一軒の他の家より一回り大きな家が見えてくる。 白と茶色でまとめられた一軒家である。 広い庭も存在し、どことなくその家の持つ雰囲気からこの家が『村長の家』であるということが想像に難くなかった。 ビッグスは呼び鈴を押すと男のくぐもった声が返ってきた。 自分たちの所属を答えるとその声は中に入るよう促してきた。 「…入るぞ。」 ビッグスの言葉にクエイドは無言で答えた。うなずきもせずただその冷めた蒼い瞳をその家に向けていた。 ビッグスのその様子に何も言わず、ドアのノブに手をかけ回す。 ドアを開けるとそこに広がっていた『空間』はクエイド達、戦場に生きる者とは全く無縁の代物だった。 白い大理石で出来ている床。天井も高くホールから二階が見える。装飾品も見栄を張りすぎず、かといって粗雑というものでもない。どれもセンスが良いものばかりだ。床に置いてある泥よけの絨毯だけでもそれなりの値段がするだろう事ぐらいはクエイド達にもわかった。一流とは呼べないかもしれないが少なくとも上流階級の家という事は間違いなかった。 その光景に戦場でなら的確に指示を与えられるビッグスもこの時ばかりは呆気にとられるしかなかった。 しかし、クエイドだけは冷淡にその光景を眺めていた。 『別に面白くもなんともない。』 『ただの『背景』に過ぎない。』 それがクエイドの持ったただ一つの感想だった。 「……早く行きましょう。」 クエイドはそう呟くように言うと今まで獣道のような所歩いていたその泥だらけのブーツでなんの気兼ねもせず絨毯を踏みつけ、白い大理石に茶色の足跡を残して歩き出した。 ビッグスはその様子に唖然としながらも、自分も行かなくてはならず絨毯に気兼ねしつつその泥だらけのブーツをこすりつけて奥へと入っていった。 おかげで白い大理石の床に足跡を付けることだけはすんだようだった。 応接室の前に立つとビッグスが再びノックする。さっきの呼び鈴の時と同じ声がトビラの奥から聞こえてくる。 ビッグスがトビラを開けるとその部屋も中央ロビーに勝るとも劣らない数々の装飾品、日用品が散りばめられていた。 「……君たちか。軍の使いは。」 男−おそらく村長なのだろう−の声には感謝の色など少しも見て取る事が出来なかった。見て取れたのは圧倒的な不信感と蔑むような目くらいのものだろうか。 「…ええ。しかし、厳密言うと違います。私たちはトリニティの依頼のもとやってきたギルド派遣員です」 ビッグスの言葉に内心クエイドは頭痛を覚えずにはいられなかった。 真面目なまでの模範解答だが、相手を選んで言うべきである。この種の人間というのは難癖をつけて相手の足上げを取り交渉をスムーズにはいかせないのである。 ………たとえそれが自分の命に危機が迫っていたとしても。 「ギルド?……軍ではないのか?大丈夫なのかね?」 村長の不信感はより一層増したように感じられた。少し中年太りが入ってはいるがその眼光の光は危険なほどするどかった。ある意味で威厳も感じられたが…… (……ただのガラの悪い中年オヤジだな) そうクエイドは思わずにはいられなかった。 ビッグスはクエイド以上にその事を痛感していた。 このままではいたずらに時間をかけてしまう。 クエイドは思案すると彼の『立場』を利用することにする。 「……俺達が軍か、ギルドかはこの際関係ありません。重要なのは今この時もレ軍の部隊がこの村に迫っていることです。あなたも村長なら民間人を速やかに避難させるべきだとわかっているでしょう?」 クエイドの言葉に今まで不信感で一杯だったその眼光がわずかだがゆるむ。どうやら現実というものを理解したようだった。 「…確かに君の言うことも最もだ。しかし、一企業にすぎないギルドが我々を守り切れるのか?」 村長のその言葉を聞いて珍しくクエイドの無表情な顔に変化が起きた。口元の端を微かに歪めた。 思わず笑いが込み上げてきた。 一体何人の人間がそう自分に言ってきただろうか? そう考えるとクエイドは『無表情』ではいられなかった。 しかし、再びいつもの感情を押し殺した…いや、感情そのものがないような『無表情』をつくりあげる。そしていつも言うお決まりの台詞を吐く。 「…ご心配なく。任務なら自分の命すら投げ出すのがギルド派遣員ですから。」 クエイドの言葉には何の感情もなかった。そう、何も…… ビッグスもクエイドのその様子を見ていた。クエイドが微笑った所も。 しかし、その冷酷な美青年の微笑はひどく残酷に見え…そして、はかなく美しくもあった。 ビッグスはその事実に直面してギルド派遣員全体の噂の的たるこの青年の、『クエイド・ラグナイト』という名前とは違うもう一つの密かに、しかし確実に『彼』をあらわす名前を思い出さずには要られなかった…。 まさに、その言葉通りの青年だった。 どんな事態にも心を動かさず冷淡な蒼い瞳で世界を見て、そして無慈悲な『死』を振り撒く。まさに『殺人人形』だった。 ラッグスはそこまで考えてかぶりを振った。 気分が悪くなるだけだった。そしてこの青年とはもう2度と部隊を組みたくはないと切実に思った。 クエイドとビッグスは村長に村民を中央の広場に集めることを約束させると応接室から出る。 これ以上この男と一緒にいるのははっきり言って体に悪い。 その事に関してはクエイドとビッグスは意見の一致を見ていた。 ビッグスが玄関のドアノブに手をかけ外に出る。 それにクエイドが続くようにドアノブに手を伸ばそうとしたその時…… クエイドの手が止まる。 クエイドは顔を動かさず視線だけを後ろに向ける。 ……誰かに見られている。 直感的にそう感じた。しかし、死角に入っているのかその『視線』の主は目に入らない。 クエイドは振り向く。 しかし、一階には人の姿はまるで見えなかった。 自然と視線は二階へと移っていく。 クエイドの視線が完全に二階に移ったとき、一人の少女の視線とぶつかった。 その事に一瞬驚いた様な表情を見せた少女だったがすぐに笑顔をクエイドに向ける。 「声かけようと思ったらふりむくんだもん。後ろに目でもついてるのかと思った。」 そう言った少女はまさに『少女』だった。 まだ十分に『幼い』その愛らしい顔立ち。年齢はおそらく16,7歳だろう。しかし、そのコロコロと変わる表情は彼女を時としてさらに幼く見えさせる。 茶髪のストレートの髪はまるで羽毛のように軽く透きとおって見える。髪は長くもなく短くもない。クエイドは髪型にはそんなに詳しくはなかったが『ボブスタイル』という奴なのかもしれない。その愛らしい顔つきと髪型があいまって少女を魅力的にしている。 「今そっちに行くね。」 そういうと少女は軽い歩調でタンタンとリズミカルに階段を駆け降りてくる。 目の前に現れた少女は先程よりもさらにそのしぐさ、服装、表情が分かり幼さと愛らしさに拍車をかけている。 瞳の色は淡いグリーン。碧眼という奴だろう。淡いその緑の光を放つ瞳は、クエイドの蒼い瞳が冷淡な氷をあらわすとするなら、草原、光降り注ぐ森林、そういったものをイメージさせる緑色だった。 服装はゆったりとした多少彼女には大きいセーターと、黒のロングスカート。 思っていた以上に華奢な体つきの彼女が大きめのそのセーターを着るとさらに幼さく、そして愛らしく見える。 ……と、普通の男ならそう感じているだろうこの愛らしい美少女もクエイドにとってはただの風景。刹那の映像の一つでしか過ぎなかった。 ……まだ、『この時』は。 「あなた、軍の人なんでしょ?」 少女の言葉に「またか」と内心嘆息しつつ、しかしあくまで顔は無表情で答える。いつものように用意してある『言葉』で。 「いや、軍じゃない。俺はギルド派遣員だ。」 『ギルド派遣員』という言葉に一瞬少女の顔が強張る。 (やはり、この少女もか……) クエイドはいつもの、何十回何百回と見てきたその表情にため息を吐きたかった。 世間ではギルド派遣員の恩恵というものがほとんど認められていない。 大規模な災害等では必ずといっていいほど出動しているのだがその多大な効果は軍、政府、民間人にも今一つ認められていないのが現状である。ただ、軍と政府はギルドの存在を煙たがる反面その有効な活用法にも着眼し、切っても切れない関係にはなっている。 しかし、民間人からすれば武力を行使し、平均して粗野な派遣員を友好的に見るのは少数派だった。……最も彼らのギルド派遣員への意識の根底を築きあげてしまった過去、そして今の派遣員たちの責任も大きいのだが。 しかし、少女から飛び出してきた言葉はクエイドが予測していたものとは大きく異なった。 「…じゃ、父さんが酷いこと言わなかった?ごめんね。うちの父さん、ギルド派遣員の事毛嫌いしちゃってるから…こんな遠い村まで来てくれたのに。ここ、来るの大変だったでしょ?この村、都会からかなり離れてるから…」 少女の意外な言葉に少し動揺しつつ、だが顔はあくまで無表情に冷淡にクエイドは言う。 「…それが俺達の任務だから…」 『任務』という言葉に少し思案して少女は言葉を続けた。 「…『任務』って仕事だよね?だったらやっぱり偉いよ。」 そう少女は笑って答えた。 ……全く意外だった。考え付きもしない言葉だった。 今まで幾度となくこなしてきた任務でそんな言葉をかけられたことなど一度としてなかった。 投げかけられる言葉はいつも冷たく、見下した言葉達だった。 しかし、この少女の言葉にはそういった感情を全くなくむしろ暖かく心地よくすらある言葉だった。 この少女はギルド派遣員がどういうものかを理解してはいないだろう。 ただの世間知らずなのかも知れない。 しかし、ギルド派遣員がどういうものか噂くらいは聞いた事があるだろう。 『人殺し集団』『金が全て』『戦争請け負い屋』…… 影で、いや、表でもそう言われているだろうギルド派遣員に対してこの少女は暖かい言葉を言ったのだ。 クエイドはそこまで考えて、自分がかなりしゃべりすぎている事を自覚した。 『しゃべる』と言ってもほとんどクエイドと少女は数回言葉を交わしただけなのだがクエイドにとってはそれがかなりの時間、自分がしゃべっている様な気がした。 「もうそろそろ行くよ。……他の仲間が待っているから。」 自分の言葉に少し違和感を覚えながらクエイドはそう答える。 『仲間』…・その言葉に違和感を覚えずにはいられなかった。 本当は『仲間』などではなかった。ただ仕事を一緒にこなしているだけ。自分と『その他』。 そう、自分以外の別の『誰か』でしかないのに。 しかし、その事を少女に言うつもりはさらさらない。 クエイドは直感的にこの少女に好意を抱かせるような口調、態度をとっていた。 この少女は『あの』村長の娘だ。……似ても似つかないが。 この少女をうまく取り込んでおけば後々面倒が少なくなりそうだ。そう、考え付いての事だった。それ以外、理由はなかった。 「……そっか。じゃ、仕事…じゃなかった『任務』、がんばってね。」 少女の言葉にクエイドはうなずくだけだった。 少女から背を向けドアノブに手を伸ばした時、全く突然に少女の声が響く。 「私、サリーナ。サリーナ・レイフォンス。あなたは?」 突然の不意打ちでいきなり名前をつげられさらに自分の名前を知りたがる少女に完全に意表をつかれてしまった。 いつもなら『興味ない』とか『どうでもいい』と相手の出鼻を挫くのだが今回は完全に少女−サリーナに先手を打たれてしまった。 しょうがなくクエイドは答える。あくまで無表情で感情等微塵も存在しないように。 「俺は……クエイド。クエイド・ラグナイトだ。」 この何でもない二人の出会いが二人の生き方、考え方、そしてこの『星』の運命すらも変えていく。 それが『偶然』なのか、『必然』なのか分からぬまま…… だが、後にクエイドはこう思う。 『俺は……サリーナに出会うまで『生きて』いなかった……』と。 (Continue) ちょこっと秘話2============================================================= | TOP || BACK || NEXT | |