夢No.16

そしてめぐる季節


   なんとなく散歩をしていた僕の目に、丘が映る。
  僕は引き寄せられるようにその丘を登る。
  5月中旬。葉の緑が目に眩しい時期だというのに、
  何故かその丘の上だけは、満開の桜が咲き乱れている。
  丘の上に着き、驚く。

  麓からさえ見えた満開の桜、
  なんと、それはたった1本の桜の樹のものだった。
  しかも、ありえないことに、その幹は普通の桜程の太さしかない。
  天を覆う程の枝葉を伸ばし、
  大量の桜を咲きほころばせているにもかかわらず、だ。
  僕はその樹の元で桜に魅入る。

  涼しげな風が吹く。
  はらはらと舞い散る桜の花びらが、とても美しい。
  だが、この圧迫するように胸にせまってくる哀しさは、
  いったいなんなのだろう?

  はらりと落ちた一片の花びらが、僕の首筋をするりと撫でる。
  ぞくり。
  なんというなまめかしい感触なのだろうか。
  僕の股間は知らずに屹立している。

  ・
  ・
  ・
  ・

  桜の樹の下には死体が埋まっている。

  そんな言葉がふと、脳裏をよぎる。
  艶のある桜は、根元の死体から養分を吸収して咲き狂うそうだ。

  「掘ってみるかね?」

  突然の声。僕は思わず飛び上がってしまう。
  振り返るとそこには、小柄な、いかにも好々爺といった感じの老人が、
  身体の前のスコップを杖のように使い、立っている。
  「なに、儂もおまえさんと同じようなことを考えておってな。
   じゃが、なんせこの老体じゃ。
   こいつを持ってくるので手一杯じゃわい」
  スコップの柄を、ぽんぽんと叩きながら、破顔する老人。

  紙をくしゃりと丸めたような笑い方だな。
  顔中しわくちゃだ。
  僕は人の良さそうな老人に安心し、そんな場違いなことを思っていた。

  なんとなく、その場の流れでスコップを受け取ってしまった僕。
  が、スコップを手にした途端、なにかに引きつけられるように、
  桜の根本の、ある一画に目が釘付けになる。
  きっと、ここだ。
  本当に死体が埋まっているなど、信じていない筈なのに、
  僕には何故だか、そんな確信があった。
  ざっざっざっ。
  しばらくは無言で体を動かす。
  少し離れた場所に立っている老人が、ちらりと視界に入る。
  桜を見ながら、一杯やっているらしい。 いい気なもんだ。
  と、
  ガチン。スコップがなにか硬いものに当たる。
  ざっ・カチン・ざっ・ガツッ・ざっ・ざっ・ガチィン
  堅い場所を探りつつ、周りを掘り広げてみる。

  どうやら、絡み合った根がそこだけ瘤状になっているらしい。
  それにしても、案外細いのに、ずいぶんと堅い根だ。
  スコップが刃こぼれしはじめているのに、僕は今更ながら気が付く。
  スコップをほうり、素手で挑む。
  なんと、あんなに堅く絡み合っていた根が、
  驚くほどあっけなくほどけていくではないか。
  僕は木の根で出来た繭を、ぐいぐいと開いていく。

  桜の樹の下には死体が埋まっている・・・・・・

  頭の中で繰り返される、そのフレーズ。
  だが、僕の両手は動きを止めることなく、木の根をかきわける。
  見えた!
  青白いロウのような肌の一部がのぞく。
  なんて綺麗な状態のままの死体なのだろう。
  僕はそんなことを考えつつ、
  とにかく一刻でも早くその全貌をみようと、必死になる。

  !?
  そこにあらわれた姿を見、僕は声もでない。

  桜の木の根に抱かれるように、青白い肉体を横たえているのは・・・僕だ。

  ・
  ・
  ・
  ・

  「ふむ。やはりのぅ」
  !?
  驚き振り返ると、あの老人がいつの間にか背後に立ち、
  後ろから僕を・・・・・・ぼくたちをのぞき込んでいた。
  老人の存在をすっかり忘れていた僕は驚き、うろたえる。
  こんな姿で横たわっている僕を他人に見られるということに、
  ひどく抵抗を感じ、僕は自分の体を盾に自分を隠す。
  老人は、ただ、じいっと僕の目をみる。
  狼狽が去ると、先ほどの老人の言葉が頭に甦る。
  やはり、と言わなかっただろうか?
  この人は、なにか・・・いや、すべてを知っているに違いない。

  「いったい、これは・・・?」
  僕はおずおずと質問を口に出す。


  「それは、見ての通り、おまえさんじゃ。
   そして、この桜は、おまえさんの幻。

   おまえさんの未練が、春を呪縛し、亡霊にしておるのじゃよ・・・

   よいか? 去りゆく季節を追ってはいかん。

   季節というものは、巡るものじゃ。
   去りゆく季節は追うでない。来たる季節を拒むでない。
   ただ受け入れるのが肝要じゃ。
   ただただ、共に在れば良いのじゃて。

   おまえさんになら、わかるじゃろう?」


  ああ、そうか。
  そういうことか。

  僕の中で、なにかがふっつりと切れる。

  ぶわっ。

  一瞬で、天を覆っていた全ての桜が散り始めた。
  散る、というか、それは天に昇って吸い込まれていくようだった。
  そして、普通のサイズに戻った桜の枝は、
  輝かんばかりの緑を茂らせている。

  木の根に抱かれていた方の僕は、根が収縮すると共に、
  だんだんと実体を無くし、霧のように消えていった。

  「あなたは・・・」
  僕は老人に問いかけようと、いや、確認しようとする。
  が、すでに、その姿はどこにもみあたらない。

  最後の桜の花びらが、一枚。
  ふわりと僕の手のひらに止まり、すぅっと消えていく。
  僕は、あの僕が消えていく最後の瞬間、
  その頬に桜色がさし、口元が一瞬、笑みを形作ったことを思い出しながら、
  ゆっくりと丘を下りていく。


  そして、季節はめぐり、僕はここにいる。



   う〜ん。
   この、あからさまに季節と恋愛をかけた夢っていうのは、どうか。。。
   しかも、実際はこんなにあっさりいかないモンだっていうのにさぁ。
   まぁ、けど、一応救いのある夢だから、良しとするかな?

   ちなみに、コレの原型を読んだ人から、
   「ネクロフィリア。死姦愛好者で、なおかつナルシスト!」
   という、高い評価を頂いたという一品です・・・・・・(苦笑)

   いつものように、夢日記原本と比べると違いが多い。
   一例を挙げてみると、原本のメモにある

    カア
    桜の薄紅色と、全く対照的な漆黒の鴉だ。
    隻眼の鴉は老婆のような声で喋り始める。

   というシチュエーションが、まるごと削除。
   だって、全然整合性ナイんだもん。。。
   あ。けど、それでもう一編作れるかもなぁ(笑)


   ちなみに、今回の夢日記。
   催促してケツ叩いてくれる人がいなかったら、
   たぶん、あと一ヶ月はUpしなかったであろう(苦笑)

   遅筆な作家付き編集者のような、その人たちに感謝をこめつつ。


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