それぞれにそれぞれのはじまり
道場にて




場所:東京郊外・アストラル道場内
時間:午前10時過ぎ


 「悪かったってばあ。」
 道場の中央に位置しているリングに腰掛けながら新羅ひなのは屈託ない笑顔を眼前の森原麗香へと投げかけていた。
 「・・・まあ、いいけどさ。」
 先ほど、痴漢呼ばわりされた挙げ句に顔面を箒で殴打されたばかりの麗香は、その顔に憮然な表情を浮かべながらややうつむき加減に下方へと視線を向けていた。
 「まあ、某か人には「ものの哀れ」を体言すべき旨もございますでしょうし。」
 その隣で、院条東雲は柔和な笑顔をその口元に浮かべていた。

 と、その東雲の言葉に対し、ひなのは露骨にその顔を曇らせる。
 「????おたく、中国の人?」
 東雲の眼前に自らの顔を寄せ、右の人差し指で東雲の鼻の頭をつんつんとついていくひなの。
 「は?」
 その言葉に、東雲は柔和な笑みを壊すことなく受け答えしていく。

 ・・・どっちもどっちじゃねえのか

 その光景を横目に見やりながら、麗香は道場の奥に見えている水道の方へと歩を向けていった。


同じ頃・道場の周辺

 ・・・確か、この辺のはずなんだけど・・・

 手に、地図とスポーツ新聞を携えたまま、吉河原美那は周囲をきょろきょろ見回しながら途方に暮れたような表情を浮かべていた。

 ・・・とりあえず、こいつ(スポーツ新聞)にのってた情報じゃ、このあたりのはずなんだよね。

 再度、その視線を周囲に向けていく美那。
 
 ・・・周りにある物って言えば、トラックの操車場と住宅だろ、あと、薄汚い倉庫が1つあるだけじゃない・・・

 再度、途方にくれた美那は大きく天を仰いでいく。


 その美那と、ちょうど10m程度西よりの道路の上で、原田綾子はその顔をしかめさせながら、眼前の薄汚い倉庫(吉河原美那談)を見やっていた。

 ・・・やっぱ、あそこなのか?

 綾子自身、昨日からこの周囲を調べ続けており、その結果、どう考えてもこの眼前の薄汚い倉庫(吉河原美那談)が自らが探している「アストラル」の道場であるとの回答にたどり着いていたのであった。

 もっとも、 薄汚い倉庫(吉河原美那談)と言われてもしょうがないであろう。
 その薄汚い倉庫(吉河原美那談)は、周囲が今時珍しい木の板張りとなっており、いかにも昔からあった倉庫を改造しているというのが一目瞭然なのである。しかも、その周囲は部分的には除去されているのだが、かなり雑草が生えまくっており、土地の周囲に打ち込まれている木の杭がなければ、どこまでが敷地でどこからが空き地なのかまったく区別がつかないといった有様なのである。

 
 「・・・ま、とりあえず、行くだけ行ってみるか・・・」
 スポーツ新聞を握りしめたままの右手を大きく天に向けてのばし、簡単に伸びをしながら綾子はその薄汚い倉庫(くどいようだが吉河原美那談)へ向かって歩を進めていったのだった。


 ・・・やっぱ、こういうことって、最初が肝心よね。

 アストラルの道場の前に立ちつくしながら、浅丘沙羅は高鳴る鼓動に頬を紅潮させながらも、ぎゅっとその口元を引きしめていった。
 
 しばしの間
 
 ・・・よしっ!!・・・

 意を決したようにその歩を進めると、沙羅は一挙動で道場の扉を勢いよく開き
 「たのもーーーーーー!!」
 と威勢のいい声を張り上げていく。

 「・・・お元気でございますこと。」
 その喧噪に、思わず後退さった新羅ひなのに対し、院条東雲は眉一つ動かすことなく、その顔に柔和な笑みを浮かべたままの表情を、入り口に立っている沙羅へと向けていた。

 ・・・え、えっと、挨拶はこ、こんなものよね・・・だから、次は・・・えっと・・・
 やや、緊張の面もちのまま、その場に立ちつくしている沙羅は、緊張ゆえに内心どぎまぎしながらその場に立ちつくしていた。
 「あ、あの、あたしは・・・」
 と、言いかけたまさにその時だった。
 ばふん
 不意に、その沙羅の後頭部に柔らかな、それでいて有無を言わせない圧力がいきなり襲いかかってくる。
 「う、うあ・・・」
 不意をつかれた格好の沙羅は術もなくその場に倒れ込んでいく。
 むぎゅ
 立て続けに、その後頭部を何者かが踏みつけていく。
 「こおんにちわあーーーー」
 唖然とするひなのと、相も変わらぬ微笑を浮かべたままの東雲の眼前で、ほとんど(というより完全に)沙羅を踏み倒した格好で道場に入ってきたその少女、黒部真琴は、沙羅の後頭部をなぎ倒した、自分と同じくらいの大きさのあるてテディベアのぬいぐるみを抱きかかえ、つば広の帽子にレースのひらひらがこれでもか!とコーディネートされているピンクハウス系の洋服に身を包んでいるという格好で、たまたま同時に道場の門をくぐっていた少女、上領いつかと一緒に、てくてくと道場内へとその歩を進めていたのだった。
 「ここから、あたしの輝かしいスターロードが始まるんですねえ。」
 真琴は、その両目を少女漫画風にきらきら輝かせながら、そのスカートの裾をひらりとさせながらその場でくるりと一回転していく。

 「そうでございますかねえ。」
 あははと力無く笑うひなのとは対照的に、東雲はなおもその顔に穏やかな笑みを携えたまま、真琴を見やっていったのだった。
 
 「ち、ちょっと、あんたねえ!!」
 その足下に倒れ込んでいた沙羅は、そのやりとりを聞き終えると、怒声この上ない声を上げながらその場にグバっと立ち上がっていく。

 ・・・あれ?・・・

 と、その沙羅の周囲が不意に暗転する。
 そのいきなりの事態に、」沙羅は一瞬何が起きたのか把握する事ができず、しばしその場に立ちつくしていく。
 「やあん、すけべ〜」
 不意に、真琴の黄色い悲鳴があがった。
 その次の瞬間、沙羅はすべてを把握した。
 そう、自らの眼前に見え始めた白い物体・・・それが、真琴のはいているくまさんパンティであり、自らが、現在真琴のスカートの中に首を突っ込んだ格好になっているという事実に・・・。


 「・・・なんなんだろうねえ、一体・・・」
 道場に入ってきた原田綾子は、道場の中を見やりながら、その顔に苦笑を浮かべていた。

 その視線の先では、おいかけっこを繰り広げている沙羅と真琴、そしてそれを楽しそうに見やっているひなのと東雲の姿があった。

 「ま、いいんじゃないんです?楽しそうで。」
 不意に後方から声をかけられ、綾子は肩越しにそちらを振り向いていく。
 そこには、ラフな格好に身を包んだ一人の少女が立っていたのだった。
 「あんたも、ここにやっかいに?」
 小さな笑みをその口元に浮かべながら問う綾子。
 その言葉に、ほほえみ返しながら、少女は自らの右手を差し出していく。
 「あたしは、安西悠。」
 「綾子、原田綾子ね。」
 そう言い合うと、2人はがっちり握手を交わしていったのだった。
  
 「あ、あの、皆さんも入門志願の方なんですか?」
 不意に、その後方から再度声がかかる。
 その声に、肩越しに後方へと視線を移していく綾子と悠。
 その視線の先に立っていた少女は、その2人の目を交互にきっちりと見つめながら、一度自らの姿勢を正し
 「自分の目的を見つけるためにこの団体にお世話になりに来ました相澤樹と申します。なにぶん、若輩ものですので 右も左も解りませんが、何とぞよろしくお願いします。」
 そう言って、丁寧に頭を下げていったのであった。
 「ああ、こっとこそよろしく。」
 そう言うと、綾子は、右手でぽんと樹の肩を叩いていく。
 「同じ同期になるわけじゃない、肩ぐるしいのは抜きにしようよ。」
 悠はそう言いながら、樹に向かって笑いかけていたのであった。
 


 「ほんまに、こないな感じでやっていけるんかいな。」
 道場の外。窓から室内の状況を見やりながら、黒澤玲は、あははと笑い続けていた。
 
 ・・・その光景を、たまたま玲と同じ窓から見やっていた守崎舞は、口のガムをくちゃくちゃ噛み続けながら、冷めたような視線をその状況へと投げかけていたのだった。

 「ま、つまらんなら、あたしがおもろくしてやるだけやさかい、一丁きばったろかいな」
 玲は。一人言い放つと、足下に置いていた荷物を肩に担ぎ直し、道場の入り口の方へと向かってその歩を進めていく。
 「あんたも仲間やろ、一緒にいこうや。」
 今だに窓辺に立ちつくしている舞に対し、屈託ない笑顔を浮かべながら声をかけていく玲。

 ・・・・・・

 しかし、舞は無言のまま、その言葉に一切の反応を示さない。

 ・・・・・・なんや、愛想ないな

 所在なげに、一度頭をポリポリとかいた玲は、最後に一度だけ、肩越しに視線をやった後に、再度どの歩を進めていったのであった。

 ・・・あたしは、仲良しこよしをするためにこの団体を選んだ訳じゃないんだよ

 じっと、道場内の様子を見やりながら、舞はその右腕をぎゅっと握りしめていったのだった。