EARTH
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| 第7章「天空の城 過ぎ去れし残影に映る過去と今(エピローグ)」 ============================================================= 方舟は――消滅した。 世界中の『瞳』が目を向けるその中で方舟は忽然と姿を消した。消えた方舟が現われる事は二度となかった。 軍事衛星が捉えたその光景は絶句の一言に尽きただろう。 方舟の周囲を巨大な立体型魔方陣が包んだかと思われた瞬間に消滅したからだ。方舟から脱出出来た者達はいなかった。方舟から離れようとする飛空艇も軍事衛星は捉えていたが、去来するドラゴンによって次々に撃沈されたからだ。何人もの人を連れたまま方舟は消えた。ただ、軍事衛星が捉えられないままその場を去った者達もいた。 サリーナ、ネロ達、ガーランド、ドラゴンの王達…… そして――自身の物語を一先ず終わらせ、愛する少女へと受け継がせた者。 「……方舟に展開していたトリニティ平和維持軍第2空中艦隊は飛行戦艦『飛鳥』・『荒鷹』が撃沈。飛行戦艦『白鷺』・『黒鷲』が中破。旗艦・空中空母『回天』は奇跡的に軽度の損傷で済みました。航空部隊に関してはほぼ壊滅。ガレリオン洋に展開していた第2艦隊に到っては全滅という状況です。」 円卓を囲んで話される男達の声は酷く沈んでいた。 豪奢なシャンデリアの光は光量が乏しく、男達に影を落としていた。 「百万のモンスター……想像を絶します。」 軍服に身を包んだ男の声は震えていた。その事に気付かないふりをしながら、別の軍服の男が言葉を継ぐ。 「対艦ミサイルに積まれている高性能爆薬HMXオクトーゲンの爆発力は確かに凄まじいものです。しかし、それは一個の目標に対してです。トリニティ平和維持軍――もちろん我々もですが――には多数の目標を殲滅出来得る兵器がありません。」 その言葉に全員が押し黙った。ここにいる男達は皆、軍服を纏っていた。襟についている階級証は全て左官クラスを意味していた。 「今回のモンスターの行動、たまたまという事は……」 「たまたま?あれほどの数のモンスターを観測したのは今回が初めてですよ?しかもトリニティ平和維持軍の平和維持権発動時に。これらに関連性がないはずはない。」 「……つまりはモンスターにも意思統一された軍隊のようなものがあるという事か。」 無意味な言い合いを止めるように言われた言葉に皆が黙った。円卓の上座に座っていた男が始めて語った言葉だった。国防省長官ガブリエルの眉間には皺がいくつも刻まれていた。それは今まで見た中でも最も辛辣な表情だった。そのために彼らは黙らざるを得なかった。その言葉に返す言葉を紡げたのは彼の左隣に座っていた帝国統合軍参謀長ログナーだった。 「……恐らく。しかもまるでトリニティ平和維持軍の動きを事前に知っていたような節すら見受けられます。」 ログナーの言葉を聞きながら、ガブリエルは眉間をほぐした。それで渋面が治る訳ではなかったが、きりきりと痛む頭痛は少しだけ和らいだようだった。 「――で、我が軍に今回と同様の規模で襲撃を受けた場合、これを迎撃する力があるのか?」 「……はっ……それは……」 瞳を向けられ、言葉を濁す陸軍の長を同情の目で海軍、空軍の二人も見ていた。 「……首都は何とか防衛出来るというのが精一杯でしょう。数が違いすぎます。」 しっかりとした回答を下さない陸軍参謀司令を遮り、ログナーがそれに答えた。ログナーには彼らの気持ちが分かった。三軍を統合する帝国統合軍司令部の長として、三軍の戦力がどのくらいか目算とは言え、ログナーに分かっていた。 ガブリエルは吐息を一つ吐き出して天井を見上げた。豪奢なシャンデリアが煌びやかに光を放っている様は何かの皮肉に思えた。 砂上の楼閣――幾度か語ったその言葉をそのシャンデリアが体現していると皮肉めいて思いながら内面を曝け出す。 「……これは何かの悪い夢かな?」 ガブリエルの言葉はその場にいる全員の心情を代弁していた。 「……方舟の消滅、ご苦労だったな。」 モプフィス大森林の最奥地で、ラグナを前にしながらガーランドは苦笑を浮かべながら呟いた。一体何年そこで生きてきたのか考える事すら無意味なほど巨大な木の根元で白と赤を基調とした神々しいまでに美しいドラゴンが少しだけその長い首をもたげて、黄金の瞳をガーランドに向けた。 <……ああ。それよりも『NOVA』の復活……成し遂げられなかった代償は大きいぞ。> 「そうだな。だが、想定していなかった訳でもない。」 <言い訳にしかならないだろう?> ラグナの思念にガーランドは苦笑の色をさらに濃くするしかなかった。それでも苦笑を消すと微笑みを浮かべる。 「『出来損ない』が生きているだけでもマシだ。目覚めさせる方法はある。しかも、あいつ……俺に何て語ったと思う?」 ラグナの興味の無さそうな瞳から視線を逸らして空さえも見えない、深い森の葉を見ながら、ガーランドは呟いた。 「『俺は出来損ないの人形のまま生きる』だと……あいつ、自信に満ちた表情でそう言ったんだ。全てはこれからだよ。先のトリニティとの戦いで俺達の問題点も浮き彫りになった。『本体』との決戦の前に分かったんだ。今回は痛み分けという事にしようじゃないか。」 <その代償がドラゴンの精鋭とカイラスか……大きな代償だな。> いつもと違って食って掛かってくる物言いを不可解に思っていたガーランドはその言葉でようやく理解した。ラグナはカイラスを捨て駒のように利用した事が面白くはなかったのだ。ドラゴンの最高位にある神竜がそんな些細な事に心を痛めている様がガーランドにはどこか可笑しかった。 「大きくもないだろう?トリニティは十分とは言えないとはしてもかなりの戦力を失った。我々もドラゴンの精鋭を失ったがそんなものは全体の中ではほんの僅かだ。カイラスにしてもしょせんは獣魔術士……NOVAとの最終決戦では何の役にも立たない。得た物と失った物を比べても我々の方が得た物は大きい。」 ガーランドはそれで話し合いは終わりだと言いた気に踵を返してラグナの元を去った。その後ろ姿を悲しい面持ちでラグナは見ていた。 この青年が言っている事は全て正しいだろう。 だが、感情を失って星のためだけに生きる事を運命づけられた魔王の存在がこの星の歪めいた姿と照らしあわされたようで、空しさが去来した。 私の姿をした人を見て、ああ、これは夢なのだとすぐに分かった。 サリシアーナ……私の前世。その少女は微かに微笑んで「こんにちは」と呟いた。 私は返事をして頷いた。前のようにそれを奇妙だと感じる事もなく。 「――運命は死ななかった。」 「うん。そうだね。」 どこか悲しいお互いの表情にサリーナは苦笑を浮かべそうになった。まるで鏡を見て一人二役を演じているようだと思った。そんな事を考える事が出来るのは自分に余裕が生まれたからだと思った。 「黄金の杖も役には立たなかった。」 「そんな事ないよ。これから……」 『これから』…… 自分が呟いたその言葉が力を与えてくれる。まだ、諦めていない。私は前を向いている。そう思えたからこそ、心の底から力強く微笑んで、サリシアーナに言う。 「これからきっと役に立つよ。クエイドを見つけなきゃだし。」 サリシアーナは優しく微笑みながら「そう……」と呟いた。まるで母親のようだと思って、サリーナは笑った。心の中が少しだけ温かくなった。 記憶の中にはほとんどない実の母親の面影を目の前の少女に照らし合わせている。 そう自覚した時、そう言えばクエイドにも本当の母親の面影を照らし合わせていた事を思い出した。彼の瞳はもう最初の頃のような氷の瞳なんかじゃない。 その瞳をもう一度見るために、私は彼をきっと見つける。 「今日はお別れにきたの。」 彼女の言葉も驚かずに聞けた。彼女を見た時からそんな予感がした。だから、今までの事を振り返って掛けるべき言葉を探した。 浮かんだのはありふれた言葉だった。でも、それが一番伝えたい言葉だった。 「……ありがとう。私、クエイドを見つけるよ。だって……彼を愛してるから。」 彼女は最後に微笑んだ。その彼女の後ろにぼんやりと誰かが立っていた。 その輪郭が徐々に浮き彫りになってきて、私は少し安心した。 彼女を支えるように立っていたのは青と白の軽装の甲冑を着たクエイドに似た青年――クライドだった。二人が温かい視線を送ってくれた。「がんばって」と声援してくれているような気がした。 二人が少しずつ光に吸い込まれていくのを私は微笑みながら見送った。 涙は流さなかった。今度涙を流すのはクエイドに会う時だって決めていたから、それがどんなに悲しい別れでも笑って送りたかった。そうしなさいと彼女たちが語ってくれているような気がしたから。 彼女達の姿が光に包まれた時、サリシアーナの声が聞こえた。 その声は私への最後の贈り物。 辛い時、悲しい時、諦めそうな時、そんな時に私に力を与えてくれる贈り物。 クエイドはいつでも私の本当の微笑みを探していた。私にその事を気付かせてくれた。 だから、クエイドに会う日まで私は本当の私の微笑みを探し続ける。 目が覚めればきっと、嫌な事もあると思う。どうしようもない事もあると思う。どこにクエイドがいるのかも分からない。 それでも、クエイドはきっと待っている。私が知っているクエイドを見つける時を。 だから、前を向いて、背筋を伸ばして、進んでいく。 彼の『愛している』の声が思い出させてくれた彼との『想い出』を道標にして。 私は――彼を見つけてみせる。 忘れないで サリーナ
クエイドの心の扉を開くのはあなたなの だから 泣かないで だから 諦めないで だから 笑って クエイドの心はあなたの笑顔の先で待っているから EARTH
第2部 完
(Continue)
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