それぞれにそれぞれのはじまり

場所:東京郊外・アストラル道場
時間:午前8時過ぎ



・・・もしかして、潰れてんの・・・?

道場の前に立ちつくしながら、森原麗香(もりはら れいか)はその顔に唖然とした表情を浮かべていた

 その彼女の眼前・道場の扉には「債権者のみなさまへ 云々・・・」とかかれている紙が貼り付けられているのである。
 「新興女子プロレス団体が所属選手を募集しているらしい」という某スポーツ紙の記事のみを頼りに上京してきた麗香にとって、この張り紙はまさに寝耳に水の自体だったのである。

 「なんてこったい・・・」
 苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべ、自らの頭をがしがしとかいていく麗香。
 「・・・でも、変でございますわねえ・・・」
 と、その横に立っているもう一人の少女が怪訝そうに首を傾げていく。

 院条東雲(いんじょう しののめ)。京都出身の彼女は、広島から上京していく途中だった麗香と偶然新幹線の隣の席に居合わせ、ともにこの「アストラル」(とは知らなかったのだが)を目指していた事もあって呉越同舟でここまでやってきていたのである。

 「なんで?」
 聞き返す麗香に、東雲は右の人差し指で道場の横の一角を指さしていく。
 「?」
 指された先へと視線をやった麗香は、それを見やった後、しばし無言を保つと
 「・・・洗濯、もの・・・か?」
 まんじりともしない表情を浮かべながら、麗香はそちらの方へと歩を進めていく。
 
 その先には、確かに洗濯物とおぼしきTシャツと短パン、それに数枚の下着類が道場の軒先のあたりに無造作にぶら下げられていたのである。

 「あのお品、まだ水が滴っております故、まだどなたかがお住まいになっておられるということではないのでございませんでしょうか?」
 そう言うと、東雲はにっこりとその顔に笑みを浮かべていく。
 「・・・そりゃあ、そうだけど・・・」
 干されている品を見やりながら、麗香はその眉間にしわを寄せていく。
 「差し押さえられて、やくざの下っ端が住み込んでいるって事もないとはいえねえんじゃ・・・」
  べこっ!!
 と、その時、不意に麗香の後頭部に激しい痛みが走った。
 「あんた、恥女?人の洗濯物盗もうなんて超ムカつくう!!!」
 「はああ?」
 その言葉に、麗香は痛む後頭部をさすりながら後方を振り返っていく。
 げしっ

 再度、その顔面に激しい痛みが走る。
 麗香の後方に立っていた1人の少女が、その手に持っていた竹箒をフルスイングしたのである。

 ・・・な、なんなんだ、一体・・・

 自体が飲め込めないままに、麗香はその場に倒れ込んでいったのだった。

 「で、何?おたくもこの恥女のお仲間なわけ?」
 再度手の竹箒を握りなおしながらその少女、新羅ひなのは、この自体にも一切おかまいなしといった風に穏やかに立ちつくしている東雲へと向き直っていく。
 「あのお、私は、ただ、この御土地に参りましたら女子プロレスの団体に入門させていただけると伝え聞きまして、こうしてはせ参じさせていただいた次第なのでございますが・・・」
 そう言うと、東雲はその場に優雅に正座座りし、眼前のひなのに対し恭しく一礼していく。
 「以後、お見知り置きよろしくお願いいたします。」
 「は、はあ、こちらこそ・・・」
 その、東雲のよどみない洗練された言葉の前に、ほとんど気圧された格好となったひなのは、つられるように自らもその場に正座していったのであった。


 ・・・む、むくわれねえ・・・

 その横で、麗香は顔面を両手で押さえながら、頭部をおそう痛みに必死に堪え忍んでいたのだった。