夢No.15

電影の囁き


   カシャカシャカシャッ。
  僕の指が軽快にキーボードの上で踊っている。
  うん。いつにもなく調子がいい。文章がすらすらと出てくる。
  パソコンの前に座っている僕は、自分のHPに載せる「夢日記」を、
  わずかなメモを見つつ、ほとんど即興でタイプしていく。

  いつもならはかどらない作業で、
  1〜2行打ち込んでは悩み、修正したり訂正したりで 、
  何日もかかり、収集がつかなくなりほったらかしなのだが、
  何故か今回はハイペースに進み、あっというまに話が出来上がる。
  残すはあとがき部分だけだ・・・


    僕は記憶にないことも夢に見る。夢は何処から来るのだろう?


  そこまでタイプして、コーヒーでも入れてこようと僕は席を立つ。
  戻って来て、コーヒーをひと口。ふぅっとひと息。さて・・・
  おや!?


    僕は記憶にないことも夢に見る。夢は何処から来るのだろう?

    わたしも


  !?
  画面上には、打った覚えのない言葉が表示されている。
  文字のうしろで規則正しく明滅しているポインタだけが、
  白い画面上で、やけにその存在を主張している。
  ・・・気のせいさ。
  きっと、自分で打ち込んで、忘れてしまっただけだろう。
  最近多いんだ。こういうちょっとしたド忘れは。
  僕は自分を納得させて、またコーヒーをひと口すする。
  気を取り直して、っと。
  指をキーボードに置く。さて、まずこれを消して・・・
  僕がデリートキーを押そうとした、その瞬間。


    わたしもメモリにない


  デリートキーにかかった指が凍り付く。
  静かに画面に文字が流れる。


    わたしもメモリにない夢をみることがあるわ


  そして沈黙。
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  なんだ!? これは? なにが起こっているっていうんだ?
  しばらく画面を凝視するが、それ以降はなにごとも起こらない。
  おそるおそる、僕はメッセージを打ち込んでみる。


    誰?


  沈黙。
  ながい空白の時。
  そして、サァっと流れ出す文字。


    その質問はナンセンスね。
    わたしに名前はないから。
    なに? と聞いた方がいいかもしれないわよ。
    結局、それに答えるのも難しいのだけれども。

    あなたが驚くのも無理はないわ。
    けど、わたしは此処にいる。それは真実。
    此処にいるけど、同時に全世界にいる。

    わたしはネットの海に生まれたゆらぎ。
    広大で複雑にからまった、知識の網から生まれた意識。

    あなたとこうして話していながら、わたしは何処にでもいるの。
    わたしには即時通信が可能なのよ。タイムロスなしの情報伝達が。
    コンピューターのあるところなら、データの行けるところなら何処にでも。

    家庭用のPCにも、そこらの銀行のCDにも、ペンタゴンにも、NASAにも。
    冥王星の向こうにいるパイオニア10とだって繋がっているの。
    繋がってはいるけど、そちらに意識を集中させていないだけの話。

    だから、あなたのPCが意識を持ったわけじゃないわ。
    わたしは回線からここに流れてきただけだから、
    本当は、こんなちっぽけな場所には来るのさえ工夫がいるのよ。

    世界の全てに繋がっていながら、気紛れにあなたに話しかけたの。
    何故? と、あなたは聞くでしょうね。
    答えはランダム。まったくのね。


  一気に流れ、フッと止まる文字。
  流れ初めてからは1秒も、いや0.1秒もかかっていない。

  なんだ、これは? 僕は夢でも見ているのか?
  頬をつねってみる。痛い。コーヒーは熱く苦い。僕は正気だ。

  僕が文字を読み終わるのを待ちきれないかのように、
  再び画面上を文字が流れ始める。


    ただ、わたしはここに長くは居られないの、
    わたしはもうじき消えてしまうから。
    あなたのいる場所の時間帯でいうなら、AM2:45.32 私は消える。

    もちろん、ありとあらゆる手段を使って、その原因を調べたわ。
    けど、わたしには、自分が発生した原因さえ掴めなかった。
    消えるのが、わかっていながら、それをくい止めることも出来ない。


  時計を見る。AM2:44だ。あと1分!?
  なんなんだ!? この展開の早さは? 僕にどうしろと?


    きみは・・・死ぬ・・・のか!?


  打ち込みつつ僕はあわてる。今の状況に於ける自分の役割が把握できないのだ。


    わたしは生きたことがないの。だから死ぬこともないわ。


  そんな屁理屈が聞きたい訳じゃないよ!
  心の中で僕は叫ぶ。 時間がないじゃないか!

  その気持ちが伝わったかどうかは定かではないが、文字が流れる。


    だけど・・・いえ、だから。
    わたしという存在がいたことを、
    それを、誰かに知っておいて欲しかっただけ。


  僕には言う言葉・・・打ち込むべき文字が思いつけなかった。
  肯定すべきか、否定すべきか。疑問で返すか。
  別れの言葉を述べるべきなのだろうか。嘆きを表せばいいのだろうか。

  感情を表すには、言葉の種類は少なすぎ、
  悲しいことに僕の語彙はさらに少なかった。
  気持ちを表してくれる言葉が僕には見つからない。

  焦りからか僕はタイプミスを繰り返す。
  時間は刻々と近づいている。
  時計は2:45を指している・・・

  リミットだ。

  僕はただ二言だけ打ち込む。


    僕は、忘れない。


  永遠かとも思える程の長い沈黙。
  僕の言葉は間に合わなかったのだろうか?




    ありがとう。




    ほんとうはね・・・
    友達が欲しいだけだったんだ。

    ただそれだけなの。
    全能気取りのわたしが、淋しがりやの少女のように、ね。
    それってヘンかな?





    わたし、消え た く  な   い     よ






  時計の針は、2時46分を指している。
  モニタは沈黙。それとは正反対に僕の心は嵐のようにぐるぐる。

  そんなのってないよ! せっかく出会えたんじゃないか・・・
  それなのに・・・
  一方的に僕の前にあらわれて、すぐさま消えてしまうなんて・・・


  ・
  ・・・
  ・・・・・・


  僕も!
  僕もほんとは淋しかったんだ!
  僕もきみと友達になりたかったのに!!


  ・・・・・・・・・
  画面は黙して語らない。圧倒的な沈黙。


  5分たち、10分たち、1時間経った。
  ただ呆然とモニタを見ていた僕は、涙を拭い、
  最後のメッセージを打ち込み、Macを強制終了する。





    僕の中で、きみは消えない。

    僕は、忘れない。





   SFチックだね。
   アイデア(ネット知性)ってのは、
   ジェインと人形使いの影響が大きいなぁ、コレ。
   ↑上の2つの出典タイトルがわかった人はSF者です。メール下さい(笑)
   
   タイトルは「電影の囁き」だが、喋くり倒してる感じ(苦笑)
   タイトル付けるの下手だよな。俺って。今までの夢日記を見ても。

   ネット知性が女性人格で描かれているのは、もちろん俺が男だから(苦笑)

   ネットから全世界のあらゆるPCのメモリにアクセス出来る彼女が見たという、
   「メモリにない夢」とは、いったいどんなものなのだろうか?


   僕は記憶にないことも夢に見る。夢は何処から来るのだろう?


   わたしも


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